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本編

第7話 俺様の誘拐事件と城館のボス部屋

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おばさんに頭を撫でられていると、さっきの少年が戻ってきた。一緒に、銀髪の大人しそうな女の人も一緒だ。黒縁のメガネは、ひっぱって遊んだら面白そうだ。

「エヌエラお姉さま、お久しぶりです」

「エミリー元気そうね。ちょっと相談に乗って欲しいんだけど、時間取れないかしら? このヌコは、みーちゃん。F級ハンターなのよ。すごいでしょ」

「お姉さま、私がヌコが駄目なのをご存知なのでは?」

そんな事を言っても無駄なのだ。俺様たち猫は人の目に見えないものでも見えるものがある。猫には見えるんだ、ゆらめく猫好きオーラがな。

少し廊下を進んだ所の会議室に通されたから、俺様はテーブルの上に飛び降りて毛づくろい。抱っこされるのも、ちょっと疲れるのだ。

「それで、お姉さまのご用件は?」

茶色の女の人エヌエラが、また騒動のことを説明しだした。俺様はちょっと退屈だから、眼鏡の女の人の前に座ってみた。

眼鏡はチラチラっと光ったりするから、眺めているだけでも面白いのだ。でも、チラチラする光を見ていると、やっぱり捕まえたくなるのだ。

眼鏡の女の人の肩によじ登ってみた。爪に銀色の髪が絡まるから、前足をピピッと振ってほどく。
髪に鼻をつっこんでふんふんふん。ふむ、この匂いは健康だな。よし、それじゃあ眼鏡をガブリ。

「お姉さま! このヌコ、アレルギーが出ませんよ? ヌコが近くに居るだけで、すぐに肌にでるのに。この子なら大丈夫みたいです!!!」

俺様は眼鏡を咥えたまま、眼鏡の女の人に抱っこされてしまった。あれ? 眼鏡を外したら、眼鏡の女の人じゃないかも?

頭と背中を撫でられて、肉球をむにむにされて、お腹の匂いを嗅がれたり、なんか大変なことになったから、テーブルの上に脱出するのだ。

あれれ? 逃げられない、また眼鏡の女の人に抱っこされてしまった。この人は相当な使い手だな。

「それで、この素敵なヌコちゃんを、ステハン商会が狙っていると言うのですね。わかりました、ご協力しましょう」

それから、眼鏡の女の人の同僚たちが沢山やってきて、俺様は抱っこされたり撫でられたり大変な目にあったのだ。居るだけでいいって言わなかったっけか?

それから、また別の女の人に会いに行ってまた同じような目に遭ったのだ。ここは兵務室という所らしい。吊り目の女の人が、ここのボスかな。ちょっとだけ棒の人衛兵達と同じ匂いがする。

「へー、あのシエトンが、みーちゃんを追いかけ回したのですか? ステハン商会に弱みでも握られたか、金で抱きこまれたか・・・もっと厄介なものかも」

茶色の女の人エヌエラが俺様を吊り目の女の人の腕に乗っける。はいはい、解りましたよ。俺様は頭をスリスリして指をちょっと舐めてやった。

「ふふふ、お利口なヌコさんですね。そういえば、ノッド砦から追加要員の申請がありましたね。最果ての場所ですから希望者も居なくて。ジョアンナさん、シエトンさんの隊の人を候補にいかがですか」

ジョアンナと呼ばれた女の人はさっそくペンを取り出してメモを取っていた。

「解りました! みーちゃんを虐めたやつらですからね、書類を作ってリストにまぎれ込ませましょう。第28班のシエトン隊長ですね。候補が少なくて悩んでたから担当官も大喜び。これで決まりますよ。任期は、20年にしときましょうか」

やっと、終わった~と思ったら、まだ次があるのか?

