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第4章
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しおりを挟む「……次は水、お願い」
隣りに座っていた女の子に小さな声でそう言うと、席を立った。
薄暗い店内は客が多くて騒がしい。
「うー…」
ちょっと飲み過ぎたかもしれないと思いながら、トイレに向かう。
……あー、早く終わんねぇかな…
週末は必ずと言っていいほど、得意先の接待がある。
酒は嫌いじゃないけど仕事だから酔えないし気も抜けない。
そういうのもいい加減慣れたけど、やっぱり疲れる。
昨日はせっかく早く帰れたというのに、ミケが帰ってこなかった。
どうやら任された仕事が大詰めらしい。
最近ずっと残業してたし、泊まり込みになるかもって言ってたし。
……けどあいつ、体力ねぇもんな…
ちゃんとメシとか食ってっかなぁ、と手を洗いながらぼんやりと思う。
……無理してねぇといいけど
昨日電話で話した時、いつもと様子が違ったような感じがした。
なんだか気になってメールしようかと思ったけど、仕事の邪魔になるかと思ってやめておいた。
「はい、おしぼり」
トイレから出ると、さっき隣りに座っていた女の子が廊下に立っていた。
「あ、どうも」
「大変だね、いつも」
はは、と苦笑いする。
ストレートで明るい色の髪に、はっきりとした顔立ち。
あまり話した記憶はないけど、会社でよく使う店なので顔を覚えられてるのかもしれない。
「どっちかってーと、おねーさん達のほうが大変そうだけど」
「そう?」
「うん」
「まぁ、仕事だし」
「うん」
じゃあお互い様だねと笑いあう。
「まだかかるかな」
「どうだろ。あ、でもボトル入れてたよ」
「まじで」
こういう子は話しやすいなと思う。
気さくで、あんまり女っぽくなくて。
「寺嶋ぁー、どこだー?」
「あっ、はい」
慌てて席に戻ろうとすると、そっと名刺を渡された。
「今度は仕事じゃない時にきてよ」
彼女は俺の耳元でそう言うと、にっこりと笑った。
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