【本編完結】運命の番〜バニラとりんごの恋〜

みかん桜

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2.バニラの香り

「なぁ、結果どうだった?」
「え?」

 中3の健康診断ではバース検査も行われる。今さっき行われた帰りのホームルームで渡されたその結果を、親友の日比野一樹ひびのかずきは聞きたいのだろう。ベータ以外だと疑ってもいないから、気軽に聞きに来たんだろうな。検査結果、すぐ鞄にしまっておいてよかった。

「結果だよ、バース検査の」
「別に、前回と同じ」
「だよなぁ。そう簡単に変わらないか」

「あぁ」
 前回と同じくオメガだったよ。

「やっぱバースが変わるなんて現実じゃ起こらないよなぁ」
「だな」

 一樹が言ってるのは春休みにやっていた映画の話。ベータだった主人公が中3のバース検査でオメガ診断され、状況がガラッと変わったことに戸惑い、困難を乗り越えアルファと番になって幸せになるまでの物語だそうだ。

 この国では小6と中3でバース検査が行われる。小6だけだとオメガ寄りのベータのバース診断に誤りが出る可能性があるし、だからって中3だけだと初めての発情期に間に合わないオメガがいる。アルファは目に見えて違いがあるからわざわざ調べる必要なんてないらしいけど、念の為全員が2回の検査を受けるのが法律で定められているんだ。

 この映画の主人公は、小6時、オメガよりのベータだった設定ってところか。その場合、現実だとオメガになる可能性を説明されるはずだから、中3時点で戸惑う人のほうが少ないのにな。

 俺だってそう。まぁ、俺の場合は迷うことなくオメガだったから少し違うけど。でも俺は小6の時に一通り戸惑ってオメガ性を受け入れ済みだから、今回はだろうなって感想だけで済んだんだ。

 両親はどっちもベータ。3つ上の姉も同じくベータ。先祖を遡っても、遠い親戚まで調べたってベータしかいない。ベータ家系の俺がオメガだなんて…一樹も思わないよな。

「そうだ! 今日の帰り駅前のコンビニ寄っていいか?」
「えぇ面倒。いつものとこでいいいじゃん」

 一樹とは同じバスケ部で、通学路の途中にあるコンビニで買食いして帰るのが俺たちのルーティーン。

「いやさ、映画のコラボ商品出てるんだよ」
「コラボって…」

 恋愛映画だよな?

「主人公がスイーツ好きでな。相手のアルファが手作りしてプレゼントするんだけど、ツンデレな主人公が~「分かった分かった。駅前のコンビニとコラボったんだな」」

 全部聞く方が疲れる。絶対長いし。

「そうなんだよ~いちごのエクレアでさ」
「一樹甘いの苦手じゃん」
「日向好きだろ?」

 ……別に嫌いじゃないってだけ。

「写真撮りたいだけかよ」
「いいじゃん。奢るから」
「まぁいいけど」

 いちごのエクレアか。
「ふふ」
 楽しみだ。

「日向ってたまに可愛いよな」
「は?」
「いって! 殴るなって~」

 ムカつく。可愛いなんて俺には一番似合わない言葉を言いやがって。


 そう不貞腐れていたら、隣のクラスに居るバスケ部員が俺達を呼びに来た。

「日向~、一樹~、部活行こうぜ~!」





 いつものように部活が終わり、面倒だからと誰一人として制服に着替えない部員たちが、あちこちで疲れた~って言いながら体育館に寝そべっている。もちろん俺もその一人。

「水分取れよ~」

 顧問の掛け声で一斉にお茶を飲みだす部活仲間。

「はぁぁ」
 まじで疲れた。

 今日に限ってみんなテンション高すぎ。確かに身長がどれだけ伸びたとか…テンション上がるのも分かるけどさ。今日の俺は色々複雑なんだよ。

「よしっ! 行くぞ日向!」
「ちょ、まてっ! 一樹、引っ張るなって」

 もう少し寝ころがらせてくれたって良いのにと思う俺と、本格的に暗くなる前に家に帰りたいから早くコンビニに向かいたいと思う俺との戦いだ。勝ったのは強制的に後者の俺。

 駅前とか面倒でしかない。家の近所にも駅前と同じコンビニがあるけど、そこは一樹ん家から少し遠いから仕方ないって分かってるけどさ。駅までちょっと距離があるから部活帰りに行きたくないんだよな。

 文句も言わずに付き合う俺って親友思いのいい奴。だなんて自画自賛しながら、地味に気になっていたことを聞いてみた。

「そういばさ、映画って誰と? まさか彼女できた?」
「おう、彼女!」

 まじかっ!

