sweetly

kotori

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後編

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翌朝。



「……ねー先輩、」
「……ンだよ」

その日の俺の機嫌の悪さはただ事ではなかった。
なぜなら隣のバカが、寝ている間にベットに侵入していたからだ。

「なんか今日のナミエさん、様子おかしくなかった?」

俺に殴られた頬をさすりながら、バカが言う。

「……知るかよ」

もはや二人で登校するのに、あまり違和感がなくなっている今日この頃。
そのことに、今更ながら危機感を覚える俺…。

……なんか最近、こいつのペースにどんどん巻き込まれてるような…

そのうち一緒に寝るのが自然になったりしたら…ぞっとする。





学校が終わって家に帰り、いつも通りに部屋に戻ろうとして、そういえば今日はあの人が玄関に出てこなかったことに気づいた。

今までいろんな女の人がこの家に住んだけど、帰ってきた時にわざわざ玄関先まで迎えにくるのはあの人くらいだった。

「………」

手には、空の弁当箱。
リビングにもキッチンにも、彼女の姿はない。
レースのカーテンを通して柔らかな西日が、室内に差し込んでいる。

……静かだな…

誰もいない家は随分久しぶりだ。
あの人は俺が帰ってくる時間にはいつも家にいて、夕飯の支度をしている。
テーブルに弁当箱を置き、二階に向かう。
そして自分の部屋のドアを開けようとした時、廊下の向こうで何か物音がした。

「………」

奥は、あの人達の寝室だ。

……親父、帰ってきてんのか?

あいつは子どもの前だろうとなんだろうと節操がない。
小さく息をつき、ドアノブに手を掛ける。
その時――ガチャン、と何かが割れる音がした。
驚いて奥の部屋に向かう。
ドアを開けると、そこにはあの人がいた。

「……どうしたんですか?」

床に座り込んだままベットに顔を埋めていたあの人は、驚いたように顔をあげた。
真っ赤に腫らした目と、幾つもの涙の跡。

「……ごめんなさい、なんでもないの」
「……なんでもないって…」

視線の先には、ヒビがはいったドレッサーの鏡。
そして床に落ちている、携帯電話…。

「……父ですか」
「……!違うの、高雄さんは」
「………」

その一言で、大体理解できた。

……またかよ…

ぎゅっと拳を握りしめる。

……また、あいつは…

妙にはっきりと、冴えわたる意識。

「……バカじゃねえの?」

自分でも驚くほど冷たい声がでた。

「……要くん…?」

彼女は目を見開いて、俺を見ている。

「なに、庇ってんだよ」

あんなクズを。
気に入った女に片っ端から手をつけて、必要がなくなったら電話一本で即切り捨てるような、そんな男を。

「あいつは自分以外の人間のことなんてどうでもいいんだよ」
「………」
「人を裏切ることをなんとも思わない」
「……そんな」

彼女は小さく首を振った。

「……あんただって、ほんとはもうわかってんじゃねぇの?」
「………。あの人に他に女がいることは、知ってる…私の事なんて、なんとも思ってないことも…ずっと前からわかってた」
「……じゃあ、なんで」
「それでも信じてたの」

彼女はじっと俺を見つめた。

「……要くん、自分のお父さんを悪く言わないで?……あの人は…少し、弱いだけだから」


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