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魔術師団の魔術師
しおりを挟む「ドラーナ子爵?」
これは暴君だとある意味感心していれば、またも子爵を呼ぶ声。
子爵はイラつきながらも尊大に振り向きーーー息を飲み、その傲慢に染まった瞳を大きく見開くのだった。
私とフレディには子爵の驚きは理解できず、呆然とするばかりだった。
この国には魔術師が蔓延っている。
国家間の争いにおいても、国の統治においても魔術の存在は欠かせず、魔術師の需要は高まるばかりである。供給に対し需要が高ければその価値は高くなる。
そうすると、権力がなければ生きていけない貴族は自然と魔術の力を求める。
魔術師の才能は血筋が大きく関わる。必要な血を集めれば次第に良い魔術師が出来上がる。そのため、魔術師の多くは貴族であり、その能力は高位の貴族であればあるほど高いものとなる。
平民に魔術の才を持つものが現れることも少なくはない。大きな力を持つ者ほど上位の貴族と縁を持たされ、その血筋の一部となることがほとんどである。
かくいう私も、その一人であるが。
そんな魔術師のエリートが集まるのが王に仕える魔術師団である。人数に大きな差はあるが、
エリート騎士たちの集まる騎士団とともに魔術師団は憧れの職といわれ、そこに入団できればその後の人生に困ることはないだろうなんて話もある。
魔術師団は5つの部隊に別れている。
第1部隊は王並びに王族の護衛。
第2部隊ほ王城を守る。
第3部隊は王都の貴族街を守る。
第4部隊は王都の城下街を守る。
第5部隊は有事の時の処理を行う。
同じように騎士団もあちこちに護衛が配備されているが、あちらは魔術師団と違い人数が多いので、勝手が違う。
そんな魔術師団の目印となるのが臙脂色のローブである。金の糸で王家の紋章が印された美しくも頑丈なローブは、青色を背負う騎士団と対になるように考えられたものだという。
そして、魔術師団に所属する自分もまた、臙脂色のローブを着ているのだ。
明らかに平民である少女を脅かす貴族の顔は知っている。領主である伯爵の下でこの街の暴君ともいわれるドラーナ子爵である。
ドラーナ子爵は臙脂のローブを見て驚きの顔を見せた。
どうやらこのローブが示すものを知っていたらしい。意外だと思いながらこちらから近付く。
魔術師のエリートである魔術師団は、もちろんその能力はそこらの貴族と比べものにならない。
抗うことのできる能力を持つ者が下の立場であれば、物事はあまりうまく立ち行かない。反抗されれば上の者がやられるだけだ。上に立つ者は統治と支配のできる能力が必要となる。
そのため、魔術師団に所属する者の地位は高く、平民であろうとそのらの子爵程度では上に立つことはできない。
暴君であればある程、上の立場に弱いものである。
「貴方はノブレス・オブリージュという考え方を知らないとでも言うつもりか?」
「い、いえいえ、私はただ、この平民に貴族に対する態度というものを教えていただけなのです!そのままでは私は良くても他の貴族の怒りを買ってしまうと危惧致しましたもので!」
わかりやすい言い訳に苦笑も浮かばないな、と思う。王都に来るような貴族はもっと強かであり、美しい衣の下に全てを隠しきっていた。
やはり、高位の貴族となると場数が違うからだろうか。
「…そうか。では注意とやらが終わったのならもうその少女を引き留める理由はないな?」
「え、ええ、もちろんです。」
それまで俯いていた少女がこちらを見上げーーーえ?
ドクリ。
これまでに感じたことのない心臓の鼓動。激しく血が流れるように身体がカッと熱くなり、彼女から目が離せない。
真っ青に澄んだ空を写したような瞳。
熱くなる身体の一方、頭は彼女は魔術師だったのか。だからドラーナ子爵があのように連れ去ろうとした理由はこれか、とそんなことを冷静に考える。
フードに覆われた蒼色を型どる顔立ちはどこか人形のように美しく、愛らしく。プラチナブロンドのふわりとした髪が彼女の白い肌をさらに引き立てていた。
ドクドクと動悸を感じる自分に対し、少女はどこかキョトンとした表情でこちらを見ている。
恋愛脳な同僚の言葉を思い出す。
『いやほんと、惚れた方が負けなの!だって、こっち見てるだけでも、ただ喋ってても、怒ってても、何してても可愛いとしか思えないから!』
馬鹿なヤツだと思っていた。才能はあるのに本人がこれではと、笑ってやった記憶がある。
自分に恐れをなしたのかドラーナ子爵は姿を消していた。
少女はしばらくして小さく笑った。
「助けていただいてありがとうございました。」
別に特別な言葉を言われたわけでもない。安心からか少し表情が柔らかくなって、助けた人間に対し礼を言っただけだ。
わかっている。わかっているのに、この早まる鼓動は収まることを知らない。
『冷静沈着の言葉が似合うお前でも惚れたらオレの言ってることわかるから!』
ああ、わかる。嫌なくらい理解できる。
「…いや、気にしなくていい。それでは失礼する。」
離れなくては。頭を冷やさなければ。このままでは。逃げるようにその場から離れると、いつもの店へ寄るという予定をぶっ飛ばして転移した。
その後、男の職場で大量の水を浴びながら深みのある紺色の髪を掻きむしり、なにやら「違う違う違う…。」と呟く彼の姿があったとか。
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