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第3章
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カーテンの隙間から差し込む心地よい光が夫婦の部屋に洩れてくる
「んっあ~、おはよう!ばぁさん!」
じぃじは上体を起こすと背伸びをしている。
ばぁばはすでに起きていた。
「おはよう!じぃさん、今日も気持ちの良い朝やねぇ!」
じぃじとばぁばは寝巻きから着替えを済ませる。
「さて、じぃさん。朝食の時間だから食堂に行きましょうかね。」
「そうじゃなぁ!今日の朝ごはんはなんじゃろぉなぁ!」
二人で食堂へ向かう。
食堂に入るとまばらに他の老人達も座っており、朝食の時間に合わせ皆起きてきている。
席が埋まり、皆集まったようだ。
事務長が食堂に入ってきた。
「みなさん!おはようございます!今日もすごく気持ちのいい朝ですねぇ!今日も1日元気でよろしくお願いします!ではお召し上がりください!」
みんな周りの人と談話しながら食べ始める。
「あ、それと食べ終わった人から私のところへ、今日のミッションが記されているプリントを取りに来てくださいね!」
事務長は人差し指を立て呟く。
じぃじとばぁばも朝食を食べ始める。
「ん~、おいしい味噌汁じゃなぁ!今日のミッションはなんじゃろうか。」
じぃじは頬を両手で包むように当て幸せうな顔をしている。
「おいしいなぁ!簡単なミッションやったらいいなぁ!」
次々と皆が食べ終わり事務長の所へいく。
「今日のわしのミッションはなんだろうかねぇ。」
一人の入居者が事務長に尋ねる。
「はい、どうぞ!今日も頑張ってくださいね」
「お!今日は楽勝かもなっ!」
彼は右手でガッツポーズを作る。
じぃじとばぁばも食べ終わり事務長の元へと向かう。
「おはようございます!じゃあ今日のミッションです!無理せずに頑張ってくださいね!挑戦するときは施設の者を呼んでくださいね!」
じぃじとばぁばに一枚ずつプリントが渡される。
「わしのはなんじゃ?え~と、階段登り一階から二階まで、カラオケで九十点以上獲得、事務長にジャンケンで五回連続勝利。へぇ~、簡単そうじゃのう!やったろうやないか!ばぁさんのはなんじゃ?」
「え~と、私のは自分の部屋の掃除、早口言葉、腹筋一回。よし!私も頑張るわよぉ!」
事務長に礼をし、二人で部屋に戻る。
基本的にレクレーション、食事、お風呂の時間以外は自由だ。空いている時間にミッションに挑戦しよう。
「よし、わしは今日は何に挑戦しようかのぉ…………じゃあ階段登りをしよう!ちょっと施設の人に言ってくるの!」
じぃじは思い立ったらすぐ行動し部屋のドアを開け、エレベーターへ向かう。
「無理したらいけんよー!こけんようにねー!」
ばぁばは心配そうな表情をしている。
「任せときぃ!じじぃは強いぞぉ!」
じぃじはやる気満々で事務所へ向かった。
エレベーターで一階へ降りて施設の人の所へ向かった。
「おーい!わしはいまから挑戦するぞぉ!見てくれー!階段登るぞぉ!」
じぃじはやる気満々と言わんばかりに鼻息が荒い。
「はい!では一緒に階段の所へいきましょう!」
「わしの勇姿を見逃すなよぉ!」
「はい!では初めてください!」
じぃじは一段一段登りはじめた。
しかしじぃじは腰が悪い。
「あ、ぁあ~、こ、腰が~。 階段なんて暫く登ってない……でも頑張るわい。」
じぃじはシワシワの顔をさらにシワシワにしながら登りつめる。
じぃじはやっとの思いで二階にたどりついた。
じぃじは階段の踊り場に倒れ込んでいる。
