【本編完結】運命の番〜バニラとりんごの恋〜

みかん桜

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62.クラス替え

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「日向、これにサインして」

 そう言われたのは1年3学期の終業式の日だった。朝学校に向かう車の中で渡された書類。

「番申請書?」
「そう。既に番ならアルファのサインだけで良いんだけど、俺達はまだだから」
「えーっと、何に使うんだ?」

 その前に俺、まだ番になるって言ってないんだけど。

「来年度も同じクラスになるために、必要な書類なんだ」
「なるほど」
「学年途中でクラスを変えることもできるけど、日向はまだベータを装いたいでしょ?」
「……うん」

 途中で変わったらオメガだってバレるよってペンを渡され、言われるがままにサインをしてしまった…。俺、流されてないか?

「ありがとう。後は俺に任せてね」
「おう…ありがとな?」

 ……まぁいいか。同じクラスなのは嬉しいし。


 なんてことがあって迎えた新学期。俺達のクラスは2年7組。

「光琉、他にも何かした?」

 光琉はもちろん宇都宮と稜ちゃん、一樹と蓮まで同じクラスだ。

「あぁ、伊織のアドバイスを受けてな」
「稜ちゃん?」
「番申請書に、『番予定のオメガを守るため、信頼する人間を周りに置きたい。以下の者も同じクラスを希望する』と追記するよう言っただけですよ。追記してはいけない、とはどこにも書いていなかったので」

 日向嬉しい? と軽く抱きしめながら聞いてくる光琉。

「「「きゃー!」」」

「うわぁ!」

 びっくりした。久々に叫ばれたな。

「ねぇ。もしかしてこの2人、去年からこんな感じなの?」
「そうですよ」

 お試し期間中じゃなかったっけ? と蓮に目で訴えかけられる。

「日向、2年連続同じクラスだな!」
「「いえーい」」

 光琉の腕の中から手を出して一樹とハイタッチ。

「いやいや、一樹なんて気にもすらしないじゃん」
「そのうち鶴間も慣れますよ」

 とスマホを弄りながら話す稜ちゃん。

「あー、俺またピヨちゃんと前後だけど、光琉文句言うなよ?」
「触るなよ」
「はいはい」

 そうか。またしばらくは宇都宮と前後の席になるんだよな。

 追記メンバーの中に『稜里』の名前は強すぎて忖度が働いてそうとか思ったけど……みんなと同じクラスなのってやっぱり嬉しい。

 新しい1年、楽しくなるといいな。

「可愛い」
「く、苦しい」

 力の差を考えてくれ! 力いっぱい抱きしめながら、可愛い可愛いとずっと言っている光琉。

「ねぇ日向、キスしてもいい?」
「それはダメ」

 可愛いもキスも、言われているのは自分だと脳内変換したのか、数人が力が抜けて座り込んでいるし、蓮からは相変わらずお試し期間中だよねって視線を受けるし。

 俺を睨んできている数人の女子、光琉のことを本気で好きなんだろうな。

 ダメだ。さっきまでと違ってネガティブ思考に……光琉を見上げるといつものように笑顔を向けてくれるけど。

 蓮と同じクラスになって、蓮の良さを知った光琉が蓮を好きになるんじゃないか? 光琉に想いを寄せている女子の中から、光琉が好きな人を見つけてしまったら?


 すぅー。

「いい匂い」

 バニラシナモン…この匂いは誰にも知られたくない。


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