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しおりを挟む左手首にある、シルバーのブレスレット。
それを買ったのはもう随分前で、そう高いものじゃないけどなんとなくデザインが気に入っていた。
首輪の代わりと称して同じ物を祐希にあげた時、ひとつ約束をした。
――もう、一人で悩むなよ
傍にいるのに、何もしてあげられない。
それが一番嫌だった。
――思ってることを、ちゃんと話せ。それでおまえを嫌ったりしないから
あの時祐希は、嬉しそうに笑って泣いた。
数日後、閉店間際になって那波が店に来た。
「……てか、あいつに行くアテなんかあるわけ?」
カウンターに寄りかかりながら煙草に火をつけ、那波が言う。
「……さぁな、」
「実家は?」
「だから、連絡したって」
あいつがいなくなって、真っ先に電話した。
するとあいつの母親は申し訳なさそうに言った。
――少し前に、急に戻ってきて…
心配しないでとだけ言って、行き先も告げずに出ていったらしい。
本来なら俺が謝らなければならないのに、勝手な息子で申し訳ありませんと逆に謝られた。
「………」
だけどそれで、はっきりした。
理由はわからないけど、あいつはあいつの意志で俺の元からいなくなった。
……だったら、俺は…
「直接、家に行ってねぇの?」
不意に那波が言った。
「……行ってどうするんだよ」
「……息子が虐待されてんのを、見て見ぬふりするような母親だぜ?」
「……それには理由があって、」
「信用できんのかよ?」
思わず那波を見た。
……まさか、
どくん、と心臓が大きな音をたてる。
嘘を吐いてる?あの母親が?
でも、なんの為に?
なんで今更、祐希があの家に戻る必要がある?
「……なぁ、俺が言うのもおかしいのかもしんねぇけど、」
静かな店内に響く那波の声。
「あいつには、おまえしかいねえだろ」
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