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第一章 幼少期から追放ですか。
7 行きたくないよ~!
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ギルド長の部屋に入った私と使いの男。まあ、水くらい出してやろうよ、お茶出す前にさ。仕方がない、そこらのカップに水入れてやるか。魔法で。
「おい、何しているんだ」
ギルド長が訝しがっているが知るか。私は黙ってカップを男に渡した。グビグビと一気に飲み干した男は、やっと落ち着きを取り戻した。
事務の女性がお茶を持ってきた。とりあえず私達三人、無言で飲んだ。
「それで、シャベル様はどちらに」
「こいつだ」
ギルド長、こいつ呼びはないんじゃない?
「まさか! ご冗談を」
あれ? あの戦い見ていない人? なら!
「そうです。冗談ですよ。では私はこれで!」
「逃げるな!」
止めるな!
「いーじゃん。疑っているんだから。説明して説得するの面倒くさいし。今いないって言って書類だけ貰えばいいでしょ」
「そうはいくか!」
私達の話を聞いていた男が、まだ疑っているように聞いてきた。
「では、本当にこの子供が?」
「ああそうだ!」
「違うから! 違うという事にしといてよ~!」
もうどうだっていいじゃない! 面倒ごとに巻き込まれるの嫌なんだから。
「とにかく、あんたがどう思おうが、こいつがシャベルだ。昨日まではシルバーランク・レベル55だったヤツだ。これからどこまで上げればいいのか。考えたくない。胃が痛いヤツだ! おい嬢ちゃん、ギルドカード見せてやれ」
え~、なんであたしがギルドカードをこいつに見せなきゃならないのよ。見せたってどうせ疑うんだしさ。
しゃあねえな。これでいいのか? 私は男の顔の前でギルドカードをひらひらと動かしながら言ったよ。
「ほ~ら、シルバーなの分かる? ちゃんと見えるかなぁ、あんたの節穴で」
男はギルドカードを手に取ろうとしたが、そんな事させてたまるか! さっさとしまったよ。
「おい、ちゃんと見せろ!」
「なんでお財布代わりになっているギルドカード、あんたに渡さないといけないのよ。泥棒か、お前は」
怒れ、おこれ! 「はやく出ていけ!」 って言わないかな。これだけおちょくってりゃ、キレるよね。
「私は先王の使いで来た。その私を愚弄するとは! この平民風情が!」
あ~あ。怒るとこそっちかぁ。面倒くさい貴族だねえ。とっととご退場願おう。
「で、用件は? 私がシャベルだけど、とっとと用事伝えて帰ればいいじゃない。うっすい茶しか出てこないぜ、このギルドは」
少し殺気を混ぜてみました。てへっ。……おいおい、この程度でおとなしくなるのかよ。
「ぐっ……。先王が、冒険者シャベルの謁見を所望している。一か月後の午後一時に王都の城にこの書類を携えて来るように。以上だ」
「いやだよ!」
「「なに!」」
やだなー。ギルド長まで声を合わせなくたっていいじゃん。
「王都まで行くのに、最速でも五日くらいかかるじゃない。行き帰り十日以上かかったとして、その間、畑の世話も家畜の世話もしなかったらひどいことになるの。却下です却下」
「嬢ちゃん、親は?」
ギルド長が聞いてきた。いまさら?
「やるわけないじゃん。まともな親がいたらこの歳で冒険者やっているわけないじゃない」
「そりゃそうだな、って親いたのかよ」
「いるけど、いないのと同じね。放任どころか母屋から追い出されているから」
「なんか分からんが大変だな」
「そう。大変なの! だから謁見とかなしにして!」
ギルド長に同情を買ってもらって、謁見なしにしてもらおうと思ったけど、お使いのおっさんが黙っていなかったよ。
「そういう訳にはいきません。先王の命令に背く気ですか!」
「適当に、病気になったとか言えばいいじゃん!」
「ダメです! 地を這ってでも来るように」
「なんで命助けて命令されなきゃいけないのよ!」
「先王だからです!」
「あ~~~~~~~~!」
権力メンドクサイ! こんなこと父と義母に知れたらどうなる? せっかく忘れられている私の存在を思い出させてはいけない!
