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しおりを挟む「友達が旅行土産に酒くれてさ。一緒に飲もうぜ」
コンビニの袋からつまみを出しながら那波が言う。
「だからおまえさ…来るのはいいけど連絡しろって。俺いなかったらどうすんの?」
那波はいつも、こっちの都合なんてお構いなしだ。
「まぁいいじゃん、いたんだし。てか何、勉強中?」
「論文。おまえちゃんと書いてんの?」
「……あー、まぁ大丈夫だろ」
「……忘れてただろ」
「はは。バレた?」
那波は呑気に笑いながら、勝手に冷凍庫から氷を出してくる。
「いっつもそれで大変な事になるだろ…。大体おまえ、出席足りてんの?」
最近全然、学校で姿を見かけないし。
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「……ダブっても知らねーからな」
……どうせその単位だって、ギリギリなくせに
俺の心配をよそに、那波は焼酎の水割りを差し出した。
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「ない。あ、勝手に読むな!」
ハイハイ、と言いながら那波は俺の背後に腰を下ろした。
「……邪魔」
「いいじゃん。どうせもう殆ど終わってんだろ?」
長い足の間に挟まれて、肩に顎を乗せられる。
「でも、チェックもちゃんとしたいし…」
「なんだ、終わってんじゃん」
「聞いてんのかよ、人の話…」
溜め息を吐きつつ、諦めてグラスを手に取った。
「皐月が、またおまえに会いたいって。今度一緒に行く?あいつの店」
「え、行きたい。店ってどこ?」
「新宿。あ、一人では行くなよ?あの辺まじ変な奴多いから」
それってどんなとこだよ、と笑う。
「那波よりも?」
「そうそう。もし浩介が誘拐なんかされたら」
ぎゅうう、と力いっぱい抱きしめられる。
また子ども扱いか…。
「ちょ、危ないって、グラス落とす…」
じゃあ飲ませてやるよと那波が言い、俺の手からグラスを取る。
「んっ、……んん、」
口移しされた甘くてとろりとした液体が、喉を熱くして滑り落ちていく。
「………う」
顔がぽうっと熱くなった。
唇の端から少しだけ零れていたそれを、那波がぺろりと舐める。
「……酔っちゃうじゃん」
「いいじゃん、俺介抱するし」
那波は笑って俺を抱っこする。
「まぁ、途中でエッチな事しちゃうかもしんないけど」
「……却下だな」
そうは言ったものの、結局そういう雰囲気になって。
……流されてるって、わかってるけど…
もう何回、那波とこういう事をしただろう。
いちいち数える事でもないと思うけど、那波はもう俺が感じる場所とかやり方とか、全部わかってるみたいだった。
俺に触れる、大きな手。
汗ばんだ肌を滑る指先。
重なり合う太腿の強靭さ。
那波とは違ってなかなか慣れる事ができない俺は、その眼に見つめられてその唇で囁かれるだけで、みっともないくらいに心が乱れた。
恥ずかしくて、でも嬉しくて、そしたらもっと知りたくなって、欲しくなって。
溢れるような快楽に溺れながらも、まだその先を求めている自分に気づかされる。
そしてその事に、また少し怖くなる。
「……浩介」
那波は昔から、人の微妙な感情の変化にとても敏感だ。
「大丈夫だよ」
そう言って俺に笑いかける那波も、そのたった一言でいとも容易く籠絡される自分も、あの頃から全く変わってない。
彼の腕のなかで身体をしならせ、咬えこんだそれを自ら奥へ奥へと誘(いざな)って、貪るように味わい尽くして。
呼吸が、熱が、鼓動が、すべて溶けあって一つになっていくのを全身で感じた。
那波のマンションのすぐ近くで、偶然彼と鉢合わせた。
目があった瞬間とても露骨な反応をみせたので、声をかけるべきか迷っていると彼は俺の前で立ち止まった。
「……変な誤解すんなよな。ただ借りたもん、返しに来ただけだし」
祐希は仏頂面のまま、吐き捨てるように言う。
「あ、いや、してないけど」
