引きこもりたい伯爵令嬢

朱式あめんぼ

文字の大きさ
3 / 41
Episode.01 ルクリア・ピンセアナ

しおりを挟む


 ピンセアナ伯爵には2人の子どもがいる。


 第一子は後に後継ぎとなるであろう男の子であり、彼は非常に優秀であった。その優秀さは目を張るものがあり、周囲からの評価も高い。

 そんな少年にはとても大切な存在がいた。


 それが、第二子の女の子ルクリアである。

 淡い桃色の髪、大きな瞳、小柄で華奢な身体。涙を溜めて、必死に少年に抱き着く姿はどうも庇護欲をそそられる。

 彼女は人見知りが激しいらしく、慣れないメイドや訪問者の姿を見た瞬間には、小さな足を懸命に動かして自分の部屋に篭る。


 しかし、少年にだけは違った。

 両親やメイドたちには数年かけて慣れてきたようだが、彼らとは違い、少年にはよく甘えていた。

 「おにいさま、まって。」

 そう言っては少年に引っ付き、誰かいようものなら少年の後ろに隠れる。

 少年は4歳下の妹が可愛くて仕方がなかった。


 「おにいさま、どこいくの?」

 家庭教師が家を訪れ、少年が勉強のため自室へと移動すると、ルクリアはその大きく愛らしい瞳に不安をのせて尋ねる。

 「勉強をしに行くんだよ。」

 「リアも、いっちゃだめ……?」

 発音が難しいのかルクリアは自分のことを〝リア〟と呼んでいた。そんな少女に少年はーーー


 「ルクリアも一緒にいていいか、先生に聞いてみようか。」


 ーーーいつものように降参するのだ。

 「うん!!」

 この屋敷の人にとって、嬉しそうに少年に抱き着くルクリアの満面の笑みはとても貴重なものだった。

 しかし、少年だけは毎日のようにこの愛しい笑顔を享受していた。


 「ルクリアは静かにしてるんだよ?
    ちょっとでも煩くしたら、先生に追い出されるからね?」

 「うん!」

 毎度のことに苦笑しながらも了承した教師に迷惑をかけないよう、少年はルクリアに言い聞かせる。

 幸いルクリアは頭の悪い子ではない。言われたことはきっちりと守り、一人で絵本を読むこともあれば、少年の隣で静かに教師の言葉を聞いていることもあった。



 あと2年もすれば少年は貴族の学びの宿である〝学院〟に入ることとなる。

 初等部は10歳から14歳までの4年間。
 つまり、少年とルクリアは4歳差なので被らない。

 ルクリアが学院に入学する頃には、少年は初等部とは別校舎の高等部にいることになるのだ。


 少年は自分がいなくなった後のルクリアを心配していた。少女は自分がいないと生きていけないような気がしてならない。

 9歳の年が半分ほど過ぎても、少年はルクリアに何も言えないでいた。





しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

うわさの行方

下沢翠花(しもざわすいか)
恋愛
まだ十歳で結婚したセシリア。 すぐに戦場へ行ってしまった夫のニールスは優しい人だった。 戦場から帰るまでは。 三年ぶりにあったニールスは、なぜかセシリアを遠ざける。 ニールスの素っ気ない態度に傷つき疲弊していくセシリアは謂れのない酷い噂に追い詰められて行く。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる

仙冬可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。 清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。 でも、違う見方をすれば合理的で革新的。 彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。 「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。 「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」 「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」 仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。

白い結婚なので無効にします。持参金は全額回収いたします

鷹 綾
恋愛
「白い結婚」であることを理由に、夫から離縁を突きつけられた公爵夫人エリシア。 だが彼女は泣かなかった。 なぜなら――その結婚は、最初から“成立していなかった”から。 教会法に基づき婚姻無効を申請。持参金を全額回収し、彼女が選んだ新たな居場所は修道院だった。 それは逃避ではない。 男の支配から離れ、国家の外側に立つという戦略的選択。 やがて彼女は修道院長として、教育制度の整備、女性領主の育成、商業と医療の再編に関わり、王と王妃を外から支える存在となる。 王冠を欲さず、しかし王冠に影響を与える――白の領域。 一方、かつての夫は地位を失い、制度の中で静かに贖罪の道を歩む。 これは、愛を巡る物語ではない。 「選ばなかった未来」を守り続けた一人の女性の物語。 白は弱さではない。 白は、均衡を保つ力。 白い結婚から始まる、静かなリーガル・リベンジと国家再編の物語。

転生皇女はフライパンで生き延びる

渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。 使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。 ……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。 自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。 そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。 「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」 ※※※ 死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。 ※重複投稿作品※

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

処理中です...