「それに、お城に着ていけるようなドレスなんてないよ」
「冒険者の謁見では、冒険者らしい格好であれば認められます」
「未成年なのでパス」
「それではご両親の許可をとりましょう。私が一緒に説明に伺います」
よけいなことはやめて~! あの二人絡めないで~。しょうがない。一回会えばいいんでしょ。
「わかった。私の事を詮索されるよりは行った方がましね。服装はいつもの冒険者の服でいいなら行くよ」
「おい、嬢ちゃん、それは……」
「結構です。先王の前では口のきき方を間違えないように。ギルド長、勝手に話さないよう、よく躾けておくように。では私は帰ります。いつまでもこんな所には居たくない。まったく!」
はいはい。はよ帰れ! ギルド長どうした? そんなにへたりこんで。
「お前なー! はぁ。本当にあの格好でいくのか?」
「仕方ないじゃない。他に服持っていないし」
私の姿を見て、大きなため息吐いてるな~。しょうがないじゃん。だから現金振り込むだけにしてくれって言ったのに。
◇
謁見の日がきた。
昨日は宿で一日休んで洗濯をしたよ。
新しい作業着も買ったんだ。成長期だからね。買い替えるのにちょうどいいタイミングだね。
ついでにメイリの分も新調したよ。おみやげだね。夕方にはお風呂にも入った。謁見のために一応気合をいれて身ぎれいにしたよ!
麦わら帽子に真新しい作業服。軍手とブーツは装着済み。
タオルを首にかけ、リュックサックを背負う。
シャベルとフォークを括り付けた一輪車を押してお城の前まで来たよ。
さすがに正面からじゃまずいよね。通用門を探そう。
「あの~」
「なんだ農民。何か用か」
「この書類を持ってお城に来るように言われた者ですが」
「書類? ああ、庭師の新入りか。書類は預かる。ちょっと待っていろ。確認するからな」
門番さん、気さくないい人みたいで良かったよ。あれ、どこか行っちゃたね。
「ああ。本物かどうか確認してもらいに行っているんだ。上が認めたら入れるからもう少し待っててくれ」
もう一人の門番さんが教えてくれた。なるほど。偽造して入り込むヤツもいるからね。仕事熱心だね。感心感心。
「書類に問題はない。入ってもらえと言われたよ。なんかさあ、いつもより丁寧に言われたんだが、お前なにか聞いているか?」
「いや何も聞いちゃいないな。まあ人手が足りないんだろう。秋は冬に向けて忙しくなるからな」
「そうだな」
門番さんたち、何か言い合っているね。
「じゃあ、案内するから。勝手にうろうろしないように」
そうして私は、離れの小屋のような所がある広場に連れていかれたよ。そこには若いにーちゃんが地面に穴を掘っていた。門番さんはにーちゃんに声をかけた。にーちゃんは私を見ると嬉しそうに声をかけた。
「よく来た新入り! 俺はボブだ」
「ボクはシャベルって呼ばれている。よろしく」
なんとなく男と思われた方がよい気がした。どうせ一日だ。
しかしなんだな。城に呼びつけたのは働き手が必要だったからなのか? だったら最初からそう言えばいいものを。
「まずはここに深さ2mほどの穴を掘ってみてくれ。広さはこの線の通りだ。時間と丁寧さでどれくらいできるかチェックする。給金や仕事先に影響するから手をぬかずやるようにな」
なるほど。体力と技術がみたいということか。穴はゴミ捨て場にでもするのだろう。
「分かった。掘り出した土はどうする?」
「おお、最初にそれを聞いてきたと言う事は見込みがあると言う事だな。土は、あそこ見えるか? ゴミが詰まった穴に、フタをするように撒いてくれ」
「分かった。じゃあやっとくよ」
「道具はあるかい?」
「ああ。ここに」
一輪車とシャベルを見たにーちゃんは「マイシャベルか。しかもネコ車まで! 道具持ち込みは時給が上がるぞ!」と情報をくれた。
「じゃあ俺は他を見に行くから、その感じだと一人で出来るよね」
と言って去っていった。よし、じゃあやりますか! 謁見よりも気が楽だ!
