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第5章
11.ミケside
しおりを挟む薄暗い部屋。
僅かに緊張した空気のなか、重なり合う影は微動だにしなかった。
「……やめろ、」
河西は言い、あっさりと腕の拘束を解いた。
「……っ、いや、だ…」
自分の喉元に突きつけたのは、銀色の細いボールペン。
それは河西のシャツの胸ポケットから咄嗟に奪った物だった。
「……わかったから、」
渡せ、と伸ばされた手を払い退ける。
「………」
手が震え、ごくりと喉が鳴る。
だけど躊躇いなんてなかった。
迷いもなかった。
「……俺も、そうすればよかったのかもな」
そのまま身体を離すと、河西は言った。
そして自嘲じみた笑みを浮かべて俺を見る。
「余計な事を考えずに、みっともなく泣いて足掻いてみればよかったのかもしれない」
その言葉の意味は、まったくわからなかったけれど。
俺はその時になって、ようやく自分が泣いていることに気がついた。
ようやく部屋に辿り着くと、そのままベットに倒れこんだ。
なんだかすごく疲れていた。
「………」
……何があったかなんて、もうどうでもいい
枕に顔を埋めて、出ていった時と変わらない静かな部屋のなかで思う。
どこで誰と何をしてたって構わない。
またここに、戻ってきてくれるなら。
また笑ってくれるなら。
抱きしめてくれるなら。
もうそれだけで、いい。
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