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第22話 天使の柱
第22-1話 DT来客に慌てる
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○ 来客
しばらくは、落ち着いた日々が流れています。季節は冬。しかし、雪が降るわけではなくどちらかというと乾期に近い。
焼かれた薬草の畑は、モーラの爪のアカをまぶして、本来の繁殖地に似せた環境に近づけてしばらく様子を見ています。無理矢理株分けなどせず、自然にまかせることにしましたが、少しずつなんとかなじんできているようです。
馬たちは暇そうにしていて、時折厩舎を出て走り回っています。そうそう、干し草乾燥用のサイロを作ってみたのですが、干し草の味が気に入らないらしく、少し遠いところにある牧草をサイロに入れ直した経過があります。まあ、あの子達が満足そうにしているのがなによりです。
パムは、レイとユーリと共に他国に旅をして、長期間いなかったりしています。帰ってきてから話を聞くと、やはり、ロスティアとの一件にだいぶ尾ひれがついて伝わっていて、私の存在はほとんど魔王扱いになっているそうです。そんなことをぼーっと考えていたのですが、
「ただいま帰りました」
そう言ってパムが扉を開けて入ってきて、開けた扉の隙間を獣化したレイが入ってきます。まったく獣化したままじゃないですか。
その後、しばらくしてからユーリが入ってきました。聞くと厩舎にクウを戻してブラッシングをしていたそうです。3人でまずお風呂に入りに行きました。
どうやらいつも通りの旅だったようで、3人が馬車で近隣の国を回っていて、どうやら行く先々で、世直しをせざるを得ない状況になっていたと言います。例えば、どこかの村にさしかかった時に、ユーリやレイが何かを尋ねた時に村人から愚痴を聞かされてしまい、いつの間にか巻き込まれるという事みたいです。
3人は、シャワーを浴びてから、リビングの大きいテーブルに戻ってきました。
レイは私の膝に乗り、くわえてきたブラシを見せる。私も本当は叱らなければならないのですが、ついついブラッシングを始めてしまいます。メアがお茶を入れて皆さんに配り、みんな揃ってお茶を飲んでいます。
「今回は少し長かったですねえ」
「はい、ちょっと遠い国に行ってきましたので」
「そうですか。面白いところはありましたか?」
こういう聞き方も中途半端ですけれど、前と同じようにパムが話し始めました。
「今回巡ってきた国は、どこの国も自国の財政を維持するのに精一杯で、近隣の国に派兵することもできず、魔族との小競り合いに終始しているようです。貧しい国や国力が国内の反乱を抑えるだけの小国以外のほとんどの国がぬし様に面会に使者を送って来たみたいで、その目的は、やはり軍師もしくは、戦争の手伝いをして欲しいという事だったみたいです。もっとも皆さん会えずに帰っていますから、成功していませんが」パムはお茶をゆっくりと一口だけ飲みました。
「そうですか。これで主要国はだいたい回ったのでしょう?しばらくは大丈夫そうですね」
そして、お茶菓子が配られたのでそれをみんなで食べ始めます。寝ぼけていたアンジーが、匂いに釣られて食べ始めました。ガツガツ食べないの。モーラは寝ていますか?
「罠を見破ったあの魔法使いの子を憶えていますか」ユーリがお菓子を見ながら静かにそう言った。
「ええ、憶えていますよ。笑顔の可愛い女の子でしたねえ」おや、私の言葉にも意外にみんな反応しませんね。
「今回の目的は、扉に到着した魔法使いの子の様子を見に行くことでした。あの時にあの子が来たのは、やはりあるじ様に会い、戦争の手助けをして欲しいということだったらしいのです。しかし、あの子が会えなかったと報告してその事は終わったそうです」いつもならパムが話すのですが、今回はユーリが話しています。
「そうでしたか、それでその子には会えなかったのですか?」
「はい。ここからが問題なのですが、現在あの子が反逆罪で投獄されているようなのです」そうして、ユーリは、見つめていた焼き菓子をぽそりとかじった。
「まさかとは思いますが、我々のせいですか?」私の問いにユーリは首を振った。
「違います。噂では、その後に隣国への派兵を国王が言い出したのを、彼女が踏みとどまらせるために強く進言し、不興を買ったからと聞いています。あくまでそれも噂ですが」ユーリが話しているところにレイが私の膝から降りて駆け寄り、ユーリの膝の上に乗った。ユーリはレイを撫で始める。
「なるほど。派兵について後押しさせようとして反対されたので、私達の事も含めて逆恨みされた感じですかねえ」私は、ユーリの寂しそうな顔を眺めていた。
「そういえばおぬしが、あの子に本当に困ったらこれを使えとネックレスをくれてやったではないか。あれは転移の魔法が込められているのであろう?あれがあれば簡単に逃げられそうだがのう」テーブルに突っ伏して寝ていたモーラが起き上がり目をこすりながら言った。
「あれは、元魔族の一家が来たときに持っていた魔法の玉を真似して作った物で、転移先はここにしてあります。でも、聡明な彼女ならその中の魔方陣を解析していると思いますから、危機が迫ったら違う場所を設定して発動させて逃げているのではないでしょうか」裏口まで見つけられるような観察力ですからねえ。
「ああそうだったのか。ならば無事に逃げ延びているのかもしれんな」
「そうですねえ」私はユーリの顔が少しだけホッとしたのを見て安心しました。
突然2階からドスンという重いものが落ちてくる音がして、家がちょっとだけ揺れたのです。結構重い物が落ちてこないとこの家は揺れないのですが。
「何があったのでしょうか」私は咄嗟に反応できずにいると、私が言葉を発する前にパムが2階に駆け上がっていきました。メアも同じように動いていて、パムに続いて階段を上っていきます。私達もその後を追おうとして階段の下に殺到した時に、パムが階段の上から私に言いました。
「ぬし様2階へおいでください」パムの困惑した顔には、危険ではないが面倒ごとですと描いてあります。
「はいなんでしょう」私は言われて即座に階段を昇り出す。