◇
「遅い! 何をしておるんだ」
「おかしいですね。このようにシャベル殿の謁見許可証は届いておりますのに」
「控室にもまだ着いていないとは。なぜだ? 何かあったのか?」
「分かりません。他のものでは顔も分からないのかもしれません。自分が探してまいります!」
などという会話が先王と騎士団長の間で交わされているとは全く知らない私は、FFJの歌を鼻歌で歌いながら、せっせと穴を掘っていた。
◇
「よっしゃ~! 穴掘り完了! あとは土を運ぶだけね」
「おお、新入り。ずいぶん早いな」
「あざーす」
などと作業を楽しんでやっていたら、どこかで見たおっさんが大声出して走ってきた。
「シャベル殿~! 何をなさっているんですか~!」
え~と、誰だっけ? あ、あの時の指示役のおっさん!
「なにって穴掘りだけど? あのさ~、べつに私、仕事紹介して欲しいわけじゃなかったんだけど。まあ、手が足りないみたいだし、2~3日なら仕事していってもいいけどさ? ねえ、そこにいると作業の邪魔。どいてどいて」
「先王様がお待ちです」
はい? 先王様、作業状況知りたいのかな?
「先程から、先王様が謁見の場でお待ちになっております!」
「お待ちったって、私は通用門の門番からここに連れてこられたんだ。連れて来られたら仕事するのは当たり前だろう?」
あれ? 変な事言ってないよね。何この空気。
「なんだって通用門から入るんですか! 正門から入ってくると思って様々な人間が待機していたんです。しかもそんな恰好で」
「こんな格好だから通用門に行ったんじゃないか。私にだって常識があるわ!」
「常識があるなら馬車で来てください!」
「そんな金ないわ!」
貯めてる金はそこそこあるけど、あれはいざと言う時の逃走資金。無駄にはできない。
「そもそもそんな恰好で先王に謁見は出来ません!」
「あんたんとこの子供の使いが言ったんだ! 冒険者の格好でいいって」
「そうなのか? たしかに冒険者はアーマーを装着したままで謁見することもあるが……。いいや、シャベル殿の格好は、冒険者ではなく農民じゃないですか! どこが冒険者なのですか!」
「失礼な。コカトリスの首取った時もこの格好だったぞ。私は狩りをするときはいつもこの格好だ! 農民の時はブーツではなく長靴を履いているんだ。ほら、農民がブーツで農作業するか? しないだろう? まったく。作業だと知っていたら長靴持ってきたのに」
「だから! 仕事ではありません! 謁見に来てください!」
「私が悪いとでも? 勝手に呼び出されて、言われた通りしているだけだが?」
「呼び出したのはこちらですが、支度金は渡したはずです。ドレス一式買って馬車で来ても余るくらいの」
「貰ってないぞ」
「は?」
おっさんが間抜けた声を出した。
「貰ってない。貰ったのは呼び出し状一枚だ」
「呼び出し状? 招待状ですよね」
「似たようなものだろ」
「全然違います!」
どっちでもいいじゃん。そんなの。
「とにかく私が手にしたのは紙きれ一枚だ。銅貨1枚貰ってはいない」
「そんなはずは。お知らせした5日後にはギルドを通じて金貨100枚振り込んだのだが。ギルド長から話はなかったか?」
「5日後? なら知りようがないな。王都に向かって歩いていたからな」
「はあ?」
「仕方ないだろう。馬車なんて乗る気も金もなかったんだから! 金がない移動では、獣を狩って食料と路銀手に入れながらでないと詰んでしまうんだよ。戦いながら歩いては、ギルドに寄って換金して、飯食って宿屋に泊まる。こうやって、ちびちびちびちび移動しながら王都を目指そうと思ったら、20日は見ないといけないんだよ。 遅れると悪いからと早めに出発して、一生懸命一人で旅してきたんだ。金よこすならよこすと先に言え!」
「使いの者に伝言したのだが」
使いの者? ああ、あの子供の使いか。
「ああ……。だいぶからかったからなあ。伝え忘れてもしょうがないな。あの時は私も腹が立っていたからな」
「何をしたんですか?」
「え? 今しているみたいな会話だが」
おっさんが私の顔を見てため息をついた。
「こちらの手落ちは謝りますから。お金はギルドカードに振り込まれているはずです。お願いです。先王の謁見の場においで下さい」
「しかしねえ。見ての通り泥だらけだよ。せっかく新品用意して着てきたのに。さすがにこの泥まみれの格好で会うのは不敬じゃない?」
「不敬なのは今のあなたの言動です!」
「おかしいな。理路整然と話しているのに」
だから、私の顔見てため息吐かないで!
