快傑!紅烏(ベニカラス) 蘇る大江戸ヒーロー伝

冨井春義

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序章 紅烏登場

紅烏の舞い

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「おい、松吉。いったい何事だ?」
駕籠の中の岡田が恐る恐る尋ねる。

「やい紅烏。いずれてめえが現れると思って待っていたぜ。俺たち黒河豚一家はてめえがこれまで相手にしてきた半端なやくざ共とは違って、ちっとばかり骨があるぜ。覚悟しな」

岡田の声には耳を貸さず、紅烏に向かって蝮の松吉が啖呵を切ると黒河豚一家の若衆たちが一斉に長ドスを引き抜いた。

「さあ先生方もひと働きよろしくお願いしますぜ」
松吉が黒頭巾組にも戦闘を促す。

(さては駒三の野郎は今夜紅烏が現れると踏んで返り討ちを企んでやがったな。しかし町奉行をオトリに使うたあ黒河豚の駒三も食えねえ毒フグだぜ)

源三郎は駒三の冷徹な計算高さを知った。
幕府方の要人たちを抱き込み、他のやくざ共を圧倒する勢力を持った黒河豚一家にとって、もはや稼業の邪魔者は他でもない。
神の使いを任じて悪を退治して回っているという、目の前に居るこの紅烏なのだ。

(しかしこちらは総勢十六名の刃の林だぞ。この状況でどう戦うつもりだ?紅烏とやらは)

こちらの先頭に居た黒河豚一家の三人が長ドスを腰だめに構えながら、左右正面の三方から紅烏に突進した。
剣術の使い手に対するには、斬撃ではなく複数人による刺突が有効だ。
そして三人という人数は同時にひとりを攻撃する最適人数である。
二人の攻撃なら剣の手練れには躱される可能性があるし、四人以上では味方の身体が邪魔になるからだ。
三人同時の刺突なら、逃れることはほぼ不可能になる。
彼らは恐ろしく実戦慣れしている。

そのとき紅烏は独楽のようにくるりと身を回転させた。
丈の長い羽織が広がり翻る。
それはあたかも大きな烏が飛び回っているかのようであった。

(派手な野郎だな。まるで歌舞伎だ)

紅烏の舞いを舞うような動きが止むと、三人の刺客すべてが地面に突っ伏していた。

(なるほど、あの派手な羽織は伊達じゃねえようだ。三人の刺突は的が絞れず外されたんだ)

さらに一連の動きに惑わされている間に羽織の陰からの斬撃を喰らっている。

明らかに黒河豚一家の間には動揺が広がっていた。
さきほどの三人は彼らの中でも選りすぐりの侠客たちだったのだろう。
残りのやくざ共はすっかり腰が引けている。
あの蝮の松吉ですら、あんぐりと口を開けて立ち尽くしているのだ。

「赤心一刀流、坂上兵馬参る!」
ここで黒頭巾組のひとり坂上が名乗りを上げると同時に刀を抜き路上に進み出た。

(だめだそれじゃ。これは試合じゃねえんだ)

音も無く滑空するように紅烏の影が坂上を襲った。
身構える暇もなく影が通り過ぎると、そのまま坂上は地に倒れた。

「坂上っ!・・・おのれ紅烏。。」

組頭の佐藤平右衛門が叫んだ。
他の者たちも抜刀し身構える。
黒河豚一家のやくざ共のように怯んでいないあたり、さすがに腐っても武士の端くれたちである。
が、しかし・・・

(このままでは屍の山ができちまいそうだ)

「佐藤さん、私が行きます」

若い山村宗助が進み出ようとするのを源三郎は片手で制した。

江戸の悪を退治して回っているというだけあって、紅烏はたしかに尋常な腕前の剣客ではない。
剣の腕だけではなく特殊な戦術にも長けている。
道場剣術ではとても太刀打ちできないだろう。

「佐藤さん、ここは俺にやらせてくれ。神の使いかなんだか知らねえが、俺たちゃ外道とはいえ人間を大根みたいに切り刻むのは気に入らねえ」
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