「ああ、皆さんも来ていただいてかまいませんよ。危険はありません」そう言われて、私の後に全員がついて2階に上がっていく。2階には7部屋あって、階段を上がって階段の右がアンジー、その向かいにエルフィその隣で、階段の正面に私の部屋、その隣にユーリの部屋がある。ユーリの隣にはさらに一部屋客間があって階段の左には2部屋分の広さの部屋が一部屋あります。
ちなみに1階は、階段の左にメア向かいが客間、階段の向かいがレイ、その隣がパム。パムの向かいで階段の右がモーラの部屋になっている。
さて、階段を上がって左、ユーリの部屋の隣の客室の前にメアが立っていて、その部屋の内壁と扉が壊れていた。崩れないかとおっかなびっくりその部屋を覗くと、中には、牢屋のようなレンガの壁の一部とその壁に鎖でつながれた、あの魔法使いの女の子がそこに寝ていた。
「ああ、手かせでつながった無生物も一緒に転送してしまったんですねえ」壁一枚が一緒に来なくて良かったです。
その子はベッドの上にうまく寝そべっているが、部屋の内部は、レンガの壁がぶつかって内壁やら窓やらが粉砕されていました。
私達の気配に気付いたのかその子は目を覚ました。
「大丈夫ですか?」私はその子に近づいて、拘束されていた手錠を外しながら聞いた。
「ここはどこですか?牢屋だったはずですが」気分が優れない感じで頭を振りながらその子は言った。ぼんやり目を覚ました後は、頭が働き出したのか周囲をキョロキョロと見回している。
「お久しぶりです。私を憶えていますか?ここは、トラップだらけの家を作った者の家の2階です」私は説明口調でそう言いました。
「ああ、あの時にお会いした魔法使いさん。確か名前をDTさんとおっしゃっていましたね」私の顔をジッと見て、安心したようにそう言いました。
「そうです。どうなされました。何かあったんですか?」
「はい、悪い夢を見て夢の中で首に巻き付いたものを引きちぎる夢を見ました」そう言って鎖の跡が残る手首をさすっている。
「なるほど、体が勝手に動いたんですね」私はそう言いました。しかし、まだ頭の中を整理できないのか、その子はこめかみに手をあてて、何かを考えています。
「どうしましょう、私脱獄してしまいました」私の顔を見ながらビックリした様子でそう言いました。
「意図的ではないのですか?」
「はい。眠っていたときに無意識にペンダントを引きちぎったようです」
「普通そんなに力が出ませんよねえ」
「鎖につながれていて身動きが取れなかったので、無意識に魔法で筋力をあげて鎖を引きちぎろうとしたんだと思います」
「いつも寝ぼけて引きちぎるんですか?」
「いいえ、今回は連日拷問されていて眠れなかったので、本当に無意識だったのだと思います」なにやら途方に暮れています。
「おぬし人間ではないのか」モーラが厳しい目でそう尋ねる。
「・・・・」彼女は、そう言われて寂しそうに下を向いてしまう。所在なげに鎖の跡が消えた手首をさすっている。
「いいから話してみよ。ここにいる者はみんな訳ありじゃ。だれもおぬしの事など他人に触れ回ったりせぬ」モーラの言葉にその子は、集まってきた全員の顔を見る。安心したように彼女はこう言った。
「恥ずかしながら、天使と人のハーフです」下を向いて何を見る訳でもなくポツリとそう言いました。
「なんと」モーラ以下みんな驚いている。
「そんな人いるんですか?」私はつい口にしてしまう。彼女は黙ったままだ。
「この世界にそんな子がいるのを初めて知ったわ」アンジーが驚いている。
「天使であるアンジーが知らないのですか?」私が言った天使という言葉にその子が反応して、アンジーを見る。アンジーは、彼女と視線を合わせ頷いてみせる。安堵した表情の後にびっくりしたようにこう言った。
「でも大変です。母が消えてしまいます。そして国がなくなってしまいます」
「天使が消えるのですか?」
「正確には天に還ってしまいます」その子は少し寂しそうにそう言った。
「ああそういう事ですか。一体どういう状態なのか最初から説明してもらってもいいですか?」
私は、ベッドに体を起こしていた彼女に手を差し伸べて、立ち上がってもらいました。メアさんが、横で服の埃などをはらってあげています。
「ここはこのままですか?」メアさんが私を見る。
「屋根が壊れていませんので、柱の補修だけで大丈夫そうです。窓からこのガレキを撤去してください。当面この客間は使わないでしょうから」
「ガレキの撤去と補修はすぐ終わりますので、やっておきま~す」エルフィとパムがうなずく。
「では、とりあえず1階にお越しください」私は手を差し出した。
「はい」その子は私の手を取り、部屋から出て、階段を降りていく。
居間に着くと、メアがお茶を片付けていて、みんなはそれぞれ自分の席についた。お客様も私の向かいに座っている。メアが再びお茶を入れたところで、パムとエルフィも1階へ降りてきて、席に着いた。
その子は、お茶をしばらく見つめた後、一口だけお茶を飲んだ。おいしかったのだろうか、すぐにそのお茶を飲み始めた。ああ喉が渇いていたのですね。飲み干したところで、メアがおかわりのお茶を持って近づくと。もう一杯飲み始める。さすがに3杯目にはならず。空のカップを見つめている。
「落ち着きましたか?」彼女がお茶を飲み終わるまでは、声を掛けずにいましたが、ついに私が尋ねました。
「はい」
「お急ぎとは思いますが、あなた達親子のお話しから、話せる範囲でよろしいので順を追ってお話しください」
「はい。私の両親の話からになります。私の住んでいる国の大地は非常にもろく、そして痩せていたのです。その地を悲しみ天界から降り立った母は、その地を改良していました。そして父と出会い、いつしか愛し合い、私ができたといいます」
その子は淡々と話していたが、次第に幸せな記憶を思い出したのか、少しだけ顔が和らいでいる。
「母は豊穣の天使で、天使としての恩恵を使い、父と共にその地域の土地を少しずつ再生していました。そして私が生まれました。しかしその数年後、父は病に倒れ、そして死にました。本来であれば天界に戻るべきだったのですが、母は、父との約束のため私と暮らし続けました。
その約束とは、娘が巣立つまでの間で良いからこの地にとどまり、この地に恩恵を与えて欲しいという事でした。父は母にお願いし、母もそれを約束したのです」