「少しはしろよ。ムカつく奴だな、おまえ」
ふんっとそっぽを向く仕草は、まるで小さな子どもみたいだ。
なんだか微笑ましくて、通り過ぎようとしたところをつい呼び止めた。
「なんだよ」
「……ちょっと訊きたいことがあるんだけど、」
祐希は怪訝な顔つきで、俺を見た。
なんでも好きな物を奢ると言うと、祐希はぶつぶつ文句を言いながらもついてきた。
ハンバーガーがいいと言うので、駅前のマ〇クに入る。
狭いテーブル席に向かい合って座ると、彼は早速注文した品々を食べ始めた。
「……お腹、減ってたの…?」
その半端ない量に唖然として言うと、別にという短い返事。
周囲の客もど肝を抜かれたらしくチラチラとこちらの様子を伺っていたが、当の本人は全く気にすることなくハンバーガーにかぶりついている。
その細い身体のどこに、これだけの量が収まるのか…ちょっと不気味だった。
「……で、訊きたいことって何?」
あらかた食べ終えた後、祐希が言った。
色素の薄い髪が一房、ぴょんと跳ねているのを眺めていた俺ははっとする。
「あ、そうだ。……あのさ、変な事訊くけど、どうやったら上手くできるの?」
「は?何が」
「だから…アレ」
声を小さくして言うと、祐希はぽかんとした顔をした。
「俺さ、いつも任せっきりってゆうか…イマイチちゃんとしたやり方がわかんないってゆうか…なんかコツとかポイントとか、ない?」
「……っそんなん口で説明できるか!!てかバカじゃねえの、あんた」
「だって他に訊ける人いないしさ」
「………」
祐希はなぜか、呆然としている。
「……あんたそれ本気で言ってんの?」
「……?うん」
「俺があいつの元カレだってわかってて?」
「うん。だから那波の事、よく知ってるかなって」
「………。あんた、無神経って言われない?」
「え」
祐希は大きな溜め息を吐いた。
「……那波は、あんたの何がいいわけ?まじで」
「……よくわかんないけど、昨日ぬいぐるみみたいって言われた」
「……なんだそれ。てゆうか、可愛さなら俺が余裕で勝ってんじゃん!」
やっぱおまえムカつくと立ち上がった祐希をまあまあと諫めつつ、ほらほらと残っていたハンバーガーを手にのせる。
「……言っとくけど俺、もう那波のことなんて好きじゃないから。彼氏できたしっ」
周囲のお客さんが再びぎょっとしてこっちを見る。
「あ、そうなんだ。その人はどういう人?」
「超かっこいいよ、那波より全然優しいし、大人だしっ」
「へえ…年上なんだ?で、その人と夜はどういう感じに?」
「そりゃあ……っておまえ、結局そればっかだな!!」
「……何考えてんだよ、おまえは…」
祐希と会った事を話すと、那波は愕然としていた。
「祐希くんっていい子だね。口は悪いけど素直だし」
「……まてまてまて」
今日は珍しく那波が学校に来たので、一緒に昼飯を食べていた。
「なんでそうなるわけ?何仲良くなっちゃってんの?」
「仲良くってゆうか…ただ一緒にハンバーガー食べて、いろいろ話を聞いただけだよ」
「なっ、何を話したの?」
「それは…まぁいろいろ」
「いろいろって何?!」
「……内緒」
「はああ?!」
んな恥ずかしい事、本人に言えるか!
まだ修行中だし!
あーもう…、と力なくテーブルに突っ伏す那波の前でサバ定を食べていると、和田がやって来た。
「おう、何話してんの?」
「別に大した事じゃないよ。あれ、今日豪華じゃん」
「やっと給料出てさー。……あれ?那波じゃん、久しぶり」
「……おう」
「なんで死にかけてんの?奢んねーよ?」
「………」
「あれ?てゆうかおまえら仲いいの?なんか意外すぎる組み合わせだな」
「仲いいってゆうか、幼なじみでさ」
へぇ、と和田。
「もう超仲良し。ラッブラブなの俺ら」
「ほほう」
テーブルの下で思い切りスネを蹴ると、那波が呻いた。
「ワケわかんねー事言うな」
恨めしそうな顔をする那波を無視してサバをつついていると、そういえばさと和田が言った。
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