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第1章
9.
しおりを挟む酔ったミケを初めて見たのは高校を卒業した日、ユカリさんの店でお祝いをして貰った時だった。
――ちょっと見モノよ?
そう言ってユカリさんは笑ってたけど、何も知らなかった俺は呑気にビールを飲んでいた。
そしてそれから、しばらくして。
――ちょっとぉ、あんたあの子のカレシでしょー?いいのぉ、放っといてー
他の客に耳打ちされ、その視線の先を見てぎょっとした。
ビール一杯で酔ったらしいミケは(可奈さん曰く)魔性のフェロモン全開で、あの人見知りな性格はどこへやら知らない男たちと仲良く(べたべた)している。
――おいっ、おまえ何やって
――あ、海斗
――……?!
……え、
いきなり抱きつかれたかと思うと、情熱的なキスをかまされる。
あまりの衝撃に固まっている俺をよそに、他の客は盛り上がっていた。
その間も、今度は店に着いたばかりの可奈さんにミケはふらふらと近づいていく。
――可奈さーん、久しぶり~
――あぁミケ、卒業おめでとう…って、どうしたのあんた
可奈さんも驚いてるようだった。
そして未だ茫然としている俺に、ユカリさんが笑いながら言う。
――ね、あたしが今まであの子に飲ませなかった理由、わかった?
――……や、あの…笑いごとじゃないっすよ…
――あ、やっぱり?
ミケと可奈さんは何やら楽しそうに話している。
と、そこに裕太が遅れてやってきた。
――……んだよ、
裕太はミケの顔を見た途端、ぶすっとした顔になる。
以前二人は一応和解(?)したらしいが、基本的にウマが合わないのか決して仲が良いというわけではない…とゆうかむしろ悪い。
ところが次の瞬間、何を思ったのか――ミケは裕太の頬にキスをした。
――……な…、
俺と同様、言葉を失い固まる裕太。
――……え、あんたもしかしてキス魔?
マジで?と可奈さんが吹きだした。
――……てめえっ、何すんだよ!!
そこでようやく我にかえった裕太が怒鳴る。
――おい海斗っ、やっぱこいつ頭おかしい…ってなんでキレてんだよ!俺じゃねぇだろ!
――何よあんたたち、そういう関係だったの?
――やるじゃなーい
ユカリさんと可奈さんをはじめ、周囲の客まで完全に面白がっている。
――ちょっとカレシ、頑張んなさいよー!
――修羅場よ修羅場!
それはもはや(笑えない)コントだった。
そしてそんな事があってからというもの、もうミケには酒を飲ませないと心に決めていたのに。
「……おまえまさか、さっきの兄ちゃんにもこんな事したんじゃねぇだろうな…」
「……兄ちゃんって、ダレ?」
膝の上で、きょとんとミケが首を傾げる。
「カハラさん、だっけ?さっき、おまえを送ってくれた人」
「……しつちょー?」
潤んだ眼でじっと見つめられて、思わずたじろぐ。
「てゆうか…酒は飲むなって言っただろ?」
「うん…ごめん」
だからその眼で見上げてくるのは反則だろ…おそるべし魔性。
てか酒って怖いな…と思いつつ、溜め息を吐く。
「海斗、怒ってる?」
「……怒ってねーよ」
いや、ほんとはちょっと怒ってるけど。
「……ほんと?」
「ほんと。ほら、いいから今日はもう寝ろよ、明日も早いんだろ?」
「一緒に寝ようよ」
くいくいと袖を引っ張られ、はいはいと一緒に立ち上がる。
ミケが酔うと大抵、ロクな事が起こらないけど。
こんなふうに素直に甘えてくれるのは、悪くないと思った。
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