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Episode.05 始まりの鐘
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しおりを挟む国王が壇上を降りると、貴族の誓いが無事終わったらこともあり講堂内の空気が少し軽くなった。しかし、式は続く。
学院長の話が終わると、学徒会の会長が壇上へ上がった。薄灰色の髪に、同じ色をした目尻の上がった瞳が印象的なその会長は、国王のいる緊張するであろうこの場面で堂々と話している。
その自信溢れる姿に惹かれ、羨望する。そして、次の瞬間には劣等感や、この場所にこんな自分がいることを恥ずかしく感じて、逃げたくなるのだ。人の視線が急に気になって、怖くて、俯いて、震える体を抑えて、せり上がる気持ちの悪さに涙が零れそうになる。
そっと、静かに取り出したハンカチを口元にあて、ゆっくりと息を吸う。慣れた薔薇の匂いに息の吐き方を思い出す。
堂々とした会長の話は終わらない。他の新入生たちが聞き惚れている中、一人、わたしはただひたすらに早く終わるようにと願い続けた。
「あの方、宰相の息子なのか。」
「ええ、今年の学徒会長には期待したいところですからね。」
「それにしても宰相に似た風貌だな。」
「見事な演説だと言えよう。」
「本当に、いつ見てもここは貴族社会の縮図のようだ。」
長い式典に気が緩んだらしい来賓たちの声。会長。期待。貴族社会の縮図。
手に持つハンカチを握りしめ、会長へと視線を上げる。
パチリ
視線が合う。強い薄灰の目が細められるのを見て、これが偶然などではなく、見られていたということに気付く。
強くこみ上げる吐き気。口の中に溢れる唾液に限界を悟る。しかし、ここで退席すれば目立つことは間違いない。
必死に呼吸をしていると、会長は壇上を下り、新入生の代表である公爵令嬢が短い挨拶を述べて式典は静かに終わりを迎えた。
頭に響く鐘の音。
一人ひとり退場するそのゆっくりさがもどかしく、それでも、お母様の姿を描いて後に続く。
講堂を出たところで、慌てるように一歩踏み出しーーー目が合った。藤色の髪が美しいその公爵令嬢は、にっこりと微笑んでみせた。
せり上がったのは〝こわい〟という感情。
逃げるように辺りを見回しても当然のように知る顔はいない。冷や汗が背中を伝い、指先がやけに汗ばんでいた。優雅なんてそんなこと考える余裕はなく、この場から逃げることだけを考える。
周囲で行われる軽やかな挨拶は恐怖心やら焦燥感やらを急き立てる。おかしな自分に視線が集まるのがわかって、それらは募るばかりだった。
そして、唯一、わたしの記憶にある白い、雪のような色が視界に入る。
「せ、セネシオ様…っ!」
見つけた唯一の知り合いに駆けると、彼が驚くのがわかった。大きく見開かれた美しい白に、混乱状態にあった頭が冷静さを取り戻す。
ダメだ、これではお兄様のときと何も変わらない。
「すみません、私…失礼いたします…っ。」
周りの反応を見るのも怖く、自室への道を一心に辿った。
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