nesessary(BL)

kotori

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過去のことは振り返らない主義だと言うと、あの人はずるいのねと笑った。
じゃあ私もきっと、すぐに忘れられるのね。

本当に忘れられたなら、どんなによかっただろう。





『デートしようよ!』

休憩中にかかってきた電話。
姫はとにかく気まぐれで、基本こっちの都合なんてお構いなしだ。

「今月は無理」

大学を卒業したバイトの子が二人同時に辞めたので、店は忙しかった。
ナツと田浦はほぼフルシフトだし、新しく入った子もまだ慣れてない。

『仕事終わってからでもいいよ?』
「……どこに行くんだよ、そんな時間から」
『いいじゃん、深夜のデート!』
「無理」
『やだ!俺、皐月とデートしたい!しーたーいー!!』

電話口でぎゃあぎゃあ喚かれて、溜め息をつく。
うるさい、めんどくさい、煩わしい。
そう思うのに。

「……わかったから、また今度な」
『今度っていつ?』
「んー…とりあえず店が落ち着いてから」

くわえていた煙草を灰皿に押しつけながら言う。

『……それっていつ?』
「さぁな、もう戻るから切るぞ」
『……わかった』

寂しそうな声。

……あぁ、もう…

「……今日は出来るだけ早めに帰るから。だからいい子にして待っとけ」
『……うん!』

俺はなんだかんだで祐希に甘い。
あいつの本気で悲しそうな顔は、見たくない。
早く寝ろよ、と言って電話を切った。

「……誰?」

びくっとして振り返ると、ロッカー室の入り口に山崎が立っていた。

「……びっくりした」
「ねー皐月ちゃん、誰今の」

にやにやと笑いながら言う。

「彼女ー?」
「……違いますよ」

……てか、いつからいたんだよこの人…




部屋に帰ると、祐希がベットの上で丸くなって眠っていた。
まるでネコみたいだ。

「………」

そっと柔らかい髪を撫でると、ぴくりと反応する。

「……おかえり…」
「ただいま」

だぼだぼのカーディガンの袖で目を擦りながら、のそのそと起きあがった。

「……来週の日曜でもいいか?」
「……え?」
「デート」
「……ほんと?!」
「ほんと」

やったあ、と嬉しそうに笑う祐希。

「だいすき、皐月」

いきなり背中に抱きつかれて、ビールをこぼしそうになった。



――休んでいいぞ

満面の笑みで山崎は言った。

――……はい?

――そうだよなぁ、こんな仕事してたらなかなか普通のデートはできないもんなぁ

……聞いてたのかよ…

店の事は気にすんな、と山崎。

――俺が出るから

――……でも、

――その代わり、来月半ばまで休みナシで頑張ってくれればいいから

――…………

……殺す気か…

でも店は、当分落ち着きそうもない。
それに平日の昼間はあいつが学校だし、週末の稼ぎ時に休めることなんて滅多にないし。

――……わかりました

そう答えると、山崎はにやりと笑った。

――今度紹介しろよ?

――嫌ですよ



「……祐希?」

やけに大人しいと思ったら、祐希は俺にしがみついたまま眠っていた。

「……またかよ」

はぁ、と溜め息を吐いて抱きかかえようと腕をまわした。
そしてそれに気づいた。

でもその時の俺は、大して気にもとめなかったんだ。


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