along-side(BL)

kotori

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心臓の音がすぐ近くで聞こえる。
それはなんだか不思議な気分だった。
那波がこの部屋に泊まっていった事は何度もあったけど、ベットで一緒に寝たのは初めてだ。
でも腕の中はあたたかくて、時折髪に触れる手はとても優しくて。
まるで何かから守られているようで心地よかった。



翌朝目が覚めると、那波は既に起きていた。

―……おはよ

まだ眠たい目を擦りながら声をかけると、窓辺に立っていた那波が振り返った。

――早いじゃん

――……そっちこそ

朝日に照らされた那波の髪が、きらきらしている。

――……今、何時?

――六時過ぎ。……てゆうかおまえ、相変わらず寝相悪いね

――……そう?

自分ではわからないから仕方ないじゃん、とベットに座ったまま思う。

……もう一回寝ようかな…

――寝起きも悪いし。そういや昔学校行く時、俺おまえの母ちゃんと一緒に起こしてたもんな

――……そうだったっけ?

那波は相変わらずぼんやりしている俺に、勝手に淹れたらしいコーヒーのカップを手渡した。

――……ありがと……っ苦っ!

――目ぇ覚めた?

那波がにやっと笑って言った。





その時に全部飲みきれなかったコーヒーが、そのままテーブルの上に置いてある。
俺はベットに座って、ぼんやりとそれを眺めた。

……嫌だったわけじゃない

それなりに覚悟はしたつもりだったし、だから引き止めた。
それでもまだ躊躇いがあるのは、ただ単純に不安だから。
これから先、自分たちがどうなっていくのか、どう変わっていくのか。

……怖いんだ、

後戻りできなくなるのが。
いつか、後悔する時がくるかもしれないという事が。
そして那波はきっと、そんな俺の気持ちに気づいてる…。





那波にはいろんな友達がいる。
高校の頃のバイト仲間や遊び仲間、その他もろもろ。
なかでも那波と特に仲がいいのが皐月(サツキ)さんという人で、直接会ったことはなかったけど話を聞いて名前だけは知っていた。

「あれえ?那波じゃん」

珍しく那波がちゃんと連絡してきて、一緒に夕飯の買い物をした帰り道だった。
振り返ると、不思議な髪型をした長身の男の人がこっちを見ている。

「久しぶりじゃん、今から店?」
「いや、今日は休み」

これでもか、という程つけられた耳のピアスをついしげしげと眺めていると目が合った。

「……もしかして君、ウワサの浩介くん?」
「……はい?」

突然そんな事を言われて戸惑っていると、その人はじーっと俺の顔を覗き込んだ。

「眼鏡かけてていかにも真面目そうでなんか守ってあげたくなる感じって、ねぇやっぱそーじゃね?例の…」
「おまえちょっと黙れ」

那波が慌てたように、彼の肩を掴む。

「……ふーん…そうゆう事…」
「……何が、」

にやにや笑う彼を、那波が不機嫌そうな顔で睨む。

「なあ、今からちょっと飲み行かね?」

なぜか俺に向かってその人は言った。

「えっ…、えっと…」
「ざんねーんっ、今ちょうど晩飯買ってきたところなんだよ。だからワリィけどまた今度なっ」

わざとらしい笑顔で那波が俺の肩を抱く。

「いいじゃんちょっとぐらい。最近忙しくて会えなかったろ?それにせっかくだから紹介しろよ、浩介くん」

ねーっ、と同意を求められて、はぁ…と曖昧な笑顔を返す。

「決定~」
「皐月てめぇ…」
「まぁいーじゃん。ほら浩介くん、こっちだよー」
「えっ、…」

ぐいぐい手を引っ張られて慌てて振り返ったら、那波は渋々ついてきていた。



結局スーパーの袋を提げたまま、近くのスタンドバーのようなところに入った。
カウンターとテーブル席のあるその店は、縦に細長い造りになっていた。
二人はよく来るのか勝手を知っているらしく、ずかずかと奥へ入っていく。

「みっちゃんビールねー!あ、浩介くん酒飲める?」

頷くと、じゃあ三つー、と皐月さん。

「ゴメン浩介、俺こいつにだけは頭上がんなくて…」

那波が小声で言った。
意外だったけどそれもなんだかおもしろそうだったので、別にいいよと答える。

「よく言うよ、上がりまくりだろーが」

聞こえてたのか、皐月さんは呆れ顔で言った。

「聞いてよ浩介くん、こいつ昔から超生意気でー。俺一応先輩なのにさー」
「あ、じゃあ那波とはバイトで?」
「そうそう、いろいろ世話してあげてたの」

皐月さんは三つ年上で、今は元バイト先のバーのマスターをしているらしい。
若いのにすごい、と思っていると皐月さんは苦笑いした。

「ただの雇われだけどね」
「そういやオーナー、元気?」
「相変わらず酒ばっか飲んでる」

それから二人はビールをがぶ飲みし始めた。
皐月さんはとても気さくで、相手に余計な気遣いをさせない人だった。
だから人付き合いがあまり得意じゃない俺も、自然に話ができた。

「そのピアスの穴って、どうやってあけるんですか?」
「あ、これ?浩介もあけてみる?俺やったげようか」
「絶対だめーっ。ってゆうかなんで呼び捨て?!」
「いーじゃん。仲良くしよーぜ」

ふわりと微笑まれて、なぜかどきどきした。
皐月さんは髪型や風貌は派手な印象だけど、どこか落ち着いている雰囲気があって、大人の男の人という感じがする。

……こういう店のカウンターに立ってシェイカー振ってたら、すごくサマになりそう…

「……何みとれてんの?」

那波の不機嫌な声。

「いや別にそんなんじゃ…」
「何?俺かっこいい?」
「え…あ、はい」

つい正直に答えると、ぶっと皐月さんが吹き出した。
と同時に俺は那波に肩を揺さぶられる。

「なに考えてんだよ!おまえの彼氏は俺だろ!」
「はあ?!何言って…てゆうか那波声でか…」

まだお客さんは少なかったけど、店員さんがびっくりした顔でこっちを見てるし。そりゃそうだろう…。

「だいたいこいつ、超タラシよ?見境ないよ?近づいたら即妊娠だから」
「するかバカ。つーかおまえにだけは言われたくないわソレ。ねー浩介、後でLINEに登録…」
「殴りますよ先輩」
「やってみろよ、倍返しにしてやる」

けらけら笑いながら、皐月さんはトイレに行った。

「仲いいんだね」
「………」
「……何、その顔」
「……俺より皐月のがかっこいい?」
「……はい?」
「………」

那波の拗ねた顔はちょっとかわいい、かも。

「あのさ…俺は別に、那波がかっこいいから一緒にいるわけじゃないんだけど」
「……え」
「なあところでさ、ウワサって何?」
「……え?」
「さっき会った時、皐月さん言ってたじゃん。眼鏡かけててーって」
「あっ、ああそれは別に大した事じゃ…」

どうみても不自然な態度の那波を問い詰めていると、皐月さんが神妙な面持ちで戻ってきた。

「……那波、祐希(ユウキ)が来てる」
「……は?なんで?」

那波の顔色が変わった。


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