「しかし、当然不作の年もあります。同じ地域にあっても作物の収穫量やでき具合に差が出ることから、母の恩恵を隣の集落の人たちにも知られてしまい、ついに国にまで知られ、母は捕らわれて王城の地下に幽閉されました。私は母を人質に取られ、国の魔法使いとして働かされていました。母は面会のたびにやつれ、今もその力をすこしずつ失っています。それは、天使の恩恵をこの地方全体の地下に送り込んでいるからです」
「なるほど。かなり危ないのですか」
「あと数十年は大丈夫かと思いますが、今、私との絆が失われるとたぶん光に戻ってしまいます」
「ちょっと聞いて良い?」
「はい」
「そもそも天使の恩恵をそんな広範囲の地域一帯に与えるためには、空からとかじゃないと伝わらないわよね。ましてや地下に天使を拘束なんかしたら、そもそも天使の力を封じ込めているようなものだけど。その辺はどう恩恵を与えているのかしら」
「草木のドラゴン様の地脈を使っているそうです」
「草木のドラゴンの地脈があるなら、その土地は、あやつの恩恵を得られているはずではなか」モーラも不思議そうだ。
「その土地は、草木のドラゴン様との諍いがあって、うち捨てられた土地なのだそうです。その土地を父の先々代からこつこつと育てて、元に戻そうと努力していたところだったのです。うち捨てられたのはこの国の全ての土地なのですが、他の地方は人々が努力して少しずつ豊かになっていっているのに、国の中央にある国王の住む城のある都市だけは、土地を元に戻す努力はしていないので、土地としては豊かではなく、いまだ作物は育たなくなっています」
「人間がそれをしたのですね」
「昔のことなので知る人はいないのですが、たぶんそうなのだと思います」
「草木の奴もそれがあるから人族が嫌いなのかもしれないな」
「それでも、地脈を使うことには同意してくれているようなのです」
「もう一つだけ」私は一番気になることを聞きました。
「なんでしょうか」
「先ほど、国が滅ぶと言っていましたが、どういうことですか?」
「はい。母は、私の身を案じて、私と母が魔法の糸でつながっていないと、母は私の身に何かあったと判断して、天に戻ろうとして光になって消えてしまうつもりなのです」
「でもあの時は、こちらまで来られましたよね」
「あの時は事前に母に説明をして、定期的に連絡を取りながらこちらに来ましたので、つながっていなくでも大丈夫でした」
「母が光となって消えてしまうとあの国は、母の天使としての恩恵を失ってしまい、これまで崩壊せずにあった土地もろとも崩れます。もっとも崩壊するのは、国王の住む城の周辺だけなのですが、それでもそこに住む多くの人が死んでしまいます。ですから急いで戻りませんと大変なことになります」
「なるほど、急がなければなりませんねえ」
「天使の子よ、おぬしはそれでよいのか?」
「なぜでしょうか」
「母親を牢獄につながれ、それを人質に国に奴隷として使われているのであろう」
「そうです。ですが、母がいないとそこに暮らす人達が死んでしまいます。私の友人やその家族達も」
「でも、いずれあなたが死んだらその時には滅亡するのよね」
「はい、それはまだ先の話です。私も天使の子ですので長命ですし、何も無ければかなり長い間死ぬことはありません。それまでの間にあそこの地域の土地は豊かになると思います。もっとも、国王のいる城塞のある地方についてはその限りではありませんけれど」
「お母様が、幽閉されていて逃げないのは、あなたのお父さんのためということですよね」
「母は、父の願いのためにこの土地を離れないと言っておりました。ただし、父との唯一の絆である私が死んでしまったり、この地を私が離れたら、この地から天に還ると言っております」
「なるほど。それがあなたのお母さんのけじめなんですね」
「そう申しております」
「なるほどなあ。ではすぐ戻らねばならんか。わしが送っていこう」
「よろしいのですか?」
「土地が痩せて困っているのであればそれはわしの領分じゃ。草木の手前、豊かにはしてやれんが、おぬしの母を助けるくらいの役にはたてよう」
「いいのですか?」
「もっともそれを行うためには、一度おぬしを送ってから、改めて草木のやつにその土地に入る許可をもらってからになるがな」
「ありがとうございます」
「さて、とりあえずは急いでおぬしを届けようか。外に出よう」
「私も事情の説明に行く必要がありますね。脱獄したのでは無く事故だったと」
「まあ、これだけの事が起きたのじゃから説明は必要だろう」
「ちょっと待って。私も行くわ」
それまでの間、顎に手を当てて、考え事をしていたアンジーが神妙な顔つきでそう言った。
「まあ、行くというなら一緒に連れて行くが」
「ではいつも通り皆さん一緒に行くことにしますか」
私は、ちょっとした家族旅行のつもりで気楽にそう言いました。
「私達は馬車で向かいます」メアの言葉にパムがうなずく。妙に真剣な顔だ、いや2人とも眉間にしわを寄せている。
「どうしたのじゃ」
「今回は、また人の国がらみになりますので、別行動をした方がよろしいかと」
「なるほど。じゃが、彼女を置いてすぐ戻ってくることになるじゃろうが」
「いいえ。たぶんぬし様は拘束されるか賓客待遇でしょうから。多分現地に足止めされると思います」確信を持ってパムが言った。
「ああ、国王に会って申し開きをすることになるか。そう言われれば確かにそうじゃな。わしも考えが浅かったわ」
「いいえ、モーラ様は焦っておいでなのでしょう。はやくその子を相手国に帰して問題を終わらせたかったのでしょう」メアがそう言った。パムが頷いています。
「辺境の賢者の面目丸つぶれじゃなあ。確かにそのとおりじゃ。こやつがこうもトラブルのタネをまいて面倒ごとを繰り返すのをわしは早く終わらせたいのじゃ」
「正直今回はそう思ったわねえ。ねえあなた。そのペンダントのことはわかっている?」
「込められた魔法のことですか?はい。たぶんそういう物なのだろうとは思っていましたが、なにぶんそこまで調べている暇が無かったのです」
「あれからそんなに大変ことがあなたの身に起こったの?」
「はい。余裕はありませんでした」
「とりあえず急ぎましょう」
