じぃじとばぁばの異世界旅行

ちいさき

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第9章

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   「はぁー、疲れたねぇ、じいさん」
   ばぁばはベットに倒れ込む。
   「そうじゃなぁ!あ、そろそろミキが来る時間じゃな」
   二人はしばらく部屋でテレビを見たり、ゆっくりしているとドアをノックする音が聞こえた。

   「コンコン」
   「はぁーい、どうぞ」
   じぃじはベットに腰掛けながらドアをの外にいる人に向けて返事をする。

   「久しぶりー!じぃちゃん、ばぁちゃん」
   勢いよく二人の部屋にミキが入ってきた。
   「おぉー!ミキー、よう来てくれたの」
   三人は久々の再開に抱き合っている。

   「ここでの生活はどんな感じ?」
   ミキはじぃじの顔をのぞき込むように見ている。
    「なかなか楽しいぞー!食事もうまいし、みんな仲良しやし。あ、あとそれと」
   じぃじの言葉を遮るように部屋の扉が開いた。

   「こんにちわ!お孫さんですね、大池さんこんな美しいお孫さんがいて幸せですねぇ!」
   事務長が部屋に訪ねてきた。

   「あ、はじめまして!孫のミキです、いつもお世話になっています」
   ミキは深々と事務長に礼をする。
   「あ、いつもお世話になっているのでこれを」
    ミキは事務長にお菓子が入っているであろう紙袋を渡した。

   「これはこれは、お気遣いありがとうございます!」
   ミキから渡された紙袋を受け取りミキに礼をした。
   「お母さんも元気か?」
   「うん!相変わらず仕事で忙しいけど元気だよ!」
   「そうか!わしらの世話がないから、ちょっとは楽になったかのぉ!」
   しばらくたわいのない話を続ける。

   「大池さん、言い忘れてましたがあの異世界のことは口蓋禁止ですので」
   事務長がじぃじとばぁばの耳元で呟いた。
   「わかりました!」
   「では、わたしはこの辺で!ごゆっくりしてくださいね」
   事務長はミキに笑いかけ部屋を後にした。
   
   「ねぇ、あの人事務長さんでしょ?いまじぃちゃんの耳元でなんて言ってたの?」
   「いや、あの、ゆっくりしてくださいねって言われただけじゃよ!」
   「ふーん、なんかあの人ニコニコしてるけどなんか怪しいんだよねー!」
   ミキは両腕を組み、何か考えているようだ。
   「あの事務長さんはいい人だよ!ここに来て楽しいこともいっぱいあるからねぇ」
   ばぁばはミキに笑いかける。
   「そう?ね、ここでは毎日どんなことしてるの?」
   ミキが興味津々の顔で聞いてくる。
   「んー?ふつうだよ!他の老人ホームと何ら変わりはないよ!ただ……」
   ばぁばはおしゃべりだ。秘密なんて持つと言いたくて言いたくてうずうずし、体がむず痒くなってくる。
   「ばぁさん!」
   じぃじは必死にばぁばのおしゃべり癖を止める。ばぁばの口に自分の手を当てばぁばを黙らせる。
   「なにー?なんか隠してるのー?私にも教えてよ!誰にも言わないから、ね?」
   ミキはばぁばに詰め寄る。
   ばぁばはミキとなるべく目を合わせないように目を瞑って寝たふりをしているようだ。
   「ちょっとー!目開けてよー!あ、そうだ」
   なにやらミキは自分のカバンを漁り、何かを探し始めた。
   「あ、あった!じゃじゃーん」
   ミキがカバンから取り出した物にばぁばの目が光る。
   「あー!私の好きなカ、カルパスじゃないか」
   ばぁばは普段から食べ物に目がないが一番の好物はカルパスだ。
   「ミキ、気が利くの!私に持ってきてくれたんやね!ありがとう」
   ばぁばはミキからカルパスを取ろうとする。
   「おっと、ばぁちゃん!交換条件よ、カルパスとさっきの秘密!教えてくれる?」
   ミキはカルパスの持つ手を高く上げばぁばにチラつかせる。
   「な、私のカルパスちゃん!いま助けるよー!」
   ばぁばはミキの手に持つカルパスに向かってジャンプをした。しかし、ばぁばはジャンプもろくにできない。やはり、かかとしか上がらないみたいだ。

