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第2章
8.
しおりを挟む彼の事が嫌いだった。
歳はそう変わらないが有能で人望も厚く、自分にはないものを持っているその男が。
それが妬みに近い感情だという事は自覚している。
だけどどうしても気に入らない。
それは彼の仕事に対する姿勢や性格、強いては人間性にまで向けられていた。
特に彼が頻繁に口にする、"仲間"という言葉。
課の連中には連帯感や一種の安心感をもたらしたようだったが、俺に言わせればいい齢して何言ってんだという感じだ。
……何が仲間だ、学生時代の部活じゃないんだし
馴れ合いなんてまっぴらだと思いつつ、人気のない非常階段の片隅で煙草に火をつける。
俺は人間関係というものは、努力して作るものだと思っていた。
物事を円滑に、そして自分に都合良く持っていく為に気を配り、今までそれを処世術として疑わずに生きてきた。
だから、華原のことを受け入れられないのかもしれない。
彼はきっと上手く立ち回ろうなんて考えてもいない。
何の打算も思惑もなく歩み寄ってくる彼に皆、惹かれるのだ。
俺自身、何度も惑わされかけた。
だけどどうしても認めたくなかった。
彼に心を動かされるなんて、今まで自分が築いてきた生き方を否定するようなものだったから。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、華原は個人的にはそこまで深く関わってこようとしなかった。
けれど立場的には上司と部下、しかもチーフとサブという関係である以上、行動を共にする機会は多い。
まぁそこは仕事だからと割りきっていたのだが。
きっかけは三宅だった。
彼がうちの課に配属されてから、何かが変わった。
与えた仕事はきちんとこなすし真面目で責任感も強い。
今時の若者にしては礼儀正しいし、これといって問題はないようにみえた。
が、彼にも社会人として未熟な部分はあった。
それは社交性だ。
初めはただ緊張してるだけかと思ったが、彼は誰に対しても頑なに自分を見せようとはしなかった。
ただニコニコ笑って言うことに従い、なんとかその場を凌いでいるように俺には見えた。
部下の面倒をみるのも仕事の一つだし、場合によっては評価の対象にもなり得る。
だけどそれだけじゃなくて、まるで昔の自分を見ているようだったから。
柄にもなく、何とかしてやりたいと思ったのだ。
まずは飲みに誘ってみたが、酒は苦手だと彼は申し訳なさそうに言った。
それならと飯に連れていったが、やはり彼の態度は変わらなかった。
ただ黙って話を聞き、遠慮がちに頷くだけ。
何か訊ねても特に当たり障りのない答えしか返ってこないし、まるで本心が見えない。
正直扱いづらいと思った。
そして俺自身、戸惑うこともあった。
もともと中性的な容貌をした彼が、時折見せる物憂げな表情。
ふとした仕草や、醸し出される雰囲気。
男に対してこういう表現もどうかと思うが、彼には妙な色気があった。
思うように距離が縮まらない。
その事に苛立つ俺を余所に、今度は華原が彼に近づいた。
そして何をどうしたのかは知らないが、三宅は少しずつ変わっていった。
同僚と交流を持つようになり、今まで見たことがないような顔をするようになった。
それが面白くなくて、俺は三宅に対して冷たい態度をとるようになった。
「………」
結局これも、嫉妬なんだろうか。
認めたくはないけれど。
……それにしても、さっきの反応…
覚えのある相手がいるのか。あいつに?
……まぁ、どうでもいいか…
溜め息混じりの煙を吐き出す。
ビルの隙間から見える空は、くすんだ色をしていた。
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