「シャベル殿。着替えはこちらで用意いたします。メイドも付けます。土木作業はもういいですから。お願いですから先王に会ってください」
「着替えか。何色の作業着だ? 私はベージュ系よりグレー系が好きなんだが」
「ドレスです! ドレスをご用意させます!」
「え~。やだよ~! 作業着がいいよ~」
「だまって従ってください!」
「じゃあ5分待って。一輪車とシャベルを洗って乾かしたい」
「ねご? なんですかそれは」
「それだよ。土乗っけているやつ」
おっさんは嫌そうな顔になったよ。ねごは便利なのに!
「そんなもの、そこの庭師に任せたらいいじゃないですか!」
「自分の道具は自分で管理! これが私の流儀だ!」
「ごちゃごちゃ言ってないで早く支度を」
「待って、5分くれ~!」
そうして私はシャベルと一輪車をちゃちゃっと洗い、先輩庭師のボブに後を任せておっさんに連れていかれた。何が何だか分らなかったろうなボブ。ごめんね。私が悪いわけじゃないのよ~! 文句ならこのおっさんか先王に言ってね! って無理だね! あきらめてね~!
「おい、何しているんだ」
ギルド長が訝しがっているが知るか。私は黙ってカップを男に渡した。グビグビと一気に飲み干した男は、やっと落ち着きを取り戻した。
事務の女性がお茶を持ってきた。とりあえず私達三人、無言で飲んだ。
「それで、シャベル様はどちらに」
「こいつだ」
ギルド長、こいつ呼びはないんじゃない?
「まさか! ご冗談を」
あれ? あの戦い見ていない人? なら!
「そうです。冗談ですよ。では私はこれで!」
「逃げるな!」
止めるな!
「いーじゃん。疑っているんだから。説明して説得するの面倒くさいし。今いないって言って書類だけ貰えばいいでしょ」
「そうはいくか!」
私達の話を聞いていた男が、まだ疑っているように聞いてきた。
「では、本当にこの子供が?」
「ああそうだ!」
「違うから! 違うという事にしといてよ~!」
もうどうだっていいじゃない! 面倒ごとに巻き込まれるの嫌なんだから。
「とにかく、あんたがどう思おうが、こいつがシャベルだ。昨日まではシルバーランク・レベル55だったヤツだ。これからどこまで上げればいいのか。考えたくない。胃が痛いヤツだ! おい嬢ちゃん、ギルドカード見せてやれ」
え~、なんであたしがギルドカードをこいつに見せなきゃならないのよ。見せたってどうせ疑うんだしさ。
しゃあねえな。これでいいのか? 私は男の顔の前でギルドカードをひらひらと動かしながら言ったよ。
「ほ~ら、シルバーなの分かる? ちゃんと見えるかなぁ、あんたの節穴で」
男はギルドカードを手に取ろうとしたが、そんな事させてたまるか! さっさとしまったよ。
「おい、ちゃんと見せろ!」
「なんでお財布代わりになっているギルドカード、あんたに渡さないといけないのよ。泥棒か、お前は」
怒れ、おこれ! 「はやく出ていけ!」 って言わないかな。これだけおちょくってりゃ、キレるよね。
「私は先王の使いで来た。その私を愚弄するとは! この平民風情が!」
あ~あ。怒るとこそっちかぁ。面倒くさい貴族だねえ。とっととご退場願おう。
「で、用件は? 私がシャベルだけど、とっとと用事伝えて帰ればいいじゃない。うっすい茶しか出てこないぜ、このギルドは」
少し殺気を混ぜてみました。てへっ。……おいおい、この程度でおとなしくなるのかよ。
「ぐっ……。先王が、冒険者シャベルの謁見を所望している。一か月後の午後一時に王都の城にこの書類を携えて来るように。以上だ」
「いやだよ!」
「「なに!」」
やだなー。ギルド長まで声を合わせなくたっていいじゃん。
「王都まで行くのに、最速でも五日くらいかかるじゃない。行き帰り十日以上かかったとして、その間、畑の世話も家畜の世話もしなかったらひどいことになるの。却下です却下」
「嬢ちゃん、親は?」
ギルド長が聞いてきた。いまさら?
