迷子猫(BL)

kotori

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第3章

3.ミケside

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期末考査が始まった。

俺は体育以外苦手な科目がないので余裕だけど、海斗の事が気がかりだった。
バイトばっかりしてたから、勉強する時間なんかなかったはずだ。
ここ三日間は俺の部屋で勉強したけど、結局途中で(エッチな方向に)脱線したのであんまり意味はなかった気がする。

――まぁ赤点さえとんなきゃ大丈夫だろ

海斗はそう言って、笑ってたけど。
カリカリというシャーペンの音を聞きながら、俺はテストとはまったく関係ないことを考えていた。

――アレじゃね?もしかしてミサキちゃん

――てことは海斗の元カノ?

「………」

――あいつ、女がいるぞ

頭のなかにいろんな声が重なって聞こえてきて、少し混乱する。

……関係ないし…

別に海斗に元カノがいようがその子と今でも連絡をとってようが、別にどうだっていい。
俺に過去の事をとやかく言う筋合いはないと思うし、だいたい自分はどうなんだよって感じだし。
海斗は全部わかったうえで、俺を受け入れてくれている。
好きだと言ってくれる。大切にしてくれている。

……それで充分なはずなんだけど

どうしてこんなに、モヤモヤした気持ちになるんだろう…。





「そんなん、ヤキモチだろ」
「……なんでいつも、断定できるわけ?」
「いやむしろ、なんでわかんねーの?」

テスト期間中、学校は午前のみになる。
でも海斗は夜までバイトだし、ユカリさんの店もまだ開いてない。
ヒマを持て余した俺が屋上でぼんやりしていると、なぜかそこに先輩が現れた。

「先輩、テストどうだった?」
「楽勝。俺頭イイもん」
「うわ、やな感じ」

ケラケラ笑いながら言う。
最近、よく先輩とここで話す。
殆どどうでもいいような内容ばっかだけど、先輩は俺の話を聞いてくれる。
今まであまり友だちがいなかった俺にとって、その時間はちょっと新鮮で楽しかった。

「……あーあ、もう俺にしとけばいいのに。そしたらおまえ、いちいち悩まなくてもいいじゃん?」
「………」

確かに先輩といると楽だ。
海斗といる時みたいにどきどきして、苦しくなったりしないし。

……でも先輩は、特別じゃない

「……おまえさ、不安なら不安ってちゃんと言えよ」
「え?」
「気持ちは言葉にしないと伝わんないって、俺は今痛感してるよ」
「………」
「誰だか知んないけどソイツもさ、おまえの事ほんとに想ってくれてるなら、ちゃんと答えてくれるって」
「……うん」

きっと海斗は、はぐらかしたりしないと思うけど…。

「……そんな顔すんなよ。襲いたくなるじゃん」
「ダメ」
「じゃあチューだけ」
「ダメ」

ちっ、と先輩が舌打ちする。

「……俺っていい奴だな」
「……うん。先輩って、いい人だと思う」
「……結局いい人どまりかよ」

先輩は苦笑いした。

「……先輩、」
「なに?」
「ありがと」
「なんだよ、いきなり」
「話、聞いてくれて…俺さ、ほんとわかんない事ばっかで…」
「………」

でもこうやって誰かに話すことで、少し気持ちが楽になる。
今まで友達とか、別にいらないって思ってたけど。

「……先輩がいてくれて、よかった」
「………。そっか」

その時、携帯が鳴る音がした。

「あ、わり。俺もう行くわ」
「うん。俺、もうちょっとここにいる」
「おう。なんかあったら連絡しろよ?やさしーい先輩が話聞いてやるから」
「下心はナシでね」
「しつけーよ」

先輩は笑ってじゃあな、と言うと屋上を出ていった。


 
……ヤキモチ…

一人になった俺は、倉庫の裏に座ったまま白っぽい空を見上げた。

バイト先の女の子や元カノからの電話に動揺したり。
部屋に来るのが遅くて不安になったり、うわのそらだと何を考えてるのか気になったり。
もやもやして、落ち着かなくて。
これが、ヤキモチ…?

……まじかよ…

なんだか笑ってしまった。



海斗は今日も遅いかもしれない。
きっと疲れてるだろうから、なんか元気になりそうなもん作っといてやろう。
そんな事を思いながら立ち上がった。
と、その時。

「……ミケ?」

振り返ると、屋上の入り口に海斗が立っていた。

「……何してんだよ、そんなとこで」

あんたこそ、と思ったけど、それを言葉にはできなかった。
なぜなら海斗が…いつもと全然違う表情をしていたから。


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