迷子猫 番外編

kotori

文字の大きさ
20 / 22
後日談

4.

しおりを挟む
 
「ごめん、気づかなくて」

タクシーの中で女は言った。

「あんたんち、門限とかある?あたしがご両親に説明してあげよっか」
「そんなもんねぇよ。てか酔った女に説明なんかされても、話が余計ややこしくなるだけっていうか」
「……ごもっともで」



「……あんたさ、なんで俺をあそこに連れていこうとか思ったわけ?」

流れていく外の景色を眺めながら言う。

「なんでって…ただ、なんとなく?」
「……俺の考え方とかそういうの、変えようとか思ったりした?」
「別に、そこまでは考えてなかったけど」

笑いながら、ただ、と女は言った。

「あたしさぁ、色々悩んだり落ち込んだりした時に、よくあそこに行くんだよね」

深夜だというのに、街は光で溢れている。
そしてその灯りの一つ一つが、俺とはまったく無関係の人達の人生を照らしているような気がした。

「あそこにいる人たちってさぁ、ある意味すごく自分に正直なんだよ。だけど実際はそうやって、嘘つかないで生きてくのって大変じゃん?」

万人には受け入れられない。
時にはその生き方を、否定されたり拒絶されることだってあるだろう。

……俺が、そうしたみたいに

「だけどあの人達、すごく明るいし。だから話してたら、ちょっと元気になれるんだよね。あたしも頑張ろうって思える」



ねぇ、と別れ際に女は言った。

「仲直りしなよ?」
「……だからケンカじゃねぇって」
「あっそ。またなんかあったら連絡しなよ。暇だったら話くらい聞いてあげるから」

じゃあね、と女は笑顔で言った。





錆付いたフェンスにもたれて携帯を弄っていると、ドアが開く音がする。
屋上に入ってきたのは三宅だった。

「……何、話って」

色素の薄い髪と、制服を着てないと性別がはっきりしない顔立ち。
飄々とした態度やその表情はいつもと変わりないけど、声はわずかに緊張していた。

「……あのさ、おまえなんであいつとつきあってんの?」
「……は?」
「はっきり言って、俺にはあいつが騙されてるようにしか見えねぇんだけど」
「………」

三宅はまっすぐに俺を見た。

「………。まだよくわかんない」
「……はあ?」

今度は俺が聞き返す番だった。
自分の顔が引きつってることがわかる。

「今そういうの、勉強中だから」
「……意味わかんねぇし」

うんざりしながら言った。
そしてなんだかやってられなくなって目を逸らす。
すると三宅はぽつりと言った。

「初めてだったんだ」

フェンスをぎゅっと握り締める。

「初めて、一緒にいたいって思った」

それだけ、と言って三宅は立ち去ろうとした。

「………。俺は、おまえが嫌いだよ」

足音が止まる。

「……けど、海斗は友達だし」

味方には、なれないかもしれないけど。
理解なんて一生出来ないかもしれないけど。

「仕方ねぇから…認めてやるよ」

三宅が振り返ったのが気配でわかった。

「………」
「………」
「……てゆうかあんたに認められても、別に嬉しくないけど」
「……あ゛ぁ?」
「でもあんたは、海斗の友達だしね」

その屈託のない笑顔に、思わず言葉を詰まらせる。

「……言っとくけど、俺はおまえのこと、信用してねぇからな」
「あんたも海斗が好きなんだね」
「……っ、やめろ気色わりぃ!」

本気でそう言うと、あははっと三宅は笑った。

……マジ意味わかんねぇ、

三宅が屋上を出ていったあと、ひとつ溜め息を吐いて空を見上げた。
秋晴れの空はどこまでも澄んでいて。

そして不思議なことに、俺の心も妙に晴れやかだった。



end.
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

ふたなり治験棟 企画12月31公開

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...