「あぁ~、わしは年寄りじゃった。舐めとったわぁ。でもこれでミッション達成じゃろ?」
じぃじは息を切らしながら施設の人に尋ねる。
「はい!おめでとうございます!ではチケット1枚差し上げますね!」
「よっしゃー!やれば出来るじじぃじゃろぉ!」
じぃじは達成し雄叫びを上げた。
そしてじぃじは二階からエレベーターに乗り四階へ移動し、ばぁばのいる部屋に戻る。
「ほれぇ!ばぁさん、チケットもらったぞぉー。」
じぃじは勢いよく部屋のドアを開けた。
じぃじはニヤニヤしながら指で握っているチケットを揺らす様にばぁばに見せびらかす。
「じぃさんすごいねぇ!疲れたやろぉ、ゆっくりしときぃ!私も頑張らんとねぇ。何しようかねぇ!」
ばぁばはミッションの記されたプリントを見ながら首を捻っている。
「よし!決めた、簡単なお掃除にしようかねぇ!じぃさん、ちょっと掃除するから部屋の外で暇つぶししとってくれんか?」
じぃじはばぁばにあまり褒めてもらえず少し心が痛んだ。そして部屋の外へ出て散策を始めた。
「あ、その前に施設の人の所へ行って、今からミッションの掃除をする事を言わなくてはね!」
ばぁばはエレベーターで一階の事務所へ赴く。
事務所を覗くとなぜか事務長が不敵な笑みを浮かべながら外を眺めている。
ばぁばはその事務長の笑い方に若干の恐怖を感じた。
事務長はばぁばが柱のそばに立っているのに気付きいつものにこやかな笑顔でばぁばのほうへ歩いてきた。
「どうしました?あ、ミッションの事ですか?」
事務長がいつもの様な笑顔で話しかけてきた。
さっきばぁばが見たあの不敵な笑みを浮かべていた事務長とは違う人のように思えた。
「あ、そ、そうなんです!ミッション……挑戦しようかと思って!お部屋の掃除を……」
ばぁばはあきらかに動揺していた。
「では、施設の者を行かせますので頑張ってくださいね」
事務長は施設の人に手招きをする。
「大池さんのミッションに同行してください!」
「はい!では大池さん行きましょうか!」
施設の人は大池さんの腰に手を当て歩くよう促す。
エレベーターに乗ると四階のランプがつき、扉が開く。大池さんの部屋の前まで廊下を歩く。
「では、掃除道具を持ってきますのでちょっと待っていてくださいね」
施設の人は駆け足で廊下を走り倉庫の方へと走っていった。
ばぁばはどこから掃除をしようかと頭の中で考えているようだ。
しばらくすると施設の人が台車のようなものを押してきている。たくさんの掃除道具が乗っている。
「では乾拭き、拭き掃除、掃き掃除お願いします!これは時間を計測します!三十分で終わらしてください!」
施設の人は時間を測る計測器を手に持っている。
「では、始めてください!わたしは部屋の前で待っていますね!」
ばぁばは黙々と掃除を始めた。
「私は綺麗好きだから掃除は好きだからちゃっちゃとやってしまおうかねぇ!」
ばぁばは腰が痛いので時折休憩しながら掃除を進める。
ピピピピピピ…………
電子音が鳴る。
どうやら三十分経ったらしい。
ばぁばは椅子に腰掛けていた。
「終了です!ではチェックしますのでそこで休んでてかまわないですよ!」
ばぁばは力無く項垂れている。
施設の人は部屋の隅々まで見ている。
まだ買いたての家具のように輝いている。
「すごいですねぇ、大池さん!三十分でここまでやるなんて!」
「無類のお掃除ばばぁやからねぇ!でもこ、腰がちょっと痛くなったようだねぇ!いててて…」
ばぁばは腰を片手で抑え、顔を歪ませている。
「お疲れ様でした!完璧です!ではミッション達成も言うことでチケットを一枚差し上げます!」
「まぁ、ありがとぉ!頑張った甲斐があったわねぇ!」
ばぁばは両手でチケットを受け取る。