   「ばぁちゃん!じゃあ教えてくれる?」
   「ばぁさん!我慢じゃ、たかがカルパスじゃろ?」
   じぃじはばぁばのほうを見ると鬼のような形相でじぃじを睨み付けていた。
   「たかが、たかがカルパスだぁー?じじぃ!カルパスになんて言うことを言うんだ!謝れー」
   ばぁばはじぃじの胸ぐらを掴み、じぃじを揺さぶる。
   「わ、わかった!ごめんばぁさん!許してけれー!」
   じぃじはお手上げしている。
   「まぁ、ミキだけにやったら話していいんじゃないか?」
   じぃじはばぁばの鋭いカルパスを狙った目が怖く、提案する。
   「やったー!じゃ、ばぁちゃん!カルパスあげるから話して!」
   ばぁばはミキの握るカルパスを素早くとり、眺めている。
   「あのな、わしらいま実は異世界にいってるんじゃ」
   「異世界?なんで?どういう事?はぁ?」
   ミキはまったく意味がわからない様子だ。首を傾げている、じぃじは施設の人がいないか小声で続ける。
    「さっき事務長に誰にもこの事は話すなって言われたんじゃが、わしらいま週に一回ほどレクレーションっていう時間にみんなで集まってなんかゴーグルみたいなんをつけてな、ヒョイっと違う世界に飛んでいっちまうんじゃ!その世界がな、亜人みたいなのがしゃべっておって、魔物みたいなのも出てくるんじゃ!しかもな、わしらいまはこんなヨボヨボの顔、体だけどそこの世界に行くと十八歳くらいに若返るんじゃよ!それが楽しくてなー!わしはもう怖ーい魔物をぶった斬ったんじゃ!すごいじゃろ!?」
  
   「ふーん、面白い夢だね!」
   ミキはじぃじの話を全く信じていないようだ。
   「本当じゃよ!夢じゃない、怪我だってするんじゃよ!」
   「なーんか、変なの。夢ならあんだけ期待して聞いて損しちゃった気分ー」
   ミキはじぃじのベットに仰向けに倒れ込む。
   「いいもーん、別に信じてもらわんでもー!」
   じぃじはミキに信じてもらえなくて部屋の角で体育座りをし、拗ねている。
   「あー、おいしかったー!あ、ミキ、カバンの中にあったカルパス全部食べてしもうたよ」
   「え?三袋もあったのに?」
   ミキはじぃじの話しよりばぁばの食欲に驚愕している。
   「まぁ、二人共元気な姿が見られてよかった!私、そろそろ帰るね!お母さんも仕事終わって帰って来る頃だし!」
   ミキは自分のカバンを手に取る。
   「おぉ!今日は来てくれてありがとな!あ、さっきわしが話した話はだれにも言ったらいかんぞ」
   じぃじは口の前で人差し指を出している。
   「わかったよー!たいして面白い話じゃないからだれにいってもどうせ笑わないからねー。じゃあ、また来るからねー!」
   ミキは二人に手を振り、部屋を出る。
   「おぉ!じゃあね、気をつけるんじゃよー」
   二人はミキに微笑み手を振る。

   「せっかくミキに話したのにわしは信じてもらえんでショックじゃ、なぁ、ばぁさん!」
   ばぁばに目線を向けるとお腹をさすり満足気にベットに横たわっている。
   「そうねー!また来て欲しいわね、カルパスちゃん」
   ばぁばはミキをカルパスと呼ぶことに決めたようだ。
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