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第3章 短編を書いてみよう!

第18話 濁りをなくそう!(一人称と三人称)

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「これで投稿できますね!」

 形の良くなったりんご飴を見て、ひなはちっちゃな胸を張りながら言った。

「ダメだね」

みちのはサラッと答えた。

「何がだめなんですか?」
「色! こんなに濁った色のりんご飴、誰が買うと思うの」

 そう言われればその通りです。でも、ひなはどうすればいいのか見当もつきません。

「なにが悪いのでしょうか?」

 ひなは素直に聞いてみました。それを聞いたみちのは、少し悩んだ後、ひなに言いました。

「そうね。ひなちゃん。ひなちゃんのその素直さは素敵よ。きちんと人に聞く態度はえらい! でもね、それに慣れすぎると自分で考えなくなるの。まだ初心者の中の初心者だからそれでいいけど、自分で調べて考える事も必要よ」

 ひなは驚きました。私って甘えているのかな? そんな顔をしました。

「うん、いいのよ、まだ聞いてもらっても。特に今回の質問は重要だから教えてあげる。いい、まずはここを読んで」

 みちのは、ひなの書いた童話の冒頭を指さしました。

「ここの文章ですね。『ボクは黒猫、名前はないんだ。だってものごごろついた時から、一人で生きてきたんだから。ボクの話を聞いてくれるかい』」

「じゃあ、次はここ」

「はい。『黒猫は、そんなことを言ってはいましたが、本当は寂しかったのです。友達が欲しい。心の奥底では、そんな風に思っていたのでした』」

 読み終えたひなはなにがおかしいのか分かりません。

「いい、小説の書き方には『一人称』と『三人称』があるの。それは混ぜてはいけないのよ」

「一人称と三人称? ですか?」

 分かっていないひなのために、みちのは解説を始めました。

「いい、小説を書くには、まずは『誰がこの物語を語っているのか』を決めないといけないの。大きく2つね。1つ目は主役が語る場合。これを『一人称』というのよ」

「主役が語る? 一人称?」

「ひなちゃんの最初は一人称。黒猫の言葉で黒猫の気持ちを書いていたわよね。あれが一人称。それに対して、作者の目線で客観的に書いていくのが三人称。2回目に読んだ所ね」

「本当だ! 黒猫と私がいる」

「小説ではね、視点がぶれてはいけないの。もう少し詳しく説明するね」

「お願いします」

「一人称の特徴としては、主役の見ている目線と、感じたこと、思ったことが書けるの。でもね、主役が見ていないことや、主役以外の心の中は絶対に書いちゃだめなの。ヒロインがどこかで死んでしまったとしても、主役が知らなかったら書いてはだめ。見たこと聞いたことを感じたこと、それ以外は分からないのが一人称の特徴ね」

「難しそうですね」

「気をつけて書いていけば分かるようになるわ。次に三人称の特徴ね」

「はい」

「三人称は映画を撮るカメラみたいな視線で書く書き方。表情をアップにしたり、周りの風景で情感を出したりするの。カメラ目線だから、主役以外の場所や人物に寄ってもいいし、別の所で起きた事件を書いてもいいの」

「便利そうですね」

「でもね、あくまで客観的にしか書いてはいけないの。主役がどう思ったかとか、心のなかでつぶやいたこととか、そんな内面はカメラに映らないでしょ。だから表情を書いて想像させたり、態度や動きで感じさせたり、セリフとして書かないといけない制約があるのよ。上級者だと蝉の声とか、夕焼けとかで主役の感情を表せたりするわ」

「どっちも難しそうですね」

「そうね、私もまだ徹底できた作品は作れていないわね。どうしても感情は書きたくなるし、説明はしたくなるしね。でも、知っていなければいけないし、気をつけなければいけないのよ」

「勉強ですね」

「そうよ。じゃあ、この童話、一人称か三人称かどっちで書くか決めてね。そしてきちんと直すこと。分かった?」

「はい! ありがとうございます」

「じゃあ私は帰るね。頑張って~」

 そう言ってみちのは帰っていきました。
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