異世界勇者の俺、厄災の魔王と呼ばれるお方のツノになったんだけど、いつの間にか魔王の実力を超えてました

もくめねたに

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第7話 ここから始まる俺の旅

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 まず最初に思ったのは、全身が痛いということだ。
 骨に杭を打ち込まれているような、ズキズキと主張してくる痛み。
 どうすることも出来ずに耐えるのみ。

 ──ビキビキッ

 なんだかこの痛みは経験したことがある。 
 多分これって······成長痛だと思う。


-----------------------------


「んっ······ふぅ」

 もう痛みは無いか確認するついでに、体を伸ばす。
 夜中の成長痛は何だったんだろう。
 めちゃくちゃ痛かったんですが。

「あれ、いない。どこ行ったんだろ」

 隣には魔王の姿がなかった。
 もう起きたのかな、珍しいこともあるもんだ。
 あの人ってお寝坊さんだから、1人じゃ起きらんないんだよね。
 いっつも誰かが起こしに来るんだ。
 でも、そんなところも可愛い。

「ん? え、待って······待ってよ、ねぇ!」

 今更気がついた。
 聞き慣れた、しかし、最近は聞くことも出すことも出来なかった声。
 合計20本の指に、スラリと伸びる手足。
 赤くも硬くもない、肌色の柔肌。
 視界に入ってくるサラサラの黒い髪が、楽しげに揺れた。
 ──俺、人間に戻ってる。

 
 情報を整理するのに5分くらい費やした。
 なにが引き金になったか知らんが、あのババアにかけられた魔法が解けたみたいだ。

 久しぶりに2本の足で立ち上がり、部屋にあった姿鏡を見てみる。
 素っ裸だが、容姿は何ら変わってない。
 世界が絶賛して涙した花守咲人のまんまだ。

 んー、なんだろ。戻れて嬉しい。
 嬉しいんだけど、ちょっとだけ寂しい。
 とりあえず、鏡の前で格好つけてても仕方がない。
 誰かを探すことにしよう。 

「魔お······魔王さーん? スカーレット?」 

 なんとなく、魔王と呼び捨てにするのは気が引けた。
 スカーレットは別にいいや、チビだし。
 うーん、隠れてるのかなぁと思って呼んでみたけど、やっぱり部屋の中には誰もいないみたい。

 ベットのシーツを腰に巻いて局部を隠してから、部屋を出る。
 シーンと静まり返った城内には、俺のペタペタという足音しか聞こえない。

 エルレイ姉さんの部屋に着いた。
 ゆっくりと扉を開けて中を確認······しかし、誰もいない。

 次はスカーレットの部屋だ。
 こっちは勢いよくバッと開いた。だけど、いない。

 ゴツメンさんの部屋は······いいや。

 怖いくらいに静かだ。いつもなら結構人がいるのに。
 いっそのこと大声でも出して、あっちから来てもらう作戦にしよう。

「お──……」

 あ、やばいかもしれない。
 もしも大声を出して、魔王軍の誰かが来たとしよう。
 その人は俺のことを見てどう思う?
 今の俺の姿はなんだ? そう、人間だよ。

 この姿を見て、誰が俺をアルステイだと思うんだ?
 絶対、100%人族の侵入者だと勘違いされる。
 そうなれば、有無を言わせずに殺されるかもしれない。

 せっかく人の姿になって喋れるようになったのに、魔王軍のみんなと話ができないのは辛い。
 けど······大好きな人たちに殺されるのは、もっと辛い。
 ならばここは、こっそりといなくなった方がいいんじゃないかなと思う。

 ············そうだ、ここを出て旅をしようかな。
 大陸をまわって、奴隷になった魔族の人たちを助けるのもいいな。
 うん、それがいい! そうするか!

 そうとなれば、必要なものが見えてくる。
 まずは貯蔵庫へ向かおう。
 そこで武器や服を調達だ。そうと決まれば即行動。

 サササッ、と移動を開始する。
 股間の辺りがとてつもなく爽快で気持ちいい。

 貯蔵庫に到着し、誰にも見られていないか確認してから扉を閉める。

 まずは服だな。
 下着は無さそうだし仕方ないか。
 というか、落ちてる下着なんて履きたくない。

 服はなんとかなりそうだ。
 あのマネキンからすべてひん剥いでやろう。
 少しブカブカだったのだが、この服も魔道具らしく、魔力を流し込んだら俺の体とピッタリのサイズになった。

 お次は防具だな──と言っても、あんまりガチャガチャした鎧みたいなのは着たくない。
 というわけで、結構派手な装飾が施された黒いローブだ。

 鑑定さんや、これも魔道具なのかえ?

