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第2章
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しおりを挟むあんまり好きじゃないコーヒーを、もう何杯飲んだかわからない。
期限が迫ってることもあり、俺はその日もずっとパソコンと向かい合っていた。
「ミケちゃん、これ去年のデータとの比較表ね」
「あ、ありがとうございます」
差し出された書類を受け取った時、ふと気づいた。
「松田さん…なんか、顔色悪くないですか?」
「あぁ、大丈夫。ちょっと風邪気味なだけだから」
「でも…、」
「心配しないで、薬も飲んだし」
松田さんはそう言って笑ったけど、やっぱり無理をしてるみたいだった。
「それにほら、今が一番大事な時でしょ」
それはそうかもしれないけど…。
掛ける言葉を見つけられずにいると、他の社員と打ち合わせをしていた華原さんがやってきた。
どうやら話を聞いていたらしく、なんの前置きもなく彼女の額に触れる。
「熱があるな。松田、今日はもう帰って休め」
後のことは心配しなくていいから、と彼は言った。
「無理するな」
「……はい。ってゆうか室長、セクハラです」
「……案外元気じゃないか。すぐ帰る支度をしろ。タクシー呼ぶか?俺が送ってもいいけど」
「彼氏に迎えに来てもらいます」
「おーそうしろそうしろ、それなら安心だ。それと三宅、おまえも今日は帰れ」
「えっ、でも…」
彼の目配せで、それが松田さんに気を遣わせない為だと気がついた。
「わかりました」
「最近みんな、残業続きだからな。今日くらい家でゆっくり休めよ」
華原さんは、気を遣わせない為の気遣いがとても上手い人だと思う。
忙しさのあまり部署の雰囲気が殺気だってる時は敢えて場を和ませるような事を言い、皆の表情に疲労の色が見え始めると何気なく差し入れを用意してくれたりして。
常に全体を見渡しつつ、個人に対するフォローも忘れない。
この部署にとって、彼の存在は大きかった。
そして俺はそんな彼に、憧れのような気持ちを抱いていた。
一旦作業を中断し、帰る支度をしながら携帯を見た。
……海斗、もう仕事終わったかな
最近忙しすぎて、まともに顔を合わせてない。
同じ家に住んでるのに、おかしな話だけど。
その時ふと、自分のデスクの上にあるファイルに気づいた。
……やばいやばい…
ファイルを手に、資料室へ向かう。
以前資料を持ち出したまま返すのを忘れて、林さんにこっぴどく叱られたのだ。
薄暗い資料室でファイルを棚に戻していると、ドアが開く音がした。
振り返ると、そこには林さんがたっている。
「あ…、お疲れ様です」
「………」
彼は入り口に立ったまま、じっと俺を見ていた。
「林さんも…残業ですか、」
俺また何かやらかしたっけ…と若干不安になりつつ、彼の様子を伺う。
「……三宅、」
林さんは、ドアを閉めながら言った。
「ちょっと話がある」
彼が笑うところを、俺は久しぶりに見た気がした。
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