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あの日の「本当」
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私を探して外に出たチーが、堤防で波にさらわれて死んだと聞いたのは次の日だった。
「あれは、千佳ちゃんのせいじゃないの。悲しい事故だったのよ」
家に戻るまでも、戻ってからも、ママはずっと私を抱きしめ続けた。何度も繰り返し呟く「大丈夫」の合間に、ときおり「よかった」が混じった。
その夜、帰ってきたパパが、私の前に体を屈めて視線を合わせた。
「千佳、よく聞きなさい」
パパは、いつものパパとも、あの白黒の世界に浮かび上がったときとも違う、すべての感情をそぎ落としたような顔をしていた。
「これから知花ちゃんのお母さんが来る。お前にも話を聞きたいんだそうだ」
おばさんが来る。ああ、そうか。チーがいなくなったらもう、あのドーナツは食べられないんだな。ママの腕の中でそんなことを考えた。
「お前は、かくれんぼなんかしていなかった。知花ちゃんは、お前が眠っている間に一人で外に出たんだ」
ママが、ぎゅっと私を抱きしめた。
「いいね、千佳」
私はその言葉の意味が分からなくて、ただただ体を強張らせていた。
「そうよ、千佳ちゃんはなにも悪くないもの。そう、そうよ。そうしましょう。ね、千佳ちゃん、おばさんにじょうずに説明できるわよね? 千佳ちゃんはとっても頭がいいもの」
有無を言わせぬ二人の目が怖かった。その視線から逃れたい一心で、私はこくりとうなずいた。
それから十分後に、おばさんが来た。ぼさぼさの髪で、半袖Tシャツにジーンズという格好で、私の姿を見るなり、すがるように私の肩をつかんだ。指が食い込んで痛い。
「ねえ、なんであの子は外にいたの?」
おばさんからは油のにおいがした。まるで、さっきまでなにかを揚げていたみたいに。
「知ってるんでしょ? ねえ」
私を強く揺さぶるおばさんから私を守るように、ママが私を抱きしめた。
「ごめんなさい! 知花ちゃんから目を離してしまった私たちが悪いんです」
「誰が悪いとかどうでもいい! あたしはあの子がどうして死んだのか知りたいんだよ!」
にらみ合う二人の荒い息遣いがリビングに響く。
私は、息をすることさえできなかった。夢の中にいるみたいに、視界がゆらゆら揺れていた。
「言うとおりにしなさい」
じっと私を見つめるパパの目は、この場にいる誰よりも私を責めていた。
私は悪いことをしたんだ。それも、取り返しのつかないとっても悪いことを。
「言うとおりにしなさい。分かるね、千佳」
ああ、そうか。
突然に理解した。そして、おばさんのほうを見て答えた。
「……分かんないの」
ああ、そうか。そうなんだ。
「私が目を覚ましたら、チーはいなかった」
私がチーを死なせてしまったんだ。
「あれは、千佳ちゃんのせいじゃないの。悲しい事故だったのよ」
家に戻るまでも、戻ってからも、ママはずっと私を抱きしめ続けた。何度も繰り返し呟く「大丈夫」の合間に、ときおり「よかった」が混じった。
その夜、帰ってきたパパが、私の前に体を屈めて視線を合わせた。
「千佳、よく聞きなさい」
パパは、いつものパパとも、あの白黒の世界に浮かび上がったときとも違う、すべての感情をそぎ落としたような顔をしていた。
「これから知花ちゃんのお母さんが来る。お前にも話を聞きたいんだそうだ」
おばさんが来る。ああ、そうか。チーがいなくなったらもう、あのドーナツは食べられないんだな。ママの腕の中でそんなことを考えた。
「お前は、かくれんぼなんかしていなかった。知花ちゃんは、お前が眠っている間に一人で外に出たんだ」
ママが、ぎゅっと私を抱きしめた。
「いいね、千佳」
私はその言葉の意味が分からなくて、ただただ体を強張らせていた。
「そうよ、千佳ちゃんはなにも悪くないもの。そう、そうよ。そうしましょう。ね、千佳ちゃん、おばさんにじょうずに説明できるわよね? 千佳ちゃんはとっても頭がいいもの」
有無を言わせぬ二人の目が怖かった。その視線から逃れたい一心で、私はこくりとうなずいた。
それから十分後に、おばさんが来た。ぼさぼさの髪で、半袖Tシャツにジーンズという格好で、私の姿を見るなり、すがるように私の肩をつかんだ。指が食い込んで痛い。
「ねえ、なんであの子は外にいたの?」
おばさんからは油のにおいがした。まるで、さっきまでなにかを揚げていたみたいに。
「知ってるんでしょ? ねえ」
私を強く揺さぶるおばさんから私を守るように、ママが私を抱きしめた。
「ごめんなさい! 知花ちゃんから目を離してしまった私たちが悪いんです」
「誰が悪いとかどうでもいい! あたしはあの子がどうして死んだのか知りたいんだよ!」
にらみ合う二人の荒い息遣いがリビングに響く。
私は、息をすることさえできなかった。夢の中にいるみたいに、視界がゆらゆら揺れていた。
「言うとおりにしなさい」
じっと私を見つめるパパの目は、この場にいる誰よりも私を責めていた。
私は悪いことをしたんだ。それも、取り返しのつかないとっても悪いことを。
「言うとおりにしなさい。分かるね、千佳」
ああ、そうか。
突然に理解した。そして、おばさんのほうを見て答えた。
「……分かんないの」
ああ、そうか。そうなんだ。
「私が目を覚ましたら、チーはいなかった」
私がチーを死なせてしまったんだ。
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