「はあ。わかったわ。私が時間を稼ぐから安心して」アンジーは、彼女や私達を見てそう言った。
「どうするつもりですか」
「私がその天使様へ取り次いであげるからちょっと待ってね。えーと久しぶりだからできるかなあ」
何か思い出して、口の中で呪文のようなものを口ずさんでは、やめている。
「なんじゃそんな都合の良いものがあるのか」
「多分出来ると思うのよ。前には出来たから」アンジーは、両手を胸の前で組んで目をつぶる。瞬く間に光り出し、成長した天使の姿に戻った。今回は浮かび上がらず立ったままだ。そして何かをつぶやきながら祈っている。
「本当だ。天使様だ」思わずその子は両手を組んで祈っている。
「あ、母親の名前教えて」
「ルミネア・ベルゼティスですが」
「あーやっぱりそうなの。本当に顔立ちがそっくりだものねえ」アンジーは、そう言ってから、気まずそうな表情で祈るアンジー。ほどなくアンジーの前に白くて縦に長い楕円形の光が現れる。
彼女と私達は、その魔法を初めて見たのでびっくりしていた。
鏡のような白い映像には、手首に枷をはめられ鎖でつながれた女性の姿が映り、こちらの方に顔を向けた。その顔は、確かに彼女をもっと大人にしたらこんな感じだろうと思う程うり二つの女性だった。ただ、表情は暗くそしてやつれていた。
「あ、お母さん!」そう叫んで彼女は手を伸ばしたが、その手はその白い空間の一部を消して空を切り、空間がつながっていないただの映像である事に気付き、少しがっかりしている。
「ああよかった。生きていたのねフェイ」この世界では当たり前ではない魔法のはずなのに驚きもせず、フェイと呼ばれたその子に声を掛ける。
「はい生きています。あの。かなり遠くに飛ばされたのですぐに戻れないかもしれませんが、心配しないでください」
「大丈夫よ。たった今あなたとつながったから。しばらくは大丈夫」
「もういいかしら」久しぶりの魔法なのか、アンジーが急いている。
「あら、その声はエンジェルG・・・名前は、そうそうアンジーじゃない。そこにいたのね」
アンジーは、名前を呼ばれあたふたしている。
「とりあえず会った時に話すから。通信は終了しますね」
「あら、つれないわ・・」そこで映像が切れる。
「アンジーなんで強制的に切ったのじゃ」
「あの人、話が長いのよ」
「わかります」頷きながらフェイさんが言った。おや、娘にまで言われています。
「さて当面の危機は去りましたが、やはりすぐ行った方が良いですね」
「まあ、馬車でちまちまとは行っておられんな」
「やはり全員で行きましょう」
「ですから」パムがちょっとムキになっています。
「ああパムよ、わしが街の手前で降ろすからそれでよしとせい」
「心配性のご主人様のためにそうしましょう。ね、パム」メアがパムをなだめながらちょっと茶化して言った。
「この人はね、家族が心配でできるだけ一緒に行動したがるのよ」アンジーがその子に教える。
「そうなんですか?」そんな意外そうな顔しないでください。
「ごほん、そんなことは良いですから、皆さん旅の準備をしてください」私は、咳払いをしてごまかしました。いや、恥ずかしいですよ本当に。
「ラジャー」そう言って全員が敬礼をして、そのあと大笑いしています。そういうのやめなさい。この子がびっくりしていますよ。
そうして、簡単な旅支度をして3頭立ての馬車に乗り込み、モーラに持ってもらう。
『他のドラゴンの縄張りを通過するけど縄張り侵犯は大丈夫なの?』アンジーが気にしている。
『ああ、一応不可視化の魔法もあるし、脱皮したおかげで誰も手を出さなくなったようだからなあ』
『縄張り侵犯しているのにですか?』と私
『まあ、ああいうのは力関係だからなあ』
『問答無用ですか』パムがあきれている。
『そうなるな。パムその国の位置を教えてくれ』
『この辺です』イメージを頭の中に投影しています。
『なるほどな、それでは行こうか』
「あのー、みなさんもしかして脳内で会話していますか?」
「あら、やっぱりわかるのねえ」
「はい、何やらぼそぼそと音が聞こえます」
「こいつが隷属の儀式をしないで全員隷属したものだから変な能力が付加されたのよねえ」
「隷属の儀式をしないで隷属させたのですか?」
その子は、目を見開いて私を見ます。それってやっぱり驚くべき事なんですねえ。
「いや、ちゃんと真名を言って頭を撫でたじゃないですか。それができたのは、たまたまドラゴンやら天使がそばにいたせいなんですよ」
「はえー」おや、なんか驚いていますよ。
「だからうかつに真名名乗ると取り返しのつかないことになるわよ」アンジーが脅している。
「そ、そうなのですか?」私を見て怯えていますよ。余計な恐怖は与えてはいけませんよ。
「変なこと吹き込まないでください。ちゃんと話してあげないと誤解するじゃないですか」
「それは誤解なのですか?」メアもすかさずツッコミを入れてきます。
「そうです誤解です。一人はドラゴンの力で、もう一人は天使の力で、後は、本人達が希望したからです。もっとも正式な儀式をしたのはパムだけですからねえ」
「はい私だけです」そう言って、そこそこある胸を張るパム。あ、みんなでジト目で見るのはやめてください。
「なんかずるいです~」くやしさを両手を上下に動かして表現しているエルフィ。まあ可愛い。でも腹黒い。
「エルフィ、あなたは私の心を誘導して無理矢理隷属させたじゃないですか」
「え?え?」その子の頭の周りにははてなマークが飛び回っている。
「えへへ~」
「よろしいですかフェイ様。隷属した順番からいいますと~以下略」メアさんいちいち説明しないでください。もうやめましょう。恥ずかしいので。
「ほえー」
「いいですか。ここにドラゴン、天使、格の高い魔法使いの3人が揃っていますので、3人のうちの誰かに真名告げて隷属しますと言えば、自動的に他の2人が立会人になってすぐ隷属してしまいますよ。気をつけてください」パムが真剣な顔でフェイに言った。
「そんな安易なことってあるんですね。というか、そんな3人が常に一緒にいることなど本来はありえないからなんですよね」
「ええそうなのよ。そこが問題ね。でも、隷属の意思もなく隷属はされないからそこは安心しなさい。それにみんな自分で解除できるようにしてもらっているんだから」アンジーさんそれって言い訳ですか?