「では、わたしは事務所へ戻りますね!」
施設の人は部屋を後にした。
「ぁあ~、暫くこんなに動いてないから疲れたぁ!少し横になっていようかね!」
ばぁばはベットに横たわっている。
部屋の扉が開く音がした。
「やぁ、ばぁさん!どうやったかぁ?」
じぃじは心配そうな顔でばぁばの近くへ寄る。
「じぃさん、お掃除ばばぁと言われたこの私が失敗するわけないやろう!でももう腰が痛いでなぁ」
「ばぁさん、大丈夫か?わしも久しぶりに階段登ってもう天国から天使が降りてきよるのこの目で見たわぁ」
じぃじもベッドに飛び付きうつ伏せにしている。
「暫く腰がよくなるまでゆっくりしてようかねぇ」
「そうじゃのぉ!」
じぃじとばぁばは昼寝をはじめた。
「わしはそんなつもりはなかったんじゃー!」
何やら外が騒がしい。じぃじとばぁばは目を覚ますと、眠たい目をこすっている。
「うるさいのぉー!何事じゃあ、わしのおやすみの時間を奪うんじゃない」
じぃじはベッドから起き上がり部屋のドアを開けると、廊下に顔だけを覗かせるように辺りを見回す。
廊下でおじいさんとおばぁさんが掴み合いをしているのが見える。
「あんたが悪いんやろぉ、このじじぃー!」
「わ、わしはただお話していただけじゃあー!」
おばあさんがおじいさんの禿げた頭をバシバシと手で叩いている。何度も叩かれたのであろう、赤い手のひらの形をした痣がおじいさんの禿げた頭にいくつも重なるように浮かび上がっている。
「おーい!やめんかぁ!」
じぃじが足早に二人のもとへ行く。
「何があったんじゃあ。喧嘩せんでもええじゃろぉ!」
じぃじは手を振り上げているおばあさんの手を掴む。その目は勇ましい。
「このうちのじじぃがバーニアシルで浮気したんよぉ!」
おばあさんは鬼のような形相でおじいさんを睨み付けている。
じぃじはおじいさんに目を向けると、腕を組んでいる。
「わ、わしはただお話しておっただけじゃ!」
おじいさんは必死に誤解を解こうとしている。
じぃじには嘘をついているようには見えない。
「とっとと天国へ逝っちまえー!」
しかしおばあさんは信用していないようで、また禿げたおじいさんの頭を叩いている。
「まぁまぁ!今度からわしが見張っておくから!仲良くしましょうや!な?」
じぃじは二人に両手を前に出しなだめるようにしている。
「この、禿げじじぃ今度やったら離婚や!」
おばあさんはおじいさんを置いて歩いていく。
「そ、そんなこと言わんでくれぇー!」
おじいさんはおばあさんの後を追いかける。
じぃじはやれやれと言わんばかりに困り顔で部屋に戻る。
ばぁばが起きていた。
「なんの騒ぎやったんね?」
ばぁばは不思議そうにじぃじに聞く。
「あ~、恋のから騒ぎってやつかな。」
「そうかぁ!それは大変やったねぇー!」
ばぁばはよくわからなかったが深くは聞かなかった。
じぃじはばぁばの座っているベッドに移動すると。
「まぁこのじぃじはばぁさんを差し置いて浮気なんぞ、そ~んなはしたないことはせんからなぁ」
じぃじは仁王立ちをしてばぁばに視線を落とす。
「そうねぇ!私たちは仲良し夫婦だからねぇ!」
ばぁばもにこやかにじぃじと顔を見合わせる。
「さて、そろそろ夕食の時間よ!食堂へ行きましょうかね!今日は何を食べさせてくれるのかしら?」
ばぁばは掃除の次に食べる事が大好きだ。
ばぁばは食べ物を想像しよだれが出そうになるのを堪えている。
「ばぁさんは食べるのが好きじゃけのぉ!さて、行こうか!」
じぃじとばぁばは部屋を後にし、食堂へ向かった。
食堂へ入るとあの喧嘩していた夫婦は仲直りしており、笑い合っていた。
