三英傑の異世界天下統一記

鯨井汐

文字の大きさ
6 / 9
信長編

決着

しおりを挟む
この緊迫した空気、どこか似ている。戦が始まる前の空気に。

 依然として腰を落としマチェーテを下段に構えた状態で硬直しているトカゲもどき。

 これは自論だが、一騎討ちにおいて重要なのは初撃だと思う。初撃でどれだけ自分に流れを持ってこれるかが大事だ。

 だから見逃さない、微かな体の動き一つ一つを、相手が放つ殺気を。

 こちらも同じように腰を落とし、剣鉈けんなたを下段に構える。

 店の向かいにある屋台に陳列してあるアルミ缶がカランカランと音を立てて落下した。

 音に反応したのは両者ほぼ同時だった。

 勢いよく地面を蹴り、斬り上げを繰り出す。

 トカゲもどきも同じように地面を蹴り、マチェーテを勢いよく振り下ろす。

 手にずしりと重い感覚、今度は逆に弾かれれ、体勢を崩したところに腹に蹴りを食らう。

 石畳の上を3メートル程勢いよく転がる。

 呼吸ができず、空気を求めて喘あえぐ。

 やがてみぞおちの痛みも失せ、呼吸も可能になると、ヨロヨロと立ち上がる。

 若返った分、力が弱くなり、純粋なパワーで押されてしまう。

 起き上がった時には既にトカゲもどきは既に攻撃の態勢に入っていた。

 二度目の斬り下ろしを何とか受けるも、力が入らず、またもや飛ばされてしまう。

 今度は素早く立ち上がり、迎撃に備える。

 体格差のせいか、またもや瞬時に間合いを詰められ、横凪よこなぎが繰り出される。

 間一髪で身を屈めて躱し、懐に潜り込み、下腹部に横一閃――その時、背中に悪寒が走り、攻撃を中断し、瞬時に背後に飛び退く。

 すると、目の前をマチェーテの刀身が横切り、前髪を掠めた。

「ほう、勘のいいガキだ。あと少し反応が遅かったら今頃体にサヨナラしてたところだぜ」

 厄介な事にこのトカゲもどきは戦い慣れている。

 完全にペースを掴まれ、防戦一方だった。

 体格差が顕著に表れ、分が悪いどころではなかったが、ただひたすらに待ち続けた。

 ――反撃の機会を。

 攻撃を受ける度に体勢を崩され、こちらの攻撃は易々と防がれる上に、武器のリーチの都合上中々間合いに入れず、体力はみるみる奪われていく。

「最初防がれた時は正直ビビったが所詮はただのガキ、勝てるわけねぇんだよ」

 そう言い、横一閃されたマチェーテを何とか剣鉈で受けるも、吹き飛ばされ、ギャラリーの中に転がり込む。

 手を見ると、剣鉈をどこかに無くしてしまっていた。

 視界の端にトカゲもどきの下っ端の姿を確認すると、走り寄り、腰のマチェーテをひったくる。

 トカゲもどきの親分が歩み寄る。

「まだ生きてたのかよ。まぁいい、死ね――」

「兄貴、気を付けろ!」

 そんな下っ端の声に耳も傾けず振り下ろされたマチェーテを、体を捻り、回転しながら跳躍して躱し、回転を利用し、奪ったマチェーテを鞘から抜き、斬り付ける。

 回転しながら繰り出された刃は、トカゲもどきの咄嗟の反応もあり、胸の革製のベストを掠めるに留まった。

「粋なことしてくれるガキじゃねぇか……」

 後ろによろめきながら言った。

「この武器……似ている。これならいける!」

 そう思った瞬間、全身から力が湧いてきた。

 地面を踏み抜かんとばかりに蹴り、一瞬の内に距離を詰め、スピードと体重を最大限に乗せた斬り下ろしを繰り出す。

「このガキっ! 何だ? この力は――」

 体に届く寸前で防がれるも、上手く力を乗せられたお陰か、トカゲもどきは数歩後ろによろめく。

「「兄貴っ!」」

 連中が武器を構え、人ごみを掻き分けこちらへと走ってくる――

「くんじゃねぇオマエらっ! これは俺のまいた種だ。テメェのケツはテメェで拭けねぇでどうやってメンツ保つんだよ」

 意外にも連中の乱入を阻止したのは親玉だった。

「オレのツレが水差したな。さぁ、続けようぜ」

 トカゲもどきはそう言うと、改めて先程と同じようにマチェーテを下段に構えた。

 トカゲもどきに倣うようにマチェーテを下段に構える。

 数秒の空白の後、殆ど同じタイミングで地を蹴る。

 地を蹴り猛然と迫ってくる、何故かは知らないが、先程までと違ってとても遅く見える。動きの全てが分かる。

 剣と剣が衝突する度に金属音が通りに響いた。

 状況は五分五分だった。

 両者の体にはいなしきれなかった刃が幾つもの掠り傷を作った。

 何度目の衝突だっただろうか、これまでとは違った金属音が響いた。

 その音が響いた瞬間両者の動きは止まり、辺りは静まり返った。

 少しの沈黙の後、地面に欠けた刀身が落下した。トカゲもどきのものだった。

 勝敗が決した瞬間に起こった歓声で、通りやその周辺の建物が揺れた。

 剣を鞘にしまい、無くしてしまった剣鉈けんなたを探していると、トカゲもどきは少し驚いたような顔でこちらに問掛ける。

「殺さないのか? 」

「殺しはせん、お前との一騎打ち実によかったぞ」

 トカゲもどきは少し涙ぐみ、俯いたまま人混みを後にした。取り巻きたちもそれを追いかける形で去っていった。

「疲れたな……宿屋で体を休め――」

 体の疲労のせいか、視界が徐々に暗転し、抗う術もなく地面に倒れた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

処理中です...