「ちょっと待ってください、隷属を自分で解除できるようになんて、そんなこと可能なんですか。普通は隷属させている者からじゃないと解除できませんよね」
「こいつはそれができるのよ」アンジーが私をあえて指差して言いました。
「わかりました。用心します」そう言ってから私をじっと見て不審人物を見る目になったのはどうしてでしょうか。
「どうしてそれが結論なんですか」私はその言葉の意味がよくわかりませんでした。
「だって、術式の改変ができると言うことは、隷属した人が死んでも隷属が解呪できないように何重にもロックできると言うことですよね」やめてください。そんな危険物を見る目で見ないでください。ああ、少しだけ後ろに下がりましたね。しょぼん。
「ああそうね。でも安心しなさい。こいつにそんな事は絶対にできないから」
「わかりません。お母さんのような美貌の持ち主ならあるいは」
「会ってみないとわかりませんが、それはないでしょう」私は胸を張って言いました。鼻息も荒いです。
「どうしてそう言い切れるんですか?」なぜか、自分の母親の美貌がけなされたようで怒ってしまいましたか。
「私、年上だめなんですよ。年齢範囲は、16歳から22歳なのです」
「そうなんですか?見た目が若くても?」
「いいですかここにいらっしゃる方達は、ユーリを除いて皆さん100歳以上ですからね」
「違います。まだ30歳くらいです」レイが怒っています。
「ユーリさんはいくつなのですか?」
「たぶん15歳だと思います」
「じゃあ来年くらいには範囲内なのでは?」
「あるじ様は、大きい胸が好きなのです」ユーリが涙目でそう言った。
「あーあ、またユーリを泣かしましたね」とメア
「またですか~ダメですよ~女の子泣かせちゃ~」
「親方様、それは、ダメです。いけないです」
「私ですか?私が泣かしましたか?」
「あんたの性癖のせいじゃない」
「とほほ」
そんなくだらない話をしながら、その国の国境線に降り立った。
Appendix
「あの男はあの国に行ったのね」
「そのようです。私たちがあえて近づかなかったあの国に行きました」
「あそこには魔法使いもいましたよね」
「はい何も知らない魔法使いがひとり、薬屋をやっています」
「急ぎ、何をしに来たのか確認してちょうだい」
「わかりました」
「今更あのことがバレるのはねえちょっと問題だわ」
Appendix
「豊穣の天使は見つかったのかい?」
「唐突だねえ。いいや、未だに見つかっていないよ、光になって消えた感じもなかったし、消えて復活する感じもないね」
「やっぱり本人の意思でどこかに隠れているのだろうねえ」
「まあ、その線が濃厚だね、天使なのだからいつでもどこからでも逃げようと思えば逃げられるのだから」
「本当に消えるつもりなのだろうか」
「わからない。彼女は変わっているからね」
「変わっていると?地上に対する思い入れは彼女の愛あるがゆえだろう?」
「人まで愛してもねえ」
「ああそうか。そういえばそうだったね。その間だけ天に還るのを待って欲しいと言ったくらいにはね」
「どうして急にそんな事を聞くんだい?」
「あの男のそばで一瞬だけ気配を感じたからさほんのかすかだけれどね」
「ふうん?そんなに頻繁にあの男を気にしているのかい?」
「いいや、そばにいるうちの優秀な天使が気になっているだけさ」
「本当に?」
「ああそうさ。気にはなるけれど、実際放置しているだろう?」
「まあ、そう思いたいのなら」
「変な言い回しをするねえ」
「だって、あの男の所に行ってから急に気にし始めたじゃないか」
「ああそうだね。気付いていなかったよ。でもどうして気になるのかな」
「さあね」
続く
しばらくは、落ち着いた日々が流れています。季節は冬。しかし、雪が降るわけではなくどちらかというと乾期に近い。
焼かれた薬草の畑は、モーラの爪のアカをまぶして、本来の繁殖地に似せた環境に近づけてしばらく様子を見ています。無理矢理株分けなどせず、自然にまかせることにしましたが、少しずつなんとかなじんできているようです。
馬たちは暇そうにしていて、時折厩舎を出て走り回っています。そうそう、干し草乾燥用のサイロを作ってみたのですが、干し草の味が気に入らないらしく、少し遠いところにある牧草をサイロに入れ直した経過があります。まあ、あの子達が満足そうにしているのがなによりです。
パムは、レイとユーリと共に他国に旅をして、長期間いなかったりしています。帰ってきてから話を聞くと、やはり、ロスティアとの一件にだいぶ尾ひれがついて伝わっていて、私の存在はほとんど魔王扱いになっているそうです。そんなことをぼーっと考えていたのですが、
「ただいま帰りました」
そう言ってパムが扉を開けて入ってきて、開けた扉の隙間を獣化したレイが入ってきます。まったく獣化したままじゃないですか。
その後、しばらくしてからユーリが入ってきました。聞くと厩舎にクウを戻してブラッシングをしていたそうです。3人でまずお風呂に入りに行きました。
どうやらいつも通りの旅だったようで、3人が馬車で近隣の国を回っていて、どうやら行く先々で、世直しをせざるを得ない状況になっていたと言います。例えば、どこかの村にさしかかった時に、ユーリやレイが何かを尋ねた時に村人から愚痴を聞かされてしまい、いつの間にか巻き込まれるという事みたいです。
3人は、シャワーを浴びてから、リビングの大きいテーブルに戻ってきました。
レイは私の膝に乗り、くわえてきたブラシを見せる。私も本当は叱らなければならないのですが、ついついブラッシングを始めてしまいます。メアがお茶を入れて皆さんに配り、みんな揃ってお茶を飲んでいます。
「今回は少し長かったですねえ」
「はい、ちょっと遠い国に行ってきましたので」
「そうですか。面白いところはありましたか?」
こういう聞き方も中途半端ですけれど、前と同じようにパムが話し始めました。
「今回巡ってきた国は、どこの国も自国の財政を維持するのに精一杯で、近隣の国に派兵することもできず、魔族との小競り合いに終始しているようです。貧しい国や国力が国内の反乱を抑えるだけの小国以外のほとんどの国がぬし様に面会に使者を送って来たみたいで、その目的は、やはり軍師もしくは、戦争の手伝いをして欲しいという事だったみたいです。もっとも皆さん会えずに帰っていますから、成功していませんが」パムはお茶をゆっくりと一口だけ飲みました。
「そうですか。これで主要国はだいたい回ったのでしょう?しばらくは大丈夫そうですね」
そして、お茶菓子が配られたのでそれをみんなで食べ始めます。寝ぼけていたアンジーが、匂いに釣られて食べ始めました。ガツガツ食べないの。モーラは寝ていますか?
