21 / 51
体育祭編
2
あ、ヤバい。
そう思った時にはもう遅かった。
急に息が苦しくなって、視界が少しずつ暗くなっていく。
音楽と歓声が、雑音に変わった。
「……っ」
吐き気がして口を手で覆った途端、ぐらりと身体が傾く。
「……おい、淳?!」
クラスの奴の声。
そして遠くで、せんぱい、という声が聞こえた。
夢をみた。
俺と巽は縁側に並んで座っていた。
外は晴れていて、とても暑そうだった。
でも、セミの鳴き声も風鈴の音も聞こえない。
何も聞こえない。
――……なぁ、
――ん、
――それ、何味?
――イチゴ
巽はかき氷を食べていた。
――てゆうか、俺のは?
――さぁ?
――……ちょっとちょうだい
――だめ
――なんで!ケチ!
――だっておまえ、すぐ腹こわすし
――でも俺も食べたい!
ダダをこねると、巽は仕方なさそうに肩をすくめる。
そしてちょっとだけなと言って、スプーンを渡してくれた。
――はい終わり
――はぁ?!まだ一口しか食ってねえし!
だめだ、とスプーンを取り上げられる。
――やだ!もっと食べたいっ
――だめ
夢のなかの巽は、やっぱり意地悪だった。
「先輩っ!」
競技中に先輩が倒れたのが見えて、慌てて駆けよった。
「おい淳、しっかりしろ!」
「誰か先生呼んでこい!」
「先輩っ」
青白い頬に触れると、先輩はぴくりと反応する。
「あのっ、俺が保健室に連れていきます!」
俺におぶわれている先輩は無意識なのか、背中にぎゅっとしがみついてきた。
「せ、先輩、大丈夫…?」
「……うぅん…」
首筋に熱い吐息がかかる。
……うっわ
やばい心臓がばくばくいってる。
このまま持ってかえりてえ!という衝動を抑えつつ、俺はいそいそと先輩を保健室に運んだ。
「たぶん、貧血ね」
この子去年も何回かあったのよね、と保健医は言った。
「まぁ、しばらく休んでたら治るでしょ」
「……俺、なんか冷たいもん買ってきます」
保健室を出ると、俺はへなへなと廊下に座り込んだ。
やばい。もう全然余裕ないかもしんない。
「………」
小さく息を吐く。
……まだ、だめだ
もっと時間をかけて、じっくり攻めないと。
ようやくここまで近づけたんだ。
今までの我慢を無駄にはしたくない。
おし、と気合いを入れると立ち上がって、自販機コーナーに向かった。
……まずは仲良くなって、信用してもらって…勝負はそれから
「………」
……いや、無理。やっぱ無理っ
保健室に戻ると、病人をほったらかしたまま保健医はいなくなっていた。
奥のベットでは、先輩が眠っている。
「……先輩、」
初めて見る寝顔にごくり、と息を飲んだ。
「……ん…」
先輩は時折顔を歪めながら、苦しそうに息をしている。
「………」
そうだ相手は病人だと自分に言い聞かせ、スポーツドリンクのペットボトルを椅子に置く。
そして額からずり落ちた濡れタオルに触れた、その時。
ぎゅっと腕を掴まれた。
「……や、だ…、」
「……え?!」
「もっと……ほし…」
「……ちょ、せっ、せんぱ」
……そんなんされたら!
「……れんにゅー…」
……れ、れんにゅー…?
「……かけて…」
……どんな夢見てんのこの人…
てゆうかやばい。この状態は本格的にやばい。
「……っ、先輩…手、はなし」
「……た、つみ…」
小さな唇から漏れた、その声を聞いた瞬間。
はりつめていた理性の糸が、ぷつんと切れた。
あなたにおすすめの小説
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
奇跡に祝福を
善奈美
BL
家族に爪弾きにされていた僕。高等部三学年に進級してすぐ、四神の一つ、西條家の後継者である彼が記憶喪失になった。運命であると僕は知っていたけど、ずっと避けていた。でも、記憶がなくなったことで僕は彼と過ごすことになった。でも、記憶が戻ったら終わり、そんな関係だった。
※不定期更新になります。
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
完結しました!ありがとうございました。
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。