迷子猫(BL)

kotori

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第4章

4.

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「てゆうか、お腹減らない?」
「お昼まだだったしね。ご飯食べに行こっか」

はい、と笑顔で答える海斗くんとは対称的に、ミケは口を尖らせたままだ。
でもそんな顔をしてると本当に小さな子どもみたいで、なんだか可愛い。



海の家は混んでたけど、時間が遅かったので二十分くらいしか待たなくて済んだ。
通された席に座り、ビールとジュースと焼きそばなんかを適当に頼む。

「可奈さん、その水着似合ってるね」

ミケがジュースを飲みながら言う。

「でしょー?セールで安かったんだけど」

斜めのラインがはいった、黒いビキニ。
年齢的にはちょっと不安だったけど、スタイルはなんとか維持できてるし、まぁアリだと思う。
すると隣りで煙草を吸っていたユカ姉が言った。

「それにしてもミケ、あんたほんとに色白いわね。しかも細いし」

悪気はまったく無かったであろうその言葉に、ずーんと暗い表情になるミケ。
どうやら気にしていたらしい。

「……え?ねぇちょっと、誉めたのよ?今」
「いや、男にそれはちょっと…」

海斗くんは苦笑いだ。
その時タイミング良く、お店のおばちゃんがお好み焼きを持ってきた。

「あ、ほらミケ、お好みきたよ。食べよ食べよ」
「あ、あたし切ったげるー」

そんなことを話してると、おばちゃんが驚いた顔をした。

「あらぁ、可愛らしい子がいると思ったら、男の子だったのー?」
「………」
「………」

おばちゃんの一言は、それこそ悪気は無かったと思うんだけど。
しぃんと静まったテーブルで、一番初めに吹きだしたのは海斗くんだった。

「……やっ、ごめん、けど…」
「……ぶっ、」

それが伝染したように、あたしとユカ姉も笑いだしてまった。



「もう、ミケったらー」
「お好み焼き、冷めちゃうよー?」
「………」

もはやすっかりいじけてしまったミケは、部屋の端で膝を抱えている。
海斗くんは小さく溜め息を吐くと、ぽんぽんと優しくミケの頭を叩いた。

「ほら、いい加減機嫌なおせって」

そしてフン、とそっぽを向いたミケの耳元で、何かを囁く。

「………」
「………」
「……お好み焼き、食べる」

すごすごと席に戻ってきたミケに、はいどうぞ、とユカ姉が皿を渡した。

「だから、残すなって言ってんだろ?」
「ニンジン嫌い」
「じゃあなんで肉もよけんの」
「嫌いだから」
「おまえなぁ…」

せっかく仲直りしたと思ったのに、またしても揉めだす二人。
でも、なんだかそれはとても微笑ましい光景で。
ユカ姉もあたしの隣りで、優しい笑顔を浮かべていた。


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