「罠を見破ったあの魔法使いの子を憶えていますか」ユーリがお菓子を見ながら静かにそう言った。
「ええ、憶えていますよ。笑顔の可愛い女の子でしたねえ」おや、私の言葉にも意外にみんな反応しませんね。
「今回の目的は、扉に到着した魔法使いの子の様子を見に行くことでした。あの時にあの子が来たのは、やはりあるじ様に会い、戦争の手助けをして欲しいということだったらしいのです。しかし、あの子が会えなかったと報告してその事は終わったそうです」いつもならパムが話すのですが、今回はユーリが話しています。
「そうでしたか、それでその子には会えなかったのですか?」
「はい。ここからが問題なのですが、現在あの子が反逆罪で投獄されているようなのです」そうして、ユーリは、見つめていた焼き菓子をぽそりとかじった。
「まさかとは思いますが、我々のせいですか?」私の問いにユーリは首を振った。
「違います。噂では、その後に隣国への派兵を国王が言い出したのを、彼女が踏みとどまらせるために強く進言し、不興を買ったからと聞いています。あくまでそれも噂ですが」ユーリが話しているところにレイが私の膝から降りて駆け寄り、ユーリの膝の上に乗った。ユーリはレイを撫で始める。
「なるほど。派兵について後押しさせようとして反対されたので、私達の事も含めて逆恨みされた感じですかねえ」私は、ユーリの寂しそうな顔を眺めていた。
「そういえばおぬしが、あの子に本当に困ったらこれを使えとネックレスをくれてやったではないか。あれは転移の魔法が込められているのであろう?あれがあれば簡単に逃げられそうだがのう」テーブルに突っ伏して寝ていたモーラが起き上がり目をこすりながら言った。
「あれは、元魔族の一家が来たときに持っていた魔法の玉を真似して作った物で、転移先はここにしてあります。でも、聡明な彼女ならその中の魔方陣を解析していると思いますから、危機が迫ったら違う場所を設定して発動させて逃げているのではないでしょうか」裏口まで見つけられるような観察力ですからねえ。
「ああそうだったのか。ならば無事に逃げ延びているのかもしれんな」
「そうですねえ」私はユーリの顔が少しだけホッとしたのを見て安心しました。
突然2階からドスンという重いものが落ちてくる音がして、家がちょっとだけ揺れたのです。結構重い物が落ちてこないとこの家は揺れないのですが。
「何があったのでしょうか」私は咄嗟に反応できずにいると、私が言葉を発する前にパムが2階に駆け上がっていきました。メアも同じように動いていて、パムに続いて階段を上っていきます。私達もその後を追おうとして階段の下に殺到した時に、パムが階段の上から私に言いました。
「ぬし様2階へおいでください」パムの困惑した顔には、危険ではないが面倒ごとですと描いてあります。
「はいなんでしょう」私は言われて即座に階段を昇り出す。
「ああ、皆さんも来ていただいてかまいませんよ。危険はありません」そう言われて、私の後に全員がついて2階に上がっていく。2階には7部屋あって、階段を上がって階段の右がアンジー、その向かいにエルフィその隣で、階段の正面に私の部屋、その隣にユーリの部屋がある。ユーリの隣にはさらに一部屋客間があって階段の左には2部屋分の広さの部屋が一部屋あります。
ちなみに1階は、階段の左にメア向かいが客間、階段の向かいがレイ、その隣がパム。パムの向かいで階段の右がモーラの部屋になっている。
さて、階段を上がって左、ユーリの部屋の隣の客室の前にメアが立っていて、その部屋の内壁と扉が壊れていた。崩れないかとおっかなびっくりその部屋を覗くと、中には、牢屋のようなレンガの壁の一部とその壁に鎖でつながれた、あの魔法使いの女の子がそこに寝ていた。
「ああ、手かせでつながった無生物も一緒に転送してしまったんですねえ」壁一枚が一緒に来なくて良かったです。
その子はベッドの上にうまく寝そべっているが、部屋の内部は、レンガの壁がぶつかって内壁やら窓やらが粉砕されていました。
私達の気配に気付いたのかその子は目を覚ました。
「大丈夫ですか?」私はその子に近づいて、拘束されていた手錠を外しながら聞いた。
「ここはどこですか?牢屋だったはずですが」気分が優れない感じで頭を振りながらその子は言った。ぼんやり目を覚ました後は、頭が働き出したのか周囲をキョロキョロと見回している。
「お久しぶりです。私を憶えていますか?ここは、トラップだらけの家を作った者の家の2階です」私は説明口調でそう言いました。
「ああ、あの時にお会いした魔法使いさん。確か名前をDTさんとおっしゃっていましたね」私の顔をジッと見て、安心したようにそう言いました。
「そうです。どうなされました。何かあったんですか?」
「はい、悪い夢を見て夢の中で首に巻き付いたものを引きちぎる夢を見ました」そう言って鎖の跡が残る手首をさすっている。
「なるほど、体が勝手に動いたんですね」私はそう言いました。しかし、まだ頭の中を整理できないのか、その子はこめかみに手をあてて、何かを考えています。
「どうしましょう、私脱獄してしまいました」私の顔を見ながらビックリした様子でそう言いました。
「意図的ではないのですか?」
「はい。眠っていたときに無意識にペンダントを引きちぎったようです」
「普通そんなに力が出ませんよねえ」
「鎖につながれていて身動きが取れなかったので、無意識に魔法で筋力をあげて鎖を引きちぎろうとしたんだと思います」
「いつも寝ぼけて引きちぎるんですか?」
「いいえ、今回は連日拷問されていて眠れなかったので、本当に無意識だったのだと思います」なにやら途方に暮れています。
「おぬし人間ではないのか」モーラが厳しい目でそう尋ねる。
「・・・・」彼女は、そう言われて寂しそうに下を向いてしまう。所在なげに鎖の跡が消えた手首をさすっている。
「いいから話してみよ。ここにいる者はみんな訳ありじゃ。だれもおぬしの事など他人に触れ回ったりせぬ」モーラの言葉にその子は、集まってきた全員の顔を見る。安心したように彼女はこう言った。
「恥ずかしながら、天使と人のハーフです」下を向いて何を見る訳でもなくポツリとそう言いました。
「なんと」モーラ以下みんな驚いている。
「そんな人いるんですか?」私はつい口にしてしまう。彼女は黙ったままだ。
「この世界にそんな子がいるのを初めて知ったわ」アンジーが驚いている。
「天使であるアンジーが知らないのですか?」私が言った天使という言葉にその子が反応して、アンジーを見る。アンジーは、彼女と視線を合わせ頷いてみせる。安堵した表情の後にびっくりしたようにこう言った。
「でも大変です。母が消えてしまいます。そして国がなくなってしまいます」
「天使が消えるのですか?」
「正確には天に還ってしまいます」その子は少し寂しそうにそう言った。
「ああそういう事ですか。一体どういう状態なのか最初から説明してもらってもいいですか?」
私は、ベッドに体を起こしていた彼女に手を差し伸べて、立ち上がってもらいました。メアさんが、横で服の埃などをはらってあげています。
「ここはこのままですか?」メアさんが私を見る。
「屋根が壊れていませんので、柱の補修だけで大丈夫そうです。窓からこのガレキを撤去してください。当面この客間は使わないでしょうから」