 《それも魔道具だよ。防水防火なんだ。名前は『覇者の禁羽織』って言うの》

 このローブ名前やばくね? いや、いいんだけどさ。
 とりあえずこれで外には出られるかな。

 あとは武器を選ぼう。
 どれどれ、どんなものがあるんだー?
 ガサゴソと漁っていくと1本の剣を発見した。

「お、これいいじゃん!」 

 思わず声が出てしまった。
 でも、しょうがないよ。かっこいいんだもの。
 白い鉄鞘に金色の柄の剣だ。
 さぁて、刀身は何色なんだろうね。
 と、その前に、

 鑑定さん! これも魔道具的なやつ?

 《それは聖剣だよ。先代の勇者が持ってきたやつ。でも、勇者のすごーい呪いが掛かってるから、1度でも帯剣したらもう取れなくなっちゃう》

 危ねーな!
 ついうっかり腰に巻いちゃうところだったよ!
 外れなくなる呪いの剣とか、RPGのお約束みたいじゃん。
 勇者の呪いの剣はポイッ、と捨てて次を探す。

 お、これいいわ。
 俺の忘れかけてた中二病心をくすぐる剣を発見。
 さっきの聖剣とは真反対で、全体的に真っ黒な剣だ。
 装飾も派手でなくてなかなか好み。

 鑑定さん、これはこれは?

 《それは魔剣だね。魔剣を身につけている間は絶対に負けん・ ・ ・! えへへっ、なんちゃって》

 えぇぇ、なにこの子······すごく可愛いんですけど!
 うーん、そこまで言うなら武器はこれにしようかな。 
 とりあえず欲しかったものは一通り揃った。
 けど、これだけじゃ心もとないから、色々借りていくことにしよう。
 まずは前々から目を付けていた、
 これっ! 水が湧き出る革袋~!

 これは必須アイテムよね。
 でも、何かと嵩張かさばるな······。

 《あっちの方にアイテムバックがあるよ》

 俺の視界にピコンと矢印が出てきた。
 示している先に行くと、何の変哲もないバックパックがおいてある。
 ふむ、これか。
 ところで、アイテムバックってなんぞや?

 《見た目以上に物が入るんだよ。ここの部屋にある物なら、全部入っちゃうくらいかな。なんとなんと、重さは一切変わらないんだよー!》

 ほう、これぞ魔道具の中の魔道具って感じがする。
 どうせ魔王軍の人たちは魔道具なんて使わないだろうから、全部借りていこっと。
 いそいそと全部詰め込むと、貯蔵庫は裸のマネキンのみになった。

 その間にも鑑定さんに常に鑑定をしてもらっていたので、どれがどんな魔道具か教えて貰っていた。
 
 うっし! んじゃ、おさらばするか!
 バックパックから杖を取り出す。
 床に立てると、俺の胸あたりまである大きな杖だ。

 《これは転移の杖ポータルワンド
 1度でも行ったことのある場所なら、瞬間で移動することが出来るんだよ》

 との事だった。
 俺が行ったことのある場所なんて、大まかに2箇所しかない。
 けど、これから旅をするんだから、行く場所なんて増えてく一方だ。
 これで快適な旅ライフを満喫できる。

「我を届けよ、始まりの草原!」

 杖の石突を打ち鳴らし、行きたい場所を口にする。
 まずはババアに魔法を掛けられたあの草原だ。

 さぁ、ここから俺の旅の始まりだっ!!