「やるわけないじゃん。まともな親がいたらこの歳で冒険者やっているわけないじゃない」
「そりゃそうだな、って親いたのかよ」
「いるけど、いないのと同じね。放任どころか母屋から追い出されているから」
「なんか分からんが大変だな」
「そう。大変なの! だから謁見とかなしにして!」
ギルド長に同情を買ってもらって、謁見なしにしてもらおうと思ったけど、お使いのおっさんが黙っていなかったよ。
「そういう訳にはいきません。先王の命令に背く気ですか!」
「適当に、病気になったとか言えばいいじゃん!」
「ダメです! 地を這ってでも来るように」
「なんで命助けて命令されなきゃいけないのよ!」
「先王だからです!」
「あ~~~~~~~~!」
権力メンドクサイ! こんなこと父と義母に知れたらどうなる? せっかく忘れられている私の存在を思い出させてはいけない!
「それに、お城に着ていけるようなドレスなんてないよ」
「冒険者の謁見では、冒険者らしい格好であれば認められます」
「未成年なのでパス」
「それではご両親の許可をとりましょう。私が一緒に説明に伺います」
よけいなことはやめて~! あの二人絡めないで~。しょうがない。一回会えばいいんでしょ。
「わかった。私の事を詮索されるよりは行った方がましね。服装はいつもの冒険者の服でいいなら行くよ」
「おい、嬢ちゃん、それは……」
「結構です。先王の前では口のきき方を間違えないように。ギルド長、勝手に話さないよう、よく躾けておくように。では私は帰ります。いつまでもこんな所には居たくない。まったく!」
はいはい。はよ帰れ! ギルド長どうした? そんなにへたりこんで。
「お前なー! はぁ。本当にあの格好でいくのか?」
「仕方ないじゃない。他に服持っていないし」
私の姿を見て、大きなため息吐いてるな~。しょうがないじゃん。だから現金振り込むだけにしてくれって言ったのに。
◇
謁見の日がきた。
昨日は宿で一日休んで洗濯をしたよ。
新しい作業着も買ったんだ。成長期だからね。買い替えるのにちょうどいいタイミングだね。
ついでにメイリの分も新調したよ。おみやげだね。夕方にはお風呂にも入った。謁見のために一応気合をいれて身ぎれいにしたよ!
麦わら帽子に真新しい作業服。軍手とブーツは装着済み。
タオルを首にかけ、リュックサックを背負う。
シャベルとフォークを括り付けた一輪車を押してお城の前まで来たよ。
さすがに正面からじゃまずいよね。通用門を探そう。
「あの~」
「なんだ農民。何か用か」
「この書類を持ってお城に来るように言われた者ですが」
「書類? ああ、庭師の新入りか。書類は預かる。ちょっと待っていろ。確認するからな」
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「いや何も聞いちゃいないな。まあ人手が足りないんだろう。秋は冬に向けて忙しくなるからな」
「そうだな」
門番さんたち、何か言い合っているね。
「じゃあ、案内するから。勝手にうろうろしないように」
そうして私は、離れの小屋のような所がある広場に連れていかれたよ。そこには若いにーちゃんが地面に穴を掘っていた。門番さんはにーちゃんに声をかけた。にーちゃんは私を見ると嬉しそうに声をかけた。
「よく来た新入り! 俺はボブだ」
「ボクはシャベルって呼ばれている。よろしく」
なんとなく男と思われた方がよい気がした。どうせ一日だ。
しかしなんだな。城に呼びつけたのは働き手が必要だったからなのか? だったら最初からそう言えばいいものを。
「まずはここに深さ2mほどの穴を掘ってみてくれ。広さはこの線の通りだ。時間と丁寧さでどれくらいできるかチェックする。給金や仕事先に影響するから手をぬかずやるようにな」
なるほど。体力と技術がみたいということか。穴はゴミ捨て場にでもするのだろう。
「分かった。掘り出した土はどうする?」
「おお、最初にそれを聞いてきたと言う事は見込みがあると言う事だな。土は、あそこ見えるか? ゴミが詰まった穴に、フタをするように撒いてくれ」
「分かった。じゃあやっとくよ」
「道具はあるかい?」
「ああ。ここに」
一輪車とシャベルを見たにーちゃんは「マイシャベルか。しかもネコ車まで! 道具持ち込みは時給が上がるぞ!」と情報をくれた。
「じゃあ俺は他を見に行くから、その感じだと一人で出来るよね」
と言って去っていった。よし、じゃあやりますか! 謁見よりも気が楽だ!