俺様は、人と遊ぶのは嫌いじゃないけどな。
あっちの部屋で、こっちの部屋で、難しいお話をして、俺様はもみくちゃにされたのだ。

もうガマンの限界、疲れたのだ! 俺様はもう帰る!
逃げ出そうとしたら茶色の女の人エヌエラに捕まえられて、ちょっとうんざり。

「みーちゃん、次で最後よ。ダンジョンで言えば最下層のボス部屋だから、もう少し頑張って」


最後の部屋は”法務室”って部屋だった。法務ってなんだ? 食べられないなら俺様はどうでもいいんだけど。

また、難しい話をしているから、俺様は適当に女の人たちに撫でられておく。

ここのボスは、くるくる巻き毛のツンとした感じの女の人だな。

俺様はもう疲れて面倒だけど、その場所のボスには一応挨拶しておかないとな。
胸元をくんくん。えーと、この匂いは・・・。こっちかな? 脇の下をくん。
ここだな! 脇の下に鼻を突っ込んでふんふんふん。

「ちょっと、みーちゃん、やめなさい」

茶色の女の人エヌエラが俺様を抱き上げて、テーブルの上に戻された。

でも、すごく気になる匂いなのだ。パパさんがお酒を飲んでるときに行くと、こっそりくれたチーズの匂いなのだ。また食べたいなあ。
チーズくれないかなあ。

俺様はまた、チーズの女の人にまとわりついて、手をペロペロ、腕をペロペロ、顔もペロペロ、髪もペロペロ、ほらほら撫でていいんだぞ。喉をゴロゴロ

だから、チーズくれないかなあ?

「本当に人懐こいヌコちゃんね。かわいい舌でペロペロしてくれるの? ありがとう。みーちゃんをいじめるなんて酷い人たちねえ」

これだけサービスしたからチーズが欲しいのだが?

「エヌエラさんのお考えを聞かせてもらっていいかしら?」

チーズの女の人の眼が一瞬するどくなったぞ。茶色の女の人エヌエラも、今までより真剣な顔になったのだ。

「衛兵隊の方が、みーちゃんの所有権をステイン商会に認める書類と、ハンターギルドへの返還令状をお持ちだったのですよ。それで、ハンターギルドとしても従うしか無かったのです。
ステイ商会が大店だと言っても、さすがに法務関係の書類は用意出来ないと思うんですが」

なんだ、チーズの話しじゃないのか。俺様は、チーズについて聞きたいのだが?

チーズの女の人が片手を頬にあてて、ちょっと考えている。
この隙きに、俺様は脇の下へダッシュ! しようとしたら、茶色の女の人エヌエラに止められた。

チーズの女の人は、隅のほうにいた小柄な女の人に向かってニッコリ微笑んで話しかけた。

「ところで、リサさん、あなた室長といい関係なんでしょ?」

この微笑みがめっちゃ怖い。俺様は、尻尾がごわごわになってしまったのだ。

「え・・その・・・ご存知でしたか・・・」

「よくある話だから気にする事はないわよ。ただね・・・、エヌエラさんがここまで来たのよ?
城館の女性陣はみーちゃんの味方になってるはずよ。室長さんの色んな噂が出回るかもしれないわねぇ」

「そ、そうですわね・・・その・・・どうしましょうか」

「そうね~、貴女まで巻き込まれるのはかわいそうだし。室長がステイン商会と手を切るって感じかしら? それから、関係書類の控えも処分したほうが良いんじゃない? 証拠があると、引くに引けなくなるわよ。室長の公文書偽造疑惑とか不倫疑惑とか巻き込まれるのはイヤでしょ?」

「わ・・・かりました。今夜にでも話してみます・・・」

チーズの女の人って、強いな。
なるほど、ここがボス部屋か。茶色の女の人エヌエラが言ってた通りだな。

難しい話が終わったみたいだから、俺様は鳴いてみた。

「にゃぁ?」

リサって人が、頭を撫でてくれたけど、チーズはくれなかったのだ。

俺様は騙された気分。もう帰る! すぐ帰る!
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