-----------------------------



 明かりすらつけていない、闇が支配する部屋。
 その中に数十人の者達が、部屋の中央に置かれている水晶を覗いている。
 水晶に映るのは、魔道具をせっせとアイテムバックに詰め込む咲人の姿がそこにあった。

「いいんですか?」 

「なにがだよ、エルレイ」

 不機嫌そうに返事を返したのは、この世の厄災と言われる魔王ロストであった。
 豊満な胸を揺らしながら、魔王の耳元にエルレイは顔を寄せた。

「本当にいいんですか?」

「別にいいじゃねーか魔道具くらい。誰も使わないし、処理に困ってたろ?」

 度々持ち帰ってくるのはいいが、この魔王軍では誰も魔道具を使わない。
 なので、持っていく人がいないというわけであり、貯蔵庫に貯まる一方だった。

「アルステイ······」

 魔王の後ろに立つスカーレットは、水晶に映り出されているアルステイ──咲人を見詰めながら拳をグッと握った。
 その様子を見ていたガルブレイズは、スカーレットの小さな肩に手を置いて、わかっているとばかりに頷いた。

「やめろよ、お前ら?」

 魔王は2人のことを横目で見ていた。
 なにをし出すか分かりきっていた魔王は、先に牽制を含めて声をかけた。
 スカーレットは顔を伏せる。唇をキュッと結び耐えていた。
 しかし、我慢できずに喰ってかかった。

「だって······!!」

「──だってじゃねぇ。俺はやめろって言ったんだ」

 それ以上を何も言わせないように言葉を被せた。
 魔王もスカーレットの気持ちはわかる。
 痛いほどわかるが、今は動いてはいけない。

「魔王様、私だけでもアルステイのところへ行ってはダメでしょうか?」

「ああ、ダメだ」

「すぐに終わります。いえ、終わらせますので、どうか!」

 セバスは魔王に頭を垂れた。
 それに続いて、その場にいた者達はどんどんと頭を下げていく。
 そこかしこから「私もお願いします」という声が聞こえ始める。
 いつしか子供の駄々のようなそれは、大合唱のように大きくなる。

「······俺だって······俺だってなぁ······!」

 それを見ていた魔王は、耐えていた堰が切れたように口を開いた。
 その瞳には、涙を浮かべている。

「俺だって、アルステイにお別れ言いてーんだよ!
 でも今、アイツの前に行っちまったら別れづらくなっちゃうだろ! 色々言いたくなっちゃうだろ!
 温かくして寝ろよとか、風邪ひくなよとか、怪我すんなよとか、もう止まんなくなっちまうだろ!」

 ここにいた者達は全員がアルステイにお別れを言いたかった。
 しかし、それを魔王が許さなかった。
 今しがた言ったように別れが辛くなるからだ。
 だから遠視魔法を使って水晶を眺めていた。

 アルステイに掛けられていた魔法を解いたのは魔王だ。
 この場所に留まるのは、アルステイのためにはならないと思い、寝ている間に解いたのだ。

 そもそもアルステイが、人族の花守咲人だという事は周知だった。

 アルステイが鑑定を使えるように、魔王軍全員も使えるからだ。
 しかし、それでもなお、魔王軍の者達はアルステイを愛していた。

 他の種族から疎まれる存在の魔族であるのにも関わらず、アルステイは人族でありながら自分から寄り添い、近づいて来てくれた。
 常人はそんなことかと鼻で笑うかもしれない。