「な~んだ!もう仲直りしたんか!もうちょっと喧嘩しとったほうが面白かったんじゃがのぉ!」
じぃじは意地悪な笑顔を浮かべ呟く。
「んっあ~、おはよう!ばぁさん!」
じぃじは上体を起こすと背伸びをしている。
ばぁばはすでに起きていた。
「おはよう!じぃさん、今日も気持ちの良い朝やねぇ!」
じぃじとばぁばは寝巻きから着替えを済ませる。
「さて、じぃさん。朝食の時間だから食堂に行きましょうかね。」
「そうじゃなぁ!今日の朝ごはんはなんじゃろぉなぁ!」
二人で食堂へ向かう。
食堂に入るとまばらに他の老人達も座っており、朝食の時間に合わせ皆起きてきている。
席が埋まり、皆集まったようだ。
事務長が食堂に入ってきた。
「みなさん!おはようございます!今日もすごく気持ちのいい朝ですねぇ!今日も1日元気でよろしくお願いします!ではお召し上がりください!」
みんな周りの人と談話しながら食べ始める。
「あ、それと食べ終わった人から私のところへ、今日のミッションが記されているプリントを取りに来てくださいね!」
事務長は人差し指を立て呟く。
じぃじとばぁばも朝食を食べ始める。
「ん~、おいしい味噌汁じゃなぁ!今日のミッションはなんじゃろうか。」
じぃじは頬を両手で包むように当て幸せうな顔をしている。
「おいしいなぁ!簡単なミッションやったらいいなぁ!」
次々と皆が食べ終わり事務長の所へいく。
「今日のわしのミッションはなんだろうかねぇ。」
一人の入居者が事務長に尋ねる。
「はい、どうぞ!今日も頑張ってくださいね」
「お!今日は楽勝かもなっ!」
彼は右手でガッツポーズを作る。
じぃじとばぁばも食べ終わり事務長の元へと向かう。
「おはようございます!じゃあ今日のミッションです!無理せずに頑張ってくださいね!挑戦するときは施設の者を呼んでくださいね!」
じぃじとばぁばに一枚ずつプリントが渡される。
「わしのはなんじゃ?え~と、階段登り一階から二階まで、カラオケで九十点以上獲得、事務長にジャンケンで五回連続勝利。へぇ~、簡単そうじゃのう!やったろうやないか!ばぁさんのはなんじゃ?」
「え~と、私のは自分の部屋の掃除、早口言葉、腹筋一回。よし!私も頑張るわよぉ!」
事務長に礼をし、二人で部屋に戻る。
基本的にレクレーション、食事、お風呂の時間以外は自由だ。空いている時間にミッションに挑戦しよう。
「よし、わしは今日は何に挑戦しようかのぉ…………じゃあ階段登りをしよう!ちょっと施設の人に言ってくるの!」
じぃじは思い立ったらすぐ行動し部屋のドアを開け、エレベーターへ向かう。
「無理したらいけんよー!こけんようにねー!」
ばぁばは心配そうな表情をしている。
「任せときぃ!じじぃは強いぞぉ!」
じぃじはやる気満々で事務所へ向かった。
エレベーターで一階へ降りて施設の人の所へ向かった。
「おーい!わしはいまから挑戦するぞぉ!見てくれー!階段登るぞぉ!」
じぃじはやる気満々と言わんばかりに鼻息が荒い。
「はい!では一緒に階段の所へいきましょう!」
「わしの勇姿を見逃すなよぉ!」
「はい!では初めてください!」
じぃじは一段一段登りはじめた。
しかしじぃじは腰が悪い。
「あ、ぁあ~、こ、腰が~。 階段なんて暫く登ってない……でも頑張るわい。」
じぃじはシワシワの顔をさらにシワシワにしながら登りつめる。
じぃじはやっとの思いで二階にたどりついた。
じぃじは階段の踊り場に倒れ込んでいる。
「あぁ~、わしは年寄りじゃった。舐めとったわぁ。でもこれでミッション達成じゃろ?」
じぃじは息を切らしながら施設の人に尋ねる。
「はい!おめでとうございます!ではチケット1枚差し上げますね!」
「よっしゃー!やれば出来るじじぃじゃろぉ!」
