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第5章
10.
しおりを挟む――あんたには関係ない
出会ったばかりの頃のミケは、いつもそんなことを言っていた。
例のバイトでいろんな奴と関係を持ちながらも、それはあくまで仕事のうえで。
身体を受け入れることに抵抗はなくても、心を受け入れることは頑なに拒んだ。
だけど一緒にいるうちに、少しずつ自分に心を開いてくれるようになったことがすごく嬉しかった。
ミケは、本当は素直で優しくて、ただ少し不器用で。
ふとした瞬間に見せる笑顔も、子どもみたいに拗ねる仕草も、ちょっとしたことで戸惑う様子も。
全部、いとおしく思えたんだ。
『……はい、』
ようやく繋がったと思ったら、電話にでたのはミケじゃなかった。
「……誰だよ、」
思わず低い声がでて、タクシーの運転手がミラー越しにこっちを見る。
『……教師に向かってそれはないだろ、寺嶋』
「……?!」
聞き覚えのある声。
目を見開いて、携帯の画面を確認する。
「……え?なんで、先生が…」
ミケの携帯に出るんだ?
『三宅が忘れていったんだ。あいつ、倒れたんだよ』
「……は?!」
血の気が引いた。
「それって、どういうっ…」
『落ち着け。病院で点滴を打ってもらったから、もう大丈夫だ』
動揺する俺に、河西は静かに言った。
『貧血と、軽い栄養失調だったらしい』
「………」
そういえばあいつ、最近夏バテだとか言ってあんまり食べてなかったような気がする。
本人も慣れてるみたいだったし、無理に食わせるのもどうかと思って特に何も言わなかったけど…。
『寺嶋?』
……そんなことより…あいつがそんな状態の時に、俺は…
「……っ、」
ぎゅっと拳を握りしめる。
可奈さんに言われたとおり、せめて連絡くらいしておけば…。
「……先生、あいつ今…どこにいるんですか?」
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