迷子猫(2)

kotori

文字の大きさ
21 / 41
第2章

1.

しおりを挟む
 
「てゆうかさー、林って何かとミケちゃんにあたるよねぇ」

松田さんが刺身を食べながら言うと、そうそうと諸岡さんが頷いた。

「ちょっとしたイジメだよ、あれ」
「や、でも…別に何かされてるってわけじゃないし」

俺は"半熟卵のふわふわオムライス"の鶏肉を取り除きながら言う。

「なに言ってんの?されてるじゃん思いっきり。今日言われてたデータの入力ミスだって、別にミケちゃんの所為じゃなかったのに」
「でもそれは、俺が最後にちゃんと確認しなかったから…」

メニューに偽りなく、卵はふわふわで甘い。

「……もうっ、ミケちゃんってなんでそんなにいい子なの?」

そう言って、松田さんはビールを飲み干した。

「そりゃ直接本人には言えないだろうけど…こういう所では、言っちゃっていいんだよ?」
「………」

つい笑ってしまった。

「え、なに?」
「……いい子、なんて初めて言われたから」
「え、ミケちゃん本当は悪い子なの?」
「うーん、どうでしょう?」
「でも、悪い子は居酒屋でオムライスとオレンジジュースなんて頼まないと思うけど」

確かにねえ、と諸岡さんが笑う。

「でも、おいしいですよ」
「子どもの頃から好きだったの?お母さんによく作ってもらってたとか」
「……そういう訳じゃないですけど」

母親の手料理なんて、殆ど食べた記憶はない。

「でさぁ、話は戻るけど。林、ひがんでるんじゃない?」
「……ひがむ?」
「ミケちゃんさ、室長に気に入られてるじゃん」

思わず吹き出しそうになる。

「……え、」
「そういやそうかも。ミケちゃん最近、室長とよく話してるもんね」
「たまにご飯食べに行ったりしてるんでしょ?」

恐るべし女子の情報網。

「林さぁ、室長のポスト狙ってるってウワサだもんね」

いやでも、と俺は慌てて言った。

「別に変なことしてるわけじゃ…」
「変なこと?」

しまった、と口をつぐむ。

「えっと、まだ新人だし…仕事が出来ないから気を遣ってもらってるっていうか」
「でももう二年目だよね?室長はミケちゃんが努力してるの、認めてるんだよ」
「で、林はそれが気に入らないと」
「………」

なんでこう、面倒な事になるんだ…。
これまで人付き合いを疎かにしてきたツケだろうか。

「大丈夫だよミケちゃん、うちらはいつでも味方だからね!」
「そうそう!なんかあったらいつでも言いなよ?少しは助けられるかもしれないし」
「……ありがとうございます」

ちょっと笑って、お礼を言う。
今の会社で働きだして、確かに面倒な事は増えたけど。
こういう人達に出会えた事は、素直に良かったと思う。

……職場や仕事の事は、海斗にもあんまり話せないし…

身近にそんな話ができる相手がいるっていうのは、やっぱり心強い。
華原さんが言う仲間の意味が、少しだけわかったような気がした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

シスルの花束を

碧月 晶
BL
年下俺様モデル×年上訳あり青年 ~人物紹介~ ○氷室 三門(ひむろ みかど) ・攻め(主人公) ・23歳、身長178cm ・モデル ・俺様な性格、短気 ・訳あって、雨月の所に転がり込んだ ○寒河江 雨月(さがえ うげつ) ・受け ・26歳、身長170cm ・常に無表情で、人形のように顔が整っている ・童顔 ※作中に英会話が出てきますが、翻訳アプリで訳したため正しいとは限りません。 ※濡れ場があるシーンはタイトルに*マークが付きます。 ※基本、三門視点で進みます。 ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

処理中です...