「なわけないだろ。従姉妹だよ。遊びに来た時に母さんが連れてけってうるさくて」

 って従姉妹かよ。

「へぇ。その子何歳?」
「高3」

 まさかの年上。それって一樹が連れてかれた方では?

「がっつりターゲット層~従姉妹も友達と行かないんだな」
「いや、あいつ何回も見てるから」

 と遠い目を映画館のある方へ向けた一樹。何回も見るとか…

「謎すぎ」
「相手役アルファのファンらしい」

 あぁ~、確かにあの俳優はカッコいいわ。

「なるほどな。んでもれなく一樹もハマったってわけか」
「イエース」

 いくらカッコよくても1回でいいよな、なんて笑っていたら目的地のコンビニにたどり着いた。

 …うわぁ、他中学のやつかな? オメガだからそう思ってしまうのか、数人でもコンビニ前にたまられるとちょっと怖いんだよなぁ。

「……あれ?」
「どうした?」

 コンビニに入る直前、微かに感じた香り。

「いや、なんか今ちょっとバニラ? の匂いした」
「そうか? まっ、誰かがアイス落としたんだろ」
「う~ん…あっ! 一樹待てって」

 まじで一人にすんなよな。両手にエクレアを持っている一樹の元へ慌てて向かった。どうやら発売日が今日のようで、問題なく手に入れられたみたいだ。

「日向、あったあった!」
「良かったな」
「3っつくらい食べれるか?」
「無理」

 そんなに食べたら晩ごはんが入らないし、母さんに怒られる未来しか見えない。

「てかなんで3つも?」
「それは~「あ~、いいや」」

 どうせ主人公が食べてた数か、相手役アルファが用意した数か、だな。

 購入後、コンビニ前でエクレアを取り出し始めた一樹。ここじゃなくていつものコンビニに移動したかった…。

「って、俺の手に載せるのかよ」
「だって食べるの日向じゃん」
「1つだけにしろよ」

 結局3つ買いやがって。

「おいっ! 無理だって言っただろ!」

 勝った時点で出すかもとは思ったけどさ。本当に全部出すと思わないじゃん。

「まぁまぁ、袋きれいに破ったし元に戻せるから」
「あのなぁ…」

 コレ、うまく戻せるのか? 体温でチョコが溶けそうだし、なによりなんだか心が落ち着かないし…。とりあえず早く撮ってくれ。

「おぉ!! 映画とおんなじ。いい感じだわ」
「それはなにより」

 一樹が満足するまでエクレアを載せた手を動かさないようにしていたら、後ろから声をかけられた。

「ねぇ」

 っ!!!

「「あっ」」

 その距離があまりに近く、驚いた拍子にエクレアを落としてしまった。

 俺のいちごエクレア…

 撮る前に移動すればこんな事にならなかったのに。もう早く帰りたい。

「ごめん! 新しいの買ってくるよ」
「大丈夫だから! 一樹、撮ったよな?」
「えっ? あ、あぁ」

 一樹は意味がわからないって顔をしているけど、そんなの気にしていられない。俺は早く家に帰りたいんだ。

「もう帰ろう!」
「ひ、日向!?」

 体育館を出た時とは逆で、今度は俺が一樹を引っ張ってコンビニ前から移動した。


 店前にたまってた他中学の奴ら。俺たちに声をかけてきたのはチャラそうなやつで。何となく、本当に何となくだけど、あそこに長くいちゃいけない気がしたんだ。


感想 7

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