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第1章
3.
しおりを挟む社会人になって、二年目の春。
入社当時は色々と苦労したものの、今の部署に配属されてからはだいぶ落ち着いている。
仕事にもようやく慣れてきて、今日も定時に退社できそうだった。
急げば駅前のスーパーのタイムサービスに間に合う。
……今日は海斗も早く帰ってこれそうだし…
久しぶりに、ちょっと手の込んだ物を作ってみるのもいいかもしれない。
帰る支度をしながら夕飯のメニューについてあれこれ考えてると、声を掛けられた。
「三宅くんもどう?たまには一緒に」
そう誘ってくれたのは、同じ課の女子社員だ。
……松田さん、だっけ
「いや俺、お酒は…」
「いいじゃない、飲めなくても。いろいろ話そうよ」
彼女には以前も声を掛けてもらった事がある。
……誘ってもらえるのは、嬉しいけど…
「……すみません、今日は予定があって」
「えー、そうなんだ。残念」
すると隣りにいた女子社員(名前は思い出せない)がねぇねぇ、と身を乗りだしてくる。
「もしかして、デート?」
「え?いや、そんなんじゃ…」
「三宅くんモテそうだもんね。でもたまにはお姉さん達とも遊んでねー?」
その場はなんとか笑顔で取り繕って、やり過ごしたものの。
「……はぁ、」
エレベーターを待ちながら、溜め息を吐いた。
仕事はともかく、人付き合いというものにはどうしても慣れない。
会社以外の場所となると尚更だった。
……何を話せばいいのかわかんないし、
とにかく疲れるのだ。
部署内では自分が一番年下なので、気を遣わないといけないし…。
「なんだ、元気がないな」
びくっとして振り返ると、そこには華原(カハラ)さんが立っていた。
「お疲れさまです」
「おう。今日はうちの連中、飲みだって言ってたけど。三宅は行かないのか?」
「……すみません、今日は」
「そうか」
エレベーターには誰も乗っておらず、二人きりになってしまった。
……なんか、気まずい…
数字のパネルを見据えて早く着けと念じていると、三宅はさと華原さんが言った。
「大勢で飲んだりするのは苦手か?」
「えっ…」
思わず言葉に詰まってしまった。
「正直に言え」
「……はい」
「そうか」
「あの、嫌なわけじゃないんですけど…」
わざわざ声を掛けてもらって、ありがたいとは思ってるのだ。
「ただ…みんなで騒いだりとか、そういうのに慣れてないっていうか…ノリがよくわからなくて」
今更嘘を吐いても仕方がないので、正直にそう言った。
「じゃあ今度、二人で行くか」
「え?」
「嫌か?」
「いえっ…そんな、」
その時ようやくエレベーターの扉が開き、じゃあ今度な、と言うと華原さんは去っていった。
……人気があるはずだよな
買い物カゴに野菜を入れながら思う。
華原さんはまだ三十手前という若さで、企画推進室の室長を任されていた。
仕事に関しては厳しいけれど、常に冷静で的確な判断を下す。
その反面、気さくな人柄で誰に対しても平等で優しく、自分のような末端の部下にも気を配ってくれていた。
……重い…
明日が休みということもあって、ちょっと買い過ぎてしまった。
ようやく部屋に着いてビニール袋を床に置くと、携帯が鳴った。
見ると海斗からのLINEで、急に接待が入ったという内容だった。
「……まーじーでー…」
てかもうちょい早く連絡しろよと思いつつ、わかったと返事を返す。
……つみれ鍋は明日にするか、
買ってきた材料を冷蔵庫にしまいながら、久しぶりに新宿に行こうかな、と思った。
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