29 / 44
後編
9
しおりを挟む
翌朝。
「……ねー先輩、」
「……ンだよ」
その日の俺の機嫌の悪さはただ事ではなかった。
なぜなら隣のバカが、寝ている間にベットに侵入していたからだ。
「なんか今日のナミエさん、様子おかしくなかった?」
俺に殴られた頬をさすりながら、バカが言う。
「……知るかよ」
もはや二人で登校するのに、あまり違和感がなくなっている今日この頃。
そのことに、今更ながら危機感を覚える俺…。
……なんか最近、こいつのペースにどんどん巻き込まれてるような…
そのうち一緒に寝るのが自然になったりしたら…ぞっとする。
学校が終わって家に帰り、いつも通りに部屋に戻ろうとして、そういえば今日はあの人が玄関に出てこなかったことに気づいた。
今までいろんな女の人がこの家に住んだけど、帰ってきた時にわざわざ玄関先まで迎えにくるのはあの人くらいだった。
「………」
手には、空の弁当箱。
リビングにもキッチンにも、彼女の姿はない。
レースのカーテンを通して柔らかな西日が、室内に差し込んでいる。
……静かだな…
誰もいない家は随分久しぶりだ。
あの人は俺が帰ってくる時間にはいつも家にいて、夕飯の支度をしている。
テーブルに弁当箱を置き、二階に向かう。
そして自分の部屋のドアを開けようとした時、廊下の向こうで何か物音がした。
「………」
奥は、あの人達の寝室だ。
……親父、帰ってきてんのか?
あいつは子どもの前だろうとなんだろうと節操がない。
小さく息をつき、ドアノブに手を掛ける。
その時――ガチャン、と何かが割れる音がした。
驚いて奥の部屋に向かう。
ドアを開けると、そこにはあの人がいた。
「……どうしたんですか?」
床に座り込んだままベットに顔を埋めていたあの人は、驚いたように顔をあげた。
真っ赤に腫らした目と、幾つもの涙の跡。
「……ごめんなさい、なんでもないの」
「……なんでもないって…」
視線の先には、ヒビがはいったドレッサーの鏡。
そして床に落ちている、携帯電話…。
「……父ですか」
「……!違うの、高雄さんは」
「………」
その一言で、大体理解できた。
……またかよ…
ぎゅっと拳を握りしめる。
……また、あいつは…
妙にはっきりと、冴えわたる意識。
「……バカじゃねえの?」
自分でも驚くほど冷たい声がでた。
「……要くん…?」
彼女は目を見開いて、俺を見ている。
「なに、庇ってんだよ」
あんなクズを。
気に入った女に片っ端から手をつけて、必要がなくなったら電話一本で即切り捨てるような、そんな男を。
「あいつは自分以外の人間のことなんてどうでもいいんだよ」
「………」
「人を裏切ることをなんとも思わない」
「……そんな」
彼女は小さく首を振った。
「……あんただって、ほんとはもうわかってんじゃねぇの?」
「………。あの人に他に女がいることは、知ってる…私の事なんて、なんとも思ってないことも…ずっと前からわかってた」
「……じゃあ、なんで」
「それでも信じてたの」
彼女はじっと俺を見つめた。
「……要くん、自分のお父さんを悪く言わないで?……あの人は…少し、弱いだけだから」
「……ねー先輩、」
「……ンだよ」
その日の俺の機嫌の悪さはただ事ではなかった。
なぜなら隣のバカが、寝ている間にベットに侵入していたからだ。
「なんか今日のナミエさん、様子おかしくなかった?」
俺に殴られた頬をさすりながら、バカが言う。
「……知るかよ」
もはや二人で登校するのに、あまり違和感がなくなっている今日この頃。
そのことに、今更ながら危機感を覚える俺…。
……なんか最近、こいつのペースにどんどん巻き込まれてるような…
そのうち一緒に寝るのが自然になったりしたら…ぞっとする。
学校が終わって家に帰り、いつも通りに部屋に戻ろうとして、そういえば今日はあの人が玄関に出てこなかったことに気づいた。
今までいろんな女の人がこの家に住んだけど、帰ってきた時にわざわざ玄関先まで迎えにくるのはあの人くらいだった。
「………」
手には、空の弁当箱。
リビングにもキッチンにも、彼女の姿はない。
レースのカーテンを通して柔らかな西日が、室内に差し込んでいる。
……静かだな…
誰もいない家は随分久しぶりだ。
あの人は俺が帰ってくる時間にはいつも家にいて、夕飯の支度をしている。
テーブルに弁当箱を置き、二階に向かう。
そして自分の部屋のドアを開けようとした時、廊下の向こうで何か物音がした。
「………」
奥は、あの人達の寝室だ。
……親父、帰ってきてんのか?
あいつは子どもの前だろうとなんだろうと節操がない。
小さく息をつき、ドアノブに手を掛ける。
その時――ガチャン、と何かが割れる音がした。
驚いて奥の部屋に向かう。
ドアを開けると、そこにはあの人がいた。
「……どうしたんですか?」
床に座り込んだままベットに顔を埋めていたあの人は、驚いたように顔をあげた。
真っ赤に腫らした目と、幾つもの涙の跡。
「……ごめんなさい、なんでもないの」
「……なんでもないって…」
視線の先には、ヒビがはいったドレッサーの鏡。
そして床に落ちている、携帯電話…。
「……父ですか」
「……!違うの、高雄さんは」
「………」
その一言で、大体理解できた。
……またかよ…
ぎゅっと拳を握りしめる。
……また、あいつは…
妙にはっきりと、冴えわたる意識。
「……バカじゃねえの?」
自分でも驚くほど冷たい声がでた。
「……要くん…?」
彼女は目を見開いて、俺を見ている。
「なに、庇ってんだよ」
あんなクズを。
気に入った女に片っ端から手をつけて、必要がなくなったら電話一本で即切り捨てるような、そんな男を。
「あいつは自分以外の人間のことなんてどうでもいいんだよ」
「………」
「人を裏切ることをなんとも思わない」
「……そんな」
彼女は小さく首を振った。
「……あんただって、ほんとはもうわかってんじゃねぇの?」
「………。あの人に他に女がいることは、知ってる…私の事なんて、なんとも思ってないことも…ずっと前からわかってた」
「……じゃあ、なんで」
「それでも信じてたの」
彼女はじっと俺を見つめた。
「……要くん、自分のお父さんを悪く言わないで?……あの人は…少し、弱いだけだから」
0
あなたにおすすめの小説
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
僕と教授の秘密の遊び (終)
325号室の住人
BL
10年前、魔法学園の卒業式でやらかした元第二王子は、父親の魔法で二度と女遊びができない身体にされてしまった。
学生達が校内にいる時間帯には加齢魔法で老人姿の教授に、終業時間から翌朝の始業時間までは本来の容姿で居られるけれど陰茎は短く子種は出せない。
そんな教授の元に通うのは、教授がそんな魔法を掛けられる原因となった《過去のやらかし》である…
婚約破棄→王位継承権剥奪→新しい婚約発表と破局→王立学園(共学)に勤めて生徒の保護者である未亡人と致したのがバレて子種の出せない体にされる→美人局に引っかかって破産→加齢魔法で生徒を相手にしている時間帯のみ老人になり、貴族向けの魔法学院(全寮制男子校)に教授として勤める←今ここ を、全て見てきたと豪語する男爵子息。
卒業後も彼は自分が仕える伯爵家子息に付き添っては教授の元を訪れていた。
そんな彼と教授とのとある午後の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる