空手バックパッカー放浪記

冨井春義

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スリランカカレーを食す

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私はこの日から約1週間ほどの間、このゲストハウスのドミトリーで過ごすことにしました。
タイのときと同様に、まずこの国に慣れることが大事と考えたからです。

初日の夜にはまず、スリランカで始めての食事を体験してます。
美味しいメシにありつけるかどうかは、この街に滞在するにあたって重大な問題ですから。

同室のヒッピー風、スティーブ君と近くの安食堂に行ってみることにしました。
スティーブと同じイギリス人のカップル、ジムとメイは街の食堂の料理は合わないということで
ゲストハウスのレストランで済ますつもりのようです。

夕刻になりましたので、外の気温もかなり下がり耐えられない暑さではなくなっております。

「トミー、あの店だ。あそこがこのあたりでは一番いけるね。オレは明日にはタイに向かうからトミーに教えといてやるよ」

「ああ、ありがとう。で、スリランカの旅はどうだったの?」

「良かったね。オレはインドより好きだな。ちょっとクセはあるけどスリランカ人はなかなかいい奴が多いしね。トミーも長く滞在するんなら、気に入るといいんだけどな」

「うん。気に入るように努力するよ」

食堂の名前は『クイーンズ・フォート・ホテル』。
一流ホテルのような名前ですが、単なる安食堂です。泊まることはできない。
なぜかスリランカでは安食堂の名前が、すべて『**HOTEL」となっています。
このタイプの食堂は入り口に手洗い用の水道と、タバコやお菓子、チューイングガムなどを売るスタンドが付いています。薄暗い店内に安っぽいテーブルが並んでいる。

「ライスをくれ」スティーブが店員に注文します。
すぐに皿がふたつとライスを盛ったボールが運ばれてきます。

ライスを自分の皿に取り分けると、店員が4つに仕切られたアルミの容器を手に持って、私達に見せます。カレーが4種類あるようです。
種類がよくわからないので、適当なのを指差すとライスにぶっかけてくれます。

米はタイ同様インディカ種の長粒米ですが、特有の匂いはタイよりもきつい。
すごくパサパサに炊き上げています。
カレーの方は、日本のカレーのようにドロリとしたものではなく、スープのようです。
これをかける事によって、米がいい塩梅にふやけるという寸法のようです。
面白い。

スパイシーなカレーの香が、食欲を掻き立てます。

「さあ、トミー。食ってみな」

「うん。いただきます」

スプーンでライスにカレーを混ぜ合わせて、それを口に運びます。
・・・!・・・・
確かにこれはいける!旨いです。
具はチキンのようですが、カレーソースは豊かな味でチキンに良く合っています。
が、次の瞬間。

「か・・辛い~!!」

ドカーンと強烈な辛さが襲ってきました。
私はもともと辛い食べ物が好きなほうですが、これはかなり凶暴な辛さです。

「わははは!!辛いだろ?トミー。これにビビってあのカップルは出てこなかったのよ。これに慣れなきゃな、スリランカが好きにはなれないぜ」

しかし辛いのは辛いけど、旨いのは事実。
辛さにたいする耐性は、私は強い方です。

「スティーブ、大丈夫さ。このくらいの辛さすぐ慣れるよ。激辛大好き!問題なし」

「ほお、言うね。それなら確かに問題ない。上手くやっていけるさ」

言うとスティーブもカレーを食べ始めます。
見る見る白い顔が、真っ赤に染まってゆく・・・ムリしてるな。こいつ。

皿のカレーが少なくなると、店員がやってきてかけてくれます。
基本的に食べ放題のようだ。
今ではさほどではありませんが、当時大食漢でならした私にはこれはうれしい。

ライスをどんどん皿に追加して、カレーをかけてもらいます。
はふはふ言いながら、カレーを口に運び続ける私を見て、スティーブはなかば
呆れ顔です。気が付くと店内のスリランカ人の客も、全員こちらを見ている。

「ああ、腹いっぱいだー。もういい充分だ」

カレーを追加しようとする店員に言います。

「トミー・・・おまえよく水も飲まずにそれだけ食えるもんだな。地元のやつらも驚いてるぜ」

そういうスティーブはさきほどからペットボトルの水をがぶ飲みしています。
私もここではじめて水を飲みますが、口の中の辛味は簡単には消えません。
しかし、もう慣れた。

周りの客が紅茶を飲んでいるのを見て、私も紅茶を頼んでみます。
私のスリランカに関する唯一の知識は、『セイロンティー』の産地であるということ。
皆が飲んでいるのは、ミルクの入っていないプレーン・ティーですので同じものを飲みます。

・・・甘い!まるで蜜のように甘い紅茶です。しかしこれも旨い。
辛いものを食べた後に、この甘さはちょうどいい加減となります。
そして味が濃い。日本で飲むセイロンティーのような嫌な渋味もない。

「スティーブ!僕はスリランカでやっていけそうだ」

紅茶を飲み干すと同時に、私は言いました。

「・・・そ、そうか。。それはよかったな・・・」
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