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Episode.01 ルクリア・ピンセアナ
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しおりを挟むピンセアナ伯爵には2人の子どもがいる。
第一子は後に後継ぎとなるであろう男の子であり、彼は非常に優秀であった。その優秀さは目を張るものがあり、周囲からの評価も高い。
そんな少年にはとても大切な存在がいた。
それが、第二子の女の子である。
淡い桃色の髪、大きな瞳、小柄で華奢な身体。涙を溜めて、必死に少年に抱き着く姿はどうも庇護欲をそそられる。
彼女は人見知りが激しいらしく、慣れないメイドや訪問者の姿を見た瞬間には、小さな足を懸命に動かして自分の部屋に篭る。
しかし、少年にだけは違った。
両親やメイドたちには数年かけて慣れてきたようだが、彼らとは違い、少年にはよく甘えていた。
「おにいさま、まって。」
そう言っては少年に引っ付き、誰かいようものなら少年の後ろに隠れる。
少年は4歳下の妹が可愛くて仕方がなかった。
「おにいさま、どこいくの?」
家庭教師が家を訪れ、少年が勉強のため自室へと移動すると、ルクリアはその大きく愛らしい瞳に不安をのせて尋ねる。
「勉強をしに行くんだよ。」
「リアも、いっちゃだめ……?」
発音が難しいのかルクリアは自分のことを〝リア〟と呼んでいた。そんな少女に少年はーーー
「ルクリアも一緒にいていいか、先生に聞いてみようか。」
ーーーいつものように降参するのだ。
「うん!!」
この屋敷の人にとって、嬉しそうに少年に抱き着くルクリアの満面の笑みはとても貴重なものだった。
しかし、少年だけは毎日のようにこの愛しい笑顔を享受していた。
「ルクリアは静かにしてるんだよ?
ちょっとでも煩くしたら、先生に追い出されるからね?」
「うん!」
毎度のことに苦笑しながらも了承した教師に迷惑をかけないよう、少年はルクリアに言い聞かせる。
幸いルクリアは頭の悪い子ではない。言われたことはきっちりと守り、一人で絵本を読むこともあれば、少年の隣で静かに教師の言葉を聞いていることもあった。
あと2年もすれば少年は貴族の学びの宿である〝学院〟に入ることとなる。
初等部は10歳から14歳までの4年間。
つまり、少年とルクリアは4歳差なので被らない。
ルクリアが学院に入学する頃には、少年は初等部とは別校舎の高等部にいることになるのだ。
少年は自分がいなくなった後のルクリアを心配していた。少女は自分がいないと生きていけないような気がしてならない。
9歳の年が半分ほど過ぎても、少年はルクリアに何も言えないでいた。
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