◇
「遅い! 何をしておるんだ」
「おかしいですね。このようにシャベル殿の謁見許可証は届いておりますのに」
「控室にもまだ着いていないとは。なぜだ? 何かあったのか?」
「分かりません。他のものでは顔も分からないのかもしれません。自分が探してまいります!」
などという会話が先王と騎士団長の間で交わされているとは全く知らない私は、FFJの歌を鼻歌で歌いながら、せっせと穴を掘っていた。
◇
「よっしゃ~! 穴掘り完了! あとは土を運ぶだけね」
「おお、新入り。ずいぶん早いな」
「あざーす」
などと作業を楽しんでやっていたら、どこかで見たおっさんが大声出して走ってきた。
「シャベル殿~! 何をなさっているんですか~!」
え~と、誰だっけ? あ、あの時の指示役のおっさん!
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「先王様がお待ちです」
はい? 先王様、作業状況知りたいのかな?
「先程から、先王様が謁見の場でお待ちになっております!」
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あれ? 変な事言ってないよね。何この空気。
「なんだって通用門から入るんですか! 正門から入ってくると思って様々な人間が待機していたんです。しかもそんな恰好で」
「こんな格好だから通用門に行ったんじゃないか。私にだって常識があるわ!」
「常識があるなら馬車で来てください!」
「そんな金ないわ!」
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「そもそもそんな恰好で先王に謁見は出来ません!」
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「だから! 仕事ではありません! 謁見に来てください!」
「私が悪いとでも? 勝手に呼び出されて、言われた通りしているだけだが?」
「呼び出したのはこちらですが、支度金は渡したはずです。ドレス一式買って馬車で来ても余るくらいの」
「貰ってないぞ」
「は?」
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「はあ?」
「仕方ないだろう。馬車なんて乗る気も金もなかったんだから! 金がない移動では、獣を狩って食料と路銀手に入れながらでないと詰んでしまうんだよ。戦いながら歩いては、ギルドに寄って換金して、飯食って宿屋に泊まる。こうやって、ちびちびちびちび移動しながら王都を目指そうと思ったら、20日は見ないといけないんだよ。 遅れると悪いからと早めに出発して、一生懸命一人で旅してきたんだ。金よこすならよこすと先に言え!」
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「何をしたんですか?」
「え? 今しているみたいな会話だが」
おっさんが私の顔を見てため息をついた。
「こちらの手落ちは謝りますから。お金はギルドカードに振り込まれているはずです。お願いです。先王の謁見の場においで下さい」
「しかしねえ。見ての通り泥だらけだよ。せっかく新品用意して着てきたのに。さすがにこの泥まみれの格好で会うのは不敬じゃない?」
「不敬なのは今のあなたの言動です!」
「おかしいな。理路整然と話しているのに」
だから、私の顔見てため息吐かないで!
「シャベル殿。着替えはこちらで用意いたします。メイドも付けます。土木作業はもういいですから。お願いですから先王に会ってください」
「着替えか。何色の作業着だ? 私はベージュ系よりグレー系が好きなんだが」
「ドレスです! ドレスをご用意させます!」
「え~。やだよ~! 作業着がいいよ~」
「だまって従ってください!」
「じゃあ5分待って。一輪車とシャベルを洗って乾かしたい」
「ねご? なんですかそれは」
「それだよ。土乗っけているやつ」
おっさんは嫌そうな顔になったよ。ねごは便利なのに!
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「待って、5分くれ~!」
そうして私はシャベルと一輪車をちゃちゃっと洗い、先輩庭師のボブに後を任せておっさんに連れていかれた。何が何だか分らなかったろうなボブ。ごめんね。私が悪いわけじゃないのよ~! 文句ならこのおっさんか先王に言ってね! って無理だね! あきらめてね~!
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