迷子猫(BL)

kotori

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第4章

10.ミケside

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「………」

……どうしよう

なんとなく予想はしていたものの、海斗は衝撃を受けてるようだった。

……ヤバかったかな、やっぱ…

「おまえ…いつ頃からここに来てたの?」
「……中二くらい?」

唖然とする海斗。

「まじかよ…てか、なんで?」
「……なんでって、」

勿論ユカリさんに会いにきてたのもあるけど、ここはバイトの客探しに絶好の場所だった。
ちょっと仲良くなったら内緒で番号を交換して、外で会ったりして。

「………」

……やっぱ連れてこないほうが、よかったかも…

後悔しつつ、口を開く。

「……あのさ、海斗」

海斗が嫌ならもう来ない。
そう言おうとしたんだけど。

「……わかった」
「……え、」
「いいよ、わかった」

海斗はそう言うと、笑って俺の頭を撫でた。

「……でも、」
「おまえはここが好きなんだろ?」
「……うん」

確かに目的は色々あったけど、何よりこの店の雰囲気が好きだった。
どんな時でもここに来れば、ユカリさんがあたたかく迎えてくれたから。
なんだか、安心できたんだ。



「そういえば日焼け、もう大丈夫なの?」

テーブル席から戻ってきたユカリさんが言う。

「可奈が大笑いしてたけど」
「大笑いって…」

ひでえと呟くと、海斗が笑う。

「でももう戻ってるみたいだし、よかったじゃない」
「よくないし。ちょっと日焼け、してみたかったのに…」
「そうだったの?……あ、もしかしてアレ、まだ気にしてた?」
「………」

……気にするに決まってんじゃん!

隣りで思い出したように吹きだす海斗を睨みつける。

「いいじゃん、おまえはそのままで」
「そうよ、贅沢ねぇ。どんなに美白しても、なかなかそうはならないわよ?」

はい、とポッキーがさしてあるグラスをカウンターに置きながら、ユカリさんが言う。

「あ、海斗くんお腹減ってない?簡単なものなら作れるけど」
「大丈夫っす。賄い、適当に食ってきたんで」
「海斗くんのお店って、賄いがでるの?」

俺もそれは初耳だった。

「いやまぁ、自分たちで適当に作って適当に食ってるっていうか…って、なんだよその顔」
「……ほんとはカスガさんに作ってもらってんじゃないの?」

そう言うと海斗がえっ、という顔をする。

「……それはまぁ、流れ的にそうなる事も…」

するとユカリさんが笑った。

「やだミケ、やきもち?」
「そんなんじゃないしっ」
「てゆうか、晩飯は毎日おまえんちで食ってんじゃん」
「毎日?やだもう、あんた達ほんとに仲良しねぇ。でもミケ、料理できるの?」
「うまいっすよ」
「意外と家庭的なのねぇ」
「……なんか素直に喜べない」

それに実は料理の本を何冊か買っちゃった事は、もう絶対に言いたくない。

「いいお嫁さんになるわね、きっと」
「なるなる」
「ならないしっ」

そんな話で盛り上がっていると、携帯が鳴った。
可奈さんかと思ったけど、鳴ってたのは俺の携帯じゃなかった。

「あれ、俺?」
「カスガさんからだったりしてー」
「ちょ、勘弁してくださいよ」

ユカリさんの言葉に苦笑いした海斗だったが、携帯を開いてその表情が少し曇った。

「……誰?」
「……裕太」

そしてちょっとごめんと言うと、海斗は席を立った。


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