「ガレキの撤去と補修はすぐ終わりますので、やっておきま~す」エルフィとパムがうなずく。
「では、とりあえず1階にお越しください」私は手を差し出した。
「はい」その子は私の手を取り、部屋から出て、階段を降りていく。
居間に着くと、メアがお茶を片付けていて、みんなはそれぞれ自分の席についた。お客様も私の向かいに座っている。メアが再びお茶を入れたところで、パムとエルフィも1階へ降りてきて、席に着いた。
その子は、お茶をしばらく見つめた後、一口だけお茶を飲んだ。おいしかったのだろうか、すぐにそのお茶を飲み始めた。ああ喉が渇いていたのですね。飲み干したところで、メアがおかわりのお茶を持って近づくと。もう一杯飲み始める。さすがに3杯目にはならず。空のカップを見つめている。
「落ち着きましたか?」彼女がお茶を飲み終わるまでは、声を掛けずにいましたが、ついに私が尋ねました。
「はい」
「お急ぎとは思いますが、あなた達親子のお話しから、話せる範囲でよろしいので順を追ってお話しください」
「はい。私の両親の話からになります。私の住んでいる国の大地は非常にもろく、そして痩せていたのです。その地を悲しみ天界から降り立った母は、その地を改良していました。そして父と出会い、いつしか愛し合い、私ができたといいます」
その子は淡々と話していたが、次第に幸せな記憶を思い出したのか、少しだけ顔が和らいでいる。
「母は豊穣の天使で、天使としての恩恵を使い、父と共にその地域の土地を少しずつ再生していました。そして私が生まれました。しかしその数年後、父は病に倒れ、そして死にました。本来であれば天界に戻るべきだったのですが、母は、父との約束のため私と暮らし続けました。
その約束とは、娘が巣立つまでの間で良いからこの地にとどまり、この地に恩恵を与えて欲しいという事でした。父は母にお願いし、母もそれを約束したのです」
「しかし、当然不作の年もあります。同じ地域にあっても作物の収穫量やでき具合に差が出ることから、母の恩恵を隣の集落の人たちにも知られてしまい、ついに国にまで知られ、母は捕らわれて王城の地下に幽閉されました。私は母を人質に取られ、国の魔法使いとして働かされていました。母は面会のたびにやつれ、今もその力をすこしずつ失っています。それは、天使の恩恵をこの地方全体の地下に送り込んでいるからです」
「なるほど。かなり危ないのですか」
「あと数十年は大丈夫かと思いますが、今、私との絆が失われるとたぶん光に戻ってしまいます」
「ちょっと聞いて良い?」
「はい」
「そもそも天使の恩恵をそんな広範囲の地域一帯に与えるためには、空からとかじゃないと伝わらないわよね。ましてや地下に天使を拘束なんかしたら、そもそも天使の力を封じ込めているようなものだけど。その辺はどう恩恵を与えているのかしら」
「草木のドラゴン様の地脈を使っているそうです」
「草木のドラゴンの地脈があるなら、その土地は、あやつの恩恵を得られているはずではなか」モーラも不思議そうだ。
「その土地は、草木のドラゴン様との諍いがあって、うち捨てられた土地なのだそうです。その土地を父の先々代からこつこつと育てて、元に戻そうと努力していたところだったのです。うち捨てられたのはこの国の全ての土地なのですが、他の地方は人々が努力して少しずつ豊かになっていっているのに、国の中央にある国王の住む城のある都市だけは、土地を元に戻す努力はしていないので、土地としては豊かではなく、いまだ作物は育たなくなっています」
「人間がそれをしたのですね」
「昔のことなので知る人はいないのですが、たぶんそうなのだと思います」
「草木の奴もそれがあるから人族が嫌いなのかもしれないな」
「それでも、地脈を使うことには同意してくれているようなのです」
「もう一つだけ」私は一番気になることを聞きました。
「なんでしょうか」
「先ほど、国が滅ぶと言っていましたが、どういうことですか?」
「はい。母は、私の身を案じて、私と母が魔法の糸でつながっていないと、母は私の身に何かあったと判断して、天に戻ろうとして光になって消えてしまうつもりなのです」
「でもあの時は、こちらまで来られましたよね」
「あの時は事前に母に説明をして、定期的に連絡を取りながらこちらに来ましたので、つながっていなくでも大丈夫でした」
「母が光となって消えてしまうとあの国は、母の天使としての恩恵を失ってしまい、これまで崩壊せずにあった土地もろとも崩れます。もっとも崩壊するのは、国王の住む城の周辺だけなのですが、それでもそこに住む多くの人が死んでしまいます。ですから急いで戻りませんと大変なことになります」
「なるほど、急がなければなりませんねえ」
「天使の子よ、おぬしはそれでよいのか?」
「なぜでしょうか」
「母親を牢獄につながれ、それを人質に国に奴隷として使われているのであろう」
「そうです。ですが、母がいないとそこに暮らす人達が死んでしまいます。私の友人やその家族達も」
「でも、いずれあなたが死んだらその時には滅亡するのよね」
「はい、それはまだ先の話です。私も天使の子ですので長命ですし、何も無ければかなり長い間死ぬことはありません。それまでの間にあそこの地域の土地は豊かになると思います。もっとも、国王のいる城塞のある地方についてはその限りではありませんけれど」
「お母様が、幽閉されていて逃げないのは、あなたのお父さんのためということですよね」
「母は、父の願いのためにこの土地を離れないと言っておりました。ただし、父との唯一の絆である私が死んでしまったり、この地を私が離れたら、この地から天に還ると言っております」
「なるほど。それがあなたのお母さんのけじめなんですね」
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「なるほどなあ。ではすぐ戻らねばならんか。わしが送っていこう」
「よろしいのですか?」
「土地が痩せて困っているのであればそれはわしの領分じゃ。草木の手前、豊かにはしてやれんが、おぬしの母を助けるくらいの役にはたてよう」
「いいのですか?」
「もっともそれを行うためには、一度おぬしを送ってから、改めて草木のやつにその土地に入る許可をもらってからになるがな」
「ありがとうございます」
「さて、とりあえずは急いでおぬしを届けようか。外に出よう」
「私も事情の説明に行く必要がありますね。脱獄したのでは無く事故だったと」
「まあ、これだけの事が起きたのじゃから説明は必要だろう」
「ちょっと待って。私も行くわ」
それまでの間、顎に手を当てて、考え事をしていたアンジーが神妙な顔つきでそう言った。
「まあ、行くというなら一緒に連れて行くが」
「ではいつも通り皆さん一緒に行くことにしますか」
私は、ちょっとした家族旅行のつもりで気楽にそう言いました。
「私達は馬車で向かいます」メアの言葉にパムがうなずく。妙に真剣な顔だ、いや2人とも眉間にしわを寄せている。
「どうしたのじゃ」
「今回は、また人の国がらみになりますので、別行動をした方がよろしいかと」
「なるほど。じゃが、彼女を置いてすぐ戻ってくることになるじゃろうが」
「いいえ。たぶんぬし様は拘束されるか賓客待遇でしょうから。多分現地に足止めされると思います」確信を持ってパムが言った。
