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第2章
9.
しおりを挟む「……で、なんで俺を呼び出すわけ」
「だってヒマだろ、おまえ」
ヒマとはなんだとブツブツ言いながら、俺はジョッキを傾ける。
週半ばだからか、いつもは賑わう駅前の居酒屋もあまり混んでなかった。
「なにおまえ、ケンカでもしたの?あの酒乱ヤローと」
「してねーよ。てか酒乱て、」
「なんだ、つまんね。……てか仕事、忙しいんだってな。可奈が言ってた」
よくやるよなぁ、と枝豆をつまみながらが言う。
「おれアイツは絶対マトモな仕事しねぇって思ってたけど」
「でも俺らのなかじゃ、一番マトモな会社じゃん」
少し冷めた焼鳥を食べながら、海斗は苦笑いを浮かべた。
「アレだな、面接ん時に色目使ったな」
「おまえ…なんでそんなにミケを目の敵にすんの」
海斗は呆れ顔だったけど、そりゃそうだろ。
「そういやこの前、高木に会ってさ」
「マジで。元気だったか?」
「相変わらずみてーよ。ムカつくことに、超カワイイ彼女連れてて」
「げっ、なんだよそれ聞いてねぇし」
それからしばらく、高校時代の同級生の話で盛り上がった。
卒業以来、お互いに仕事や学校が忙しくてなかなか会えない奴が多い。
だけどやっぱり懐かしかった。
「良平さー、大学辞めるかもって」
「は?なんで?」
「なんか親父さんの調子が悪いらしくて。で、店継げって言われたって」
「蕎麦屋だっけ」
「そうそう」
「俺はうどん派だーとか言ってたのにな」
良平にも最近殆ど会ってない。
「みんな色々あんだな…」
「まぁ時間が経てば、考え方とかも変わるんじゃね?」
それが自然なんだと思う。
みんな、それぞれの人生を生きている。
「………。おまえはどうすんの、仕事」
「さぁねー、どうすっかねー…」
焦りがないと言えば嘘になる。
だけど正直まだ大丈夫っしょ、と開き直ってる自分もいる。
内容的に暗くなりそうだったので適当にはぐらかそうとしたけど、海斗はなおも話を続けた。
「俺はゆっくり探すのもアリだと思うけど…可奈さんが、」
「……あいつ、なんか言ってた?」
「や、てか全然会ってねーし。けど、ミケが言ってた。最近なんか、イライラしてるみたいだって」
「………。そんなん、俺の所為かわかんねーじゃん」
実際、そうなんだろうけど。
海斗はまぁな、と短く言った。
「可奈さんも相変わらず忙しいみたいだもんな」
それは俺の方がよく知ってる。
毎日遅くまで働いて、仕事を家に持ち帰ることも多くて。
休日出勤はあるし、デートの遅刻はほぼ毎回、ドタキャンされたことも何度かあった。
でもそれでも何も言えないのは、やっぱり負い目があるからで。
……わかってんだよ、俺だって
彼女がいつも何か言いたそうにしてることも、事実どうにかしなきゃいけないことも。
ーーあんたと一緒なら、何だってできるような気がする
あんな、大見栄きっといて。
「ま、とりあえず今日は飲もうぜ」
ぼーっとしている俺の肩を叩いて、海斗は言った。
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