 しかし、魔族にとってはそれが何より嬉しかったことのだ。
 アルステイは本当に魔王軍から愛されていた。

「う······うぅぅ、アルステイっ! 外には悪い人が多いから気をつけるんだぞ!」

「腹を空かすなよ! いっぱい食べろ!」

「辛かったら戻ってきてもいいんだよ! 私達はみんなあなたの帰りを待ってるわ!」

「フレー、フレー! アルステイ! 頑張れ、頑
張れアルステイ!」

「アルステイの兄貴! 困ったことがあれば俺達に言ってくださいね!」

「······これからも······付いて···いきます!」

「わー、頑張ってねー!」

 それぞれが水晶に映り出されているアルステイに声をかける。
 それが聞こえていないと知っていてもら涙ながらに叫び続ける。

 やがてアルステイは、転移の杖ポータルワンドを床に立てて魔王城を後にした。

 涙を流し、鼻水を垂らす魔王はアルステイが映っていた水晶にガバッと抱き着いた。

「愛してるぜ、アルステイ! ············うわぁぁぁぁあん!!」

 そんな魔王の姿に魔王軍はみんなで笑い、みんなで泣いた。


-----------------------------



 テレビのチャンネルを変えたように、一瞬で目の前の景色が一変する。
 先ほどまで物がなくなって寂しげな部屋と化した貯蔵庫から、緑がいっぱいの草原へ移り変わった。

「おおおっ、すっげ。さすが異世界クオリティ!」

 この転移の杖を信じていなかったわけじゃないけど、体験してみるとマジですごい。
 シュンッ! シュパッ! って感じ。 

「さて、ここからどっちに向かおうかな?」

 一応、一本道の街道みたいな場所に来れたのはいいけど、どっちに進んだらいいんだろ。
 左右を見渡しても建物なんかは見えない。
 こういう時はあれだな。

 転移の杖をバックパック──アイテムバックに押し込み、魔剣を手にする。
 刃の方を地面に立てて、

「そぉれっ!」

 魔剣からパッと手を離すと、魔剣はグラリと倒れる。
 柄は右方向を示した。

「お、こっちね。ほいじゃ、出発進行ー!」

 こうやって適当に道を決められるのも、一人旅の醍醐味ってわけよ。
 バックパックを背負い直してから、てくてくと街道を歩いていく。

 あー、気持ちいいなぁ。やっぱり緑豊かな場所っていいよね。
 東京生まれ東京育ちのシティーボーイである俺にとって、緑豊かな場所はオアシスだよ。
 ましてや静かだし最高──あ、やべっ。こういうこと言うと······

 ガサガサッ!

 ほらなー、近くの茂みが激しく動いちゃった。
 風なんて吹いていないのに、草むらが勝手に動くわけがない。

 くっそ、フラグ立てちまった。
 なんだ、なにが出てくるんだ?
 魔剣に手をかけて身構えていると、草むらからソイツはやってきた。 

「メェー」

「なんだ、ヤギかよ」

 いや、待てよ?
 もしかしたら、コイツは魔物とやらかもしれない。
 そうだよ、変身かなにかしてるに違いない! 
 カモン! 鑑定さん!


野生のヤギ
Lv1
スキル:
特殊:
称号:
鑑定ちゃんからのワンポイントアドバイス:ただのヤギだよ


 ふ、ふふふ······恥ずかしい。
 ただのヤギですってよ。

「ったく、驚かすんじゃねーよ。しっ、しっ!」

 手でヤギを追い払うと、「メェー」と悲しそうに鳴きながら草むらに戻っていった。
 運のいいやつだ。
 鑑定さんのおかげで命拾いしやがって。
 うっかりビビってバトっちゃうところだったわ。
 それにしても、野生のヤギでも鑑定できるんだ。

 《もちろんだよ》

 俺が問いかけてないのに、鑑定さんから話しかけてくるの多いよね。
 いや、話す人いないしいいけどね?
 そういえば、自分自身も鑑定することってできるの?

 《できるよ? やってみる?》

 やるやる! 今の俺がどんなもんか見てみたい!


名前:花守咲人 アルステイ・フォン・ゼレアサーガ
性別:男
年齢:17
レベル:1
種族:人族
スキル:〈鑑定Lv1〉〈黒魔法Lv1〉〈剣術Lv3〉〈短剣術Lv1〉〈槍術Lv2〉〈格闘術Lv1〉〈身体強化Lv1〉〈気配Lv1〉〈探知Lv1〉〈恐怖耐性Lv6〉〈毒耐性Lv1〉
特殊:〈???〉〈???〉
称号:魔王の角、反逆の勇者ブレイブビトレイアー


 アルステイの方、名前長いな。
 多分だけど、魔王の家名も混じってるだろ。
 というか、称号が魔王の角って······。

 スキルなんかは結構充実してるかもしれない。
 ブーデルなんかは黒魔法しか持ってなかったし。

 ちなみに、この特殊ってなに?
 なんかクエスチョンマークになってるんだけど。

 《これはスキルとは別の特殊ユニークスキルっていうものだよ。
 普通のスキルが後天的、つまり努力次第で取得できるかもしれないもの。
 特殊ユニークスキルは先天的で、生まれた瞬間から持っているスキルだね。
 クエスチョンマークになってるのは、今の鑑定Lvじゃあ見れないんだよ。だから頑張ってLv上げてね》

 クソ神から貰った余り物って、特殊のことかな。
 少し気になるけど、鑑定さんのLv上げてくしか見る方法は無いのか。
 まあ、クソ神が渡してきたものだ。
 この特殊ってのも、どうせクソなんだろう。

 さて、聞きたいことは済んだし、近くの人がいるところまで出発ー!

 《出発ー!》

 ······あの、やっぱり少し黙っててください。

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