じぃじは達成し雄叫びを上げた。
そしてじぃじは二階からエレベーターに乗り四階へ移動し、ばぁばのいる部屋に戻る。
「ほれぇ!ばぁさん、チケットもらったぞぉー。」
じぃじは勢いよく部屋のドアを開けた。
じぃじはニヤニヤしながら指で握っているチケットを揺らす様にばぁばに見せびらかす。
「じぃさんすごいねぇ!疲れたやろぉ、ゆっくりしときぃ!私も頑張らんとねぇ。何しようかねぇ!」
ばぁばはミッションの記されたプリントを見ながら首を捻っている。
「よし!決めた、簡単なお掃除にしようかねぇ!じぃさん、ちょっと掃除するから部屋の外で暇つぶししとってくれんか?」
じぃじはばぁばにあまり褒めてもらえず少し心が痛んだ。そして部屋の外へ出て散策を始めた。
「あ、その前に施設の人の所へ行って、今からミッションの掃除をする事を言わなくてはね!」
ばぁばはエレベーターで一階の事務所へ赴く。
事務所を覗くとなぜか事務長が不敵な笑みを浮かべながら外を眺めている。
ばぁばはその事務長の笑い方に若干の恐怖を感じた。
事務長はばぁばが柱のそばに立っているのに気付きいつものにこやかな笑顔でばぁばのほうへ歩いてきた。
「どうしました?あ、ミッションの事ですか?」
事務長がいつもの様な笑顔で話しかけてきた。
さっきばぁばが見たあの不敵な笑みを浮かべていた事務長とは違う人のように思えた。
「あ、そ、そうなんです!ミッション……挑戦しようかと思って!お部屋の掃除を……」
ばぁばはあきらかに動揺していた。
「では、施設の者を行かせますので頑張ってくださいね」
事務長は施設の人に手招きをする。
「大池さんのミッションに同行してください!」
「はい!では大池さん行きましょうか!」
施設の人は大池さんの腰に手を当て歩くよう促す。
エレベーターに乗ると四階のランプがつき、扉が開く。大池さんの部屋の前まで廊下を歩く。
「では、掃除道具を持ってきますのでちょっと待っていてくださいね」
施設の人は駆け足で廊下を走り倉庫の方へと走っていった。
ばぁばはどこから掃除をしようかと頭の中で考えているようだ。
しばらくすると施設の人が台車のようなものを押してきている。たくさんの掃除道具が乗っている。
「では乾拭き、拭き掃除、掃き掃除お願いします!これは時間を計測します!三十分で終わらしてください!」
施設の人は時間を測る計測器を手に持っている。
「では、始めてください!わたしは部屋の前で待っていますね!」
ばぁばは黙々と掃除を始めた。
「私は綺麗好きだから掃除は好きだからちゃっちゃとやってしまおうかねぇ!」
ばぁばは腰が痛いので時折休憩しながら掃除を進める。
ピピピピピピ…………
電子音が鳴る。
どうやら三十分経ったらしい。
ばぁばは椅子に腰掛けていた。
「終了です!ではチェックしますのでそこで休んでてかまわないですよ!」
ばぁばは力無く項垂れている。
施設の人は部屋の隅々まで見ている。
まだ買いたての家具のように輝いている。
「すごいですねぇ、大池さん!三十分でここまでやるなんて!」
「無類のお掃除ばばぁやからねぇ!でもこ、腰がちょっと痛くなったようだねぇ!いててて…」
ばぁばは腰を片手で抑え、顔を歪ませている。
「お疲れ様でした!完璧です!ではミッション達成も言うことでチケットを一枚差し上げます!」
「まぁ、ありがとぉ!頑張った甲斐があったわねぇ!」
ばぁばは両手でチケットを受け取る。
「では、わたしは事務所へ戻りますね!」
施設の人は部屋を後にした。
「ぁあ~、暫くこんなに動いてないから疲れたぁ!少し横になっていようかね!」
ばぁばはベットに横たわっている。