「ああ、国王に会って申し開きをすることになるか。そう言われれば確かにそうじゃな。わしも考えが浅かったわ」
「いいえ、モーラ様は焦っておいでなのでしょう。はやくその子を相手国に帰して問題を終わらせたかったのでしょう」メアがそう言った。パムが頷いています。
「辺境の賢者の面目丸つぶれじゃなあ。確かにそのとおりじゃ。こやつがこうもトラブルのタネをまいて面倒ごとを繰り返すのをわしは早く終わらせたいのじゃ」
「正直今回はそう思ったわねえ。ねえあなた。そのペンダントのことはわかっている?」
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何か思い出して、口の中で呪文のようなものを口ずさんでは、やめている。
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「多分出来ると思うのよ。前には出来たから」アンジーは、両手を胸の前で組んで目をつぶる。瞬く間に光り出し、成長した天使の姿に戻った。今回は浮かび上がらず立ったままだ。そして何かをつぶやきながら祈っている。
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「まあ、馬車でちまちまとは行っておられんな」
「やはり全員で行きましょう」
「ですから」パムがちょっとムキになっています。
「ああパムよ、わしが街の手前で降ろすからそれでよしとせい」
「心配性のご主人様のためにそうしましょう。ね、パム」メアがパムをなだめながらちょっと茶化して言った。
「この人はね、家族が心配でできるだけ一緒に行動したがるのよ」アンジーがその子に教える。
「そうなんですか?」そんな意外そうな顔しないでください。
「ごほん、そんなことは良いですから、皆さん旅の準備をしてください」私は、咳払いをしてごまかしました。いや、恥ずかしいですよ本当に。
「ラジャー」そう言って全員が敬礼をして、そのあと大笑いしています。そういうのやめなさい。この子がびっくりしていますよ。
そうして、簡単な旅支度をして3頭立ての馬車に乗り込み、モーラに持ってもらう。
『他のドラゴンの縄張りを通過するけど縄張り侵犯は大丈夫なの?』アンジーが気にしている。
『ああ、一応不可視化の魔法もあるし、脱皮したおかげで誰も手を出さなくなったようだからなあ』
『縄張り侵犯しているのにですか?』と私
『まあ、ああいうのは力関係だからなあ』
『問答無用ですか』パムがあきれている。
『そうなるな。パムその国の位置を教えてくれ』
『この辺です』イメージを頭の中に投影しています。
『なるほどな、それでは行こうか』
「あのー、みなさんもしかして脳内で会話していますか?」
「あら、やっぱりわかるのねえ」
「はい、何やらぼそぼそと音が聞こえます」
「こいつが隷属の儀式をしないで全員隷属したものだから変な能力が付加されたのよねえ」
「隷属の儀式をしないで隷属させたのですか?」
その子は、目を見開いて私を見ます。それってやっぱり驚くべき事なんですねえ。
「いや、ちゃんと真名を言って頭を撫でたじゃないですか。それができたのは、たまたまドラゴンやら天使がそばにいたせいなんですよ」
「はえー」おや、なんか驚いていますよ。
「だからうかつに真名名乗ると取り返しのつかないことになるわよ」アンジーが脅している。
「そ、そうなのですか?」私を見て怯えていますよ。余計な恐怖は与えてはいけませんよ。
「変なこと吹き込まないでください。ちゃんと話してあげないと誤解するじゃないですか」
「それは誤解なのですか?」メアもすかさずツッコミを入れてきます。
「そうです誤解です。一人はドラゴンの力で、もう一人は天使の力で、後は、本人達が希望したからです。もっとも正式な儀式をしたのはパムだけですからねえ」
「はい私だけです」そう言って、そこそこある胸を張るパム。あ、みんなでジト目で見るのはやめてください。
「なんかずるいです~」くやしさを両手を上下に動かして表現しているエルフィ。まあ可愛い。でも腹黒い。
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「えへへ~」
「よろしいですかフェイ様。隷属した順番からいいますと~以下略」メアさんいちいち説明しないでください。もうやめましょう。恥ずかしいので。
「ほえー」
「いいですか。ここにドラゴン、天使、格の高い魔法使いの3人が揃っていますので、3人のうちの誰かに真名告げて隷属しますと言えば、自動的に他の2人が立会人になってすぐ隷属してしまいますよ。気をつけてください」パムが真剣な顔でフェイに言った。
「そんな安易なことってあるんですね。というか、そんな3人が常に一緒にいることなど本来はありえないからなんですよね」
「ええそうなのよ。そこが問題ね。でも、隷属の意思もなく隷属はされないからそこは安心しなさい。それにみんな自分で解除できるようにしてもらっているんだから」アンジーさんそれって言い訳ですか?
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「あーあ、またユーリを泣かしましたね」とメア
「またですか~ダメですよ~女の子泣かせちゃ~」
「親方様、それは、ダメです。いけないです」
「私ですか?私が泣かしましたか?」
「あんたの性癖のせいじゃない」
「とほほ」
そんなくだらない話をしながら、その国の国境線に降り立った。
Appendix
「あの男はあの国に行ったのね」
「そのようです。私たちがあえて近づかなかったあの国に行きました」
「あそこには魔法使いもいましたよね」
「はい何も知らない魔法使いがひとり、薬屋をやっています」
「急ぎ、何をしに来たのか確認してちょうだい」
「わかりました」
「今更あのことがバレるのはねえちょっと問題だわ」
Appendix
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「さあね」
続く
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心太黒蜜きな粉味
ファンタジー
※完結しました。感想をいただけると、今後の励みになります。よろしくお願いします。
これは、今まで暮らしていた世界とはかなり異なる世界に移住することになった僕の話である。
ようやく再就職できた会社をクビになった僕は、不気味な影に取り憑かれ、異世界へと運ばれる。
気がつくと、空を飛んで、口から火を吐いていた!
これは?ドラゴン?
僕はドラゴンだったのか?!
自分がドラゴンの先祖返りであると知った僕は、超絶美少女の王様に「もうヒトではないからな!異世界に移住するしかない!」と告げられる。
しかも、この世界では衣食住が保障されていて、お金や結婚、戦争も無いというのだ。なんて良い世界なんだ!と思ったのに、大いなる呪いがあるって?
この世界のちょっと特殊なルールを学びながら、僕は呪いを解くため7つの国を巡ることになる。
※派手なバトルやグロい表現はありません。
※25話から1話2000文字程度で基本毎日更新しています。
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