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第5章
14.
しおりを挟む「なんだ、起きてたのかよ」
朝日が射し込む明るい部屋と、コーヒーのいい匂い。
いつもの、朝の風景。
「腹、へってる?つっても何にもないけど…」
キッチンに立つ華奢な背中を抱きしめると、ミケはくすぐったそうに笑った。
「なに、」
「………」
Tシャツからのぞく白い首筋に顔を埋める。
ミケの匂い。
ぬくもり。声。
「……海斗?」
「……嬉しい、」
「は?」
あたりまえのように傍にいることをひどく幸せだと感じるのは、ここ最近様々な現実を目のあたりにしたからなのか。
「……変な奴、」
「うん」
キスは、コンロのスイッチを切る音を合図に深くなった。
「……ん…ぅ…、」
抱きあって口づけて。
時折漏れる息やか細い声に、たまらなくなる。
「……うぁ、」
ミケの身体を抱きあげて、その軽さに驚いた。
と同時にふと、重要なことを思い出す。
「もう具合、平気なのか?」
「……え?」
「倒れたんだろ?昨日」
ミケの表情が変わる。
「……誰に聞いたの、」
「河西。おまえ、携帯忘れていったって」
「………」
「え、てゆうか一緒にいたんじゃ…」
「……他に、なんか言ってた?」
「や、別に…。携帯は学校に取りに来いってさ」
あと、ちゃんと飯を食えって言っとけって。
「いい先生だよな」
「………」
ミケは何も答えずに、ぎゅっとしがみついてきた。
「……あ、あっ、」
こうやってミケに触れる時は、いつも出来るだけ気持ち良くしてあげたいって思う。
心も身体も、満たしてあげたい。
だけど俺には大した技術もないし、気の利いた言葉も知らない。
だからたくさん抱きしめて、たくさんキスして、たくさん好きだって言って。
ガキっぽいかもしれないけど、少しでも気持ちが伝わればいいって思う。
「……ごめん俺、もう、」
でも今はもう、そんな余裕すらなかった。
「……いいから、はやく…っ」
腕のなかのミケは、今にも泣きだしそうな顔で俺を見上げる。
「……俺を、あんたでいっぱいにしてよ…」
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