部屋の扉が開く音がした。
「やぁ、ばぁさん!どうやったかぁ?」
じぃじは心配そうな顔でばぁばの近くへ寄る。
「じぃさん、お掃除ばばぁと言われたこの私が失敗するわけないやろう!でももう腰が痛いでなぁ」
「ばぁさん、大丈夫か?わしも久しぶりに階段登ってもう天国から天使が降りてきよるのこの目で見たわぁ」
じぃじもベッドに飛び付きうつ伏せにしている。
「暫く腰がよくなるまでゆっくりしてようかねぇ」
「そうじゃのぉ!」
じぃじとばぁばは昼寝をはじめた。
「わしはそんなつもりはなかったんじゃー!」
何やら外が騒がしい。じぃじとばぁばは目を覚ますと、眠たい目をこすっている。
「うるさいのぉー!何事じゃあ、わしのおやすみの時間を奪うんじゃない」
じぃじはベッドから起き上がり部屋のドアを開けると、廊下に顔だけを覗かせるように辺りを見回す。
廊下でおじいさんとおばぁさんが掴み合いをしているのが見える。
「あんたが悪いんやろぉ、このじじぃー!」
「わ、わしはただお話していただけじゃあー!」
おばあさんがおじいさんの禿げた頭をバシバシと手で叩いている。何度も叩かれたのであろう、赤い手のひらの形をした痣がおじいさんの禿げた頭にいくつも重なるように浮かび上がっている。
「おーい!やめんかぁ!」
じぃじが足早に二人のもとへ行く。
「何があったんじゃあ。喧嘩せんでもええじゃろぉ!」
じぃじは手を振り上げているおばあさんの手を掴む。その目は勇ましい。
「このうちのじじぃがバーニアシルで浮気したんよぉ!」
おばあさんは鬼のような形相でおじいさんを睨み付けている。
じぃじはおじいさんに目を向けると、腕を組んでいる。
「わ、わしはただお話しておっただけじゃ!」
おじいさんは必死に誤解を解こうとしている。
じぃじには嘘をついているようには見えない。
「とっとと天国へ逝っちまえー!」
しかしおばあさんは信用していないようで、また禿げたおじいさんの頭を叩いている。
「まぁまぁ!今度からわしが見張っておくから!仲良くしましょうや!な?」
じぃじは二人に両手を前に出しなだめるようにしている。
「この、禿げじじぃ今度やったら離婚や!」
おばあさんはおじいさんを置いて歩いていく。
「そ、そんなこと言わんでくれぇー!」
おじいさんはおばあさんの後を追いかける。
じぃじはやれやれと言わんばかりに困り顔で部屋に戻る。
ばぁばが起きていた。
「なんの騒ぎやったんね?」
ばぁばは不思議そうにじぃじに聞く。
「あ~、恋のから騒ぎってやつかな。」
「そうかぁ!それは大変やったねぇー!」
ばぁばはよくわからなかったが深くは聞かなかった。
じぃじはばぁばの座っているベッドに移動すると。
「まぁこのじぃじはばぁさんを差し置いて浮気なんぞ、そ~んなはしたないことはせんからなぁ」
じぃじは仁王立ちをしてばぁばに視線を落とす。
「そうねぇ!私たちは仲良し夫婦だからねぇ!」
ばぁばもにこやかにじぃじと顔を見合わせる。
「さて、そろそろ夕食の時間よ!食堂へ行きましょうかね!今日は何を食べさせてくれるのかしら?」
ばぁばは掃除の次に食べる事が大好きだ。
ばぁばは食べ物を想像しよだれが出そうになるのを堪えている。
「ばぁさんは食べるのが好きじゃけのぉ!さて、行こうか!」
じぃじとばぁばは部屋を後にし、食堂へ向かった。
食堂へ入るとあの喧嘩していた夫婦は仲直りしており、笑い合っていた。
「な~んだ!もう仲直りしたんか!もうちょっと喧嘩しとったほうが面白かったんじゃがのぉ!」
じぃじは意地悪な笑顔を浮かべ呟く。
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