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Episode.01 ルクリア・ピンセアナ
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しおりを挟むルクリア・ピンセアナ。
その名を持つ少女の姿を思い浮かべ、とある女性がため息を吐いた。
彼女はピンセアナ伯爵夫人、ルクリアの母である。貴族女性としての自信を持つ彼女は、自分の娘であるルクリアの扱いにとても困っていた。
生まれた時はそうでもなかったと思い返す。
息子よりも随分と小さく産まれてきた彼女は、他の子となんら変わりはなかった。
産まれたすぐから息子にはよく懐いていた。もちろん、母親である自分にも、父親にも懐いていたのだ。
暫らくすると人見知りが見られるようになった。まあ、それも子ども成長過程としては普通だ。
しかし、3歳くらいだろうか、人見知りが激しくなったのだ。おかしいな、と思い始めたのはこの頃だと思う。
メイドたちに対してもどこか怯えるような態度をとった。
私と夫には普通だったと思う。その一方で息子への懐き具合が酷くなった。
常に息子に引っ付いており、息子が離れようとすると泣く。勉強の時間にも傍にいるのだ。
息子自身はそれを苦とも思っていないようだったので特に困ったことにはならなかったが。
どうしたものか、と夫人はまたため息を吐く。
息子が9歳になった年、ルクリアも5歳となり家庭教師による勉強を始めた。
当たり前だが息子とは習う内容が違うので一緒の部屋で勉強できるはずもなく。泣く泣く別の部屋で勉強することになったのだが。
〝まずは文字と数字を書けるようになりましょう〟と勉強を始めた教師に、ルクリアは耐えきれず部屋を飛び出し、息子の部屋へと突撃したという。
人見知りの激しいあの子に知らない人と2人きりはやはり難しかったのだろうと思う。
部屋に入ってきたルクリアに、どうしたのかと息子が尋ねたところ「あんなことするくらいなら兄様と一緒にいたい」と答えたらしい。
その話を聞いたとき、私はどういう意味か理解出来なかったが、息子が言うにはあの子は頭が良いらしい。
そこで確認したところ、実際に基本の読み書きは文句なく出来たというのだから驚きだ。
簡単な計算、軽い常識に対しても同じで、ルクリアは予定の1年分以上を飛ばして勉強をすることとなった。
息子の勉強の時間に一緒にいただけでそこまでできるはずはない。けれどもそれしかルクリアが勉強に触れる機会はなかったのだから、できた、ということなのだろう。
予定の倍のスピードで勉強を進めるルクリアに、息子は偉いねと褒める。私ももちろん褒めるが。
兄離れはまだ出来そうにないが、もう1年と待たず息子は学院に入る。
長期の休暇があるまでこちらに戻って来ることもない。
そしてこの兄妹は4歳差であるため、初等部も被らないーーー否、被らなくて良かったのかもしれない。
息子もそれに関しては困っているようで、まだ伝えていないそうだ。
私の娘は、旅立つ兄に大人しくしていてくれるのだろうか。
そして、彼女は本日3度目のため息を吐いた。
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