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Episode.01 ルクリア・ピンセアナ
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しおりを挟むそれはいつだったか曖昧で、きっかけさえもはっきとしない。
手に持っていた玩具(おもちゃ)を落としたとか、誰かに抱き上げられたとか、そんな有り触れた瞬間で。いや、庭に居座る子どもの猫と目が合ったときだったかもしれない。
とにかく、本当にささいな瞬間だった。
けれど、その瞬間、わたしは前世と言われるものの記憶を思い出したのだ。
前世のわたしはそれなりに重度の対人恐怖症を患っていた。
その記憶、自我とも言えるそれを手に入れた瞬間、もともと人見知りの時期だったらしいルクリアは、極度の人見知りになってしまったのだ。
思い出したのは多分3歳頃で、それ以前の記憶は頼りない程度のもの。
しかし、ルクリアと1番血の近いお兄様の記憶は残っていた。
優しくて、温かくて、たっぷりと甘えされてくれる存在。そうわたしの記憶に刻まれていたのだ。
それまでもたくさん甘えさせてもらっていたお兄様に、わたしはそれ以上に甘え、頼ることにした。
対人恐怖症のわたしが唯一信頼できる存在だったから。わたしは、つい、依存してしまったのだ。
「おにいさま、まって。」
そう言ってわたしはお兄様に付いて行く。
近くにいたメイドの姿が視界に入って、彼女がわたしを見ていることに怯えてお兄様に抱き着く。お兄様は大丈夫だよと笑って、抱き返してくれる。
その優しさに甘えて、お兄様の服にぎゅっとしがみついて、目をつむった。
何も、怖いものが目に入らぬよう。
わたしの家は貴族で、学というものはどうしても必要になるらしい。
女に学などいらない、ではなく、女こそ学を身につけ男の支えとなれ、というのが近年の風潮だという。
何歳になれば学を身につける学びの宿である〝学院〟に入らなければならないのかは知らないが、この家では5歳から勉強を始める。もちろん、8歳であるお兄様は家庭教師による勉強の時間がある。
お兄様と離れるのが嫌で、一緒にいたいとわたしは泣いた。
お兄様やお母様、家庭教師の方にまで迷惑をかけると分かっていたが、お兄様と離れるのが嫌だという思いが強くなった瞬間に感情のコントロールが効かなくなるのだ。
自我が確立していても、わたしはまだ4歳だからだと思う。
「ルクリアも一緒にいていいか、先生に聞いてみようか。」
優しいお兄様はいつもそう言って、わたしを甘やかしてくれるのだ。
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