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第3章 学園の日常

寮母さん捜索任務

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 教室で解散した後、ラスマとプッカとパールと共に寮へ向かう。
 パールは父親が学園長なので、王都に家はあるらしいのだが、寮で寝泊りするらしい。
 なぜ、家からではなく寮生活をするのか聞くと、

「父と母が寮に泊まれば、友達が出来やすいって言ってたからなんだよね。確かに、家にいるより寮の方が楽しそうだしね」

 との事だった。
 やはり両親は、パールに友達が少ない事を気にかけていたのか。
 まあ、原因はその父親なんだけど。

 他愛もない話をしながら寮へ向かっていると、3階建ての建物が見えてくる。
 少し古ぼけたアパートをコの字にした建造物。
 これから在学中の間、お世話になる男子寮だ。

 少し離れた所に、同じ建物がもう1つあるらしい。
 そっちは女子寮であり、男子禁制の花園と言われている。

 許可なく近づいただけで、女子からリンチと罵声、運が悪ければ暴力まで被るらしいので注意が必要だ。
 一部の男子からしたら御褒美である。
 もちろん、俺にはそんな性癖はないので近づくことはないだろう。

 遠くから学園へ来たという生徒は少ないらしく、全校生徒の3分の1くらいがここで寝泊りしているという。
 なので、学年は関係なく部屋が割り当てられる。
 割り当てをしてくれるのは、住み込みで働いている寮母なので探さなければならない。

「すいませーん! 寮母さんってどこにいますか!」
「多分、この時間だと女子寮で掃除してるんじゃないかな? 結構時間かかると思うよ」 

 たまたま出歩いていた寮生はそう答えた。

「どうしましょうか」
「あ、キーナちゃん達は? 女の子に頼めば呼んできてもらえるかもしれないよね」
「いや、アイツら生活用品を買いに行ったから、商業エリアだと思うぜ」
「あっ……」

 女子メンバーは頼れない。
 これからどうしたものかと唸っていると、ラスマが閃いたかのように目を開く。
 そして、俺の肩に手を乗せた。

「クルル······」
「はい? どうしました?」

 いきなりなんだというのだ。
 ラスマは何か言いたそうな顔をしているが、これは察してくれという事なのか? 
 意味が分からず首を傾けていると、決意が固まったのか口を開いた。

「行ってきてくれ! お前ならぜっっったいバレないから!」
「おお! ラスマにしては珍しく頭使ったな!」
「うんうん、クルル君って凄くかわいいよね。男って言わなきゃ全校生徒が騙されるレベルだよ」

 ························

 ···············

 え? コイツらなに言ってんの?。
 確かに、最初から男だと分かってもらえたのはパメラのみだが、流石にバレるんじゃないだろうか。

 でも、いつまで経っても寮母は来ない。
 ここにいてもやる事も無い。やはり行くしかないのか?
 コイツらの本気で懇願している目を見てると、断りずらくてしょうがない。

「はぁ······わかりました。僕が行きますからその目、やめてください」
「よっし! お前なら行ける!」
「じゃあ早速着替えた方がいいね。制服で男ってバレちゃうからね」

 ということで、物陰にてお着替えタイム。
 制服を脱ぎ、俺が所持していたシャツに、無地の毛布をパールがササッと縫ってスカートにした。
 仕上げに、髪を高めの位置で二つ結びをして終了だ。

 俺の意思とは裏腹に、ツインテールはひょこひょこと楽しそうに揺れる。
 ······どうしてこうなった。

「マジ可愛いな、お前」
「やべぇ、結婚してくれ。いや、結婚してください」
「ド、ドキドキするね」
「…………」

 泣きたくなるから、それ以上は言わないでください。
 荷物はラスマ達に預かってもらい、女子寮へ向かうことにする。

「それじゃあ行ってくるので、待っててください」
「「「ご武運をっ!」」」

 やめて、大声を出さないで。
 みんながこっちを向いちゃうから。視線を集めちゃうから。 


 こそこそと物陰に隠れながら進んでいく。
 運良く、誰にも会うことなくに到着した。

 男子と女子で格差があるのか分からないが、女子寮はとても綺麗である。
 男子寮は若干のボロアパートのような感じに対して、女子寮はちょっとした三階建てのマンションのよう。

 白亜の壁に、片流れに設計された屋根が異世界とは思わせないような作りになっている。
 コの字の3辺に囲まれた部分にはテラスのように丸
机や椅子が置かれていて、ずいぶんと洒落た感じだ。

 だいたいの作りは同じだが、少し変えればこんなに違うのか。

 そんな女子寮の階段を目指して歩いていると、複数の女生徒達の笑い声が聞こえてきた。

 どうやら声の発信源はテラスからだった。
 気づかれないように建物の影から覗くと、机を囲んで談笑している3人がいた。

 さて、ここからどうするか。
 パッと見た感じでは、寮母の姿は無い。
 そうなれば誰かに聞くのが手っ取り早いのだろうが······リスクが高い。

「あの······どうしました?」
「──っ!」

 まずい、背後を取られた。
 考える方に集中し過ぎ、4人目の存在に気が付かなかった。
 どうすれば乗り切れられる。考えろ、考えるんだ。

 ······殺すか? この女を殺した方が早いか?
 いや、さすがにそれは短絡的すぎる。
 苦肉の策だが、ここは女子になりきってやり過ごそう。

「あ、こんにちわぁ。えへへへ──へ?」

 見たことがあるその顔に、俺の渾身の笑みが引きつった。

「も、もしかして白狼様ですか!? こんな所で何を?」

 ……校門前で受付してくれた女だった。
 この女生徒も寮生なのか。
 バレたなら仕方ない······やはり殺るしかないのか。
 苦しませず殺してやるから安心しろ。

「ままま、待ってください! じ、事情だけでも!」

 無言で構えると怯えだした受付の女。
 これから殺すのだし、事情くらい言っても大丈夫か。

「寮母さんを探しに来ました」
「え? 寮母さんを?」

 コクリと頷くと、女は吹き出して笑みをこぼした。

 何がおかしいんだ? これは真剣な戦いだ。
 社会的に俺が死ぬか、物理的に女が死ぬかどうかの勝負。
 入学初日から晒し者なんて真っ平御免だ。

「それならそうと、最初から言ってくださいよ。急に構えるから驚きましたよ。じゃあ、私と一緒に寮母さん探しましょう?」
「でも、許可なく女子寮へ近づくと、とんでもない目に合うんじゃないんですか?」
「それなら大丈夫ですよ! 私、生徒会なので何とかなりますっ! ······って、まだ下っ端ですけどね」

 テヘッ、と可愛らしく舌を出した。
 この学園にも生徒会というものがあるのか。
 彼女の言葉が本当ならば、付いて行っても大丈夫な気がしてきた。

「あと、その髪色なら多分バレますよ?」

 白髪って珍しいんでした······。
 よし、付いていこう。ここまて来たら、もうどうにでもなれ。

「よろしくお願いします」
「はい、こちらこそ! というか白狼様、めちゃくちゃ可愛いですね!」

 あまりこちらを見ないでほしい。
 ツインテールを解いたが、格好はどうにもできなかった。
 白いシャツにロングスカート、という格好で生徒会の下っ端を名乗る女生徒に付いていく。

 女の隣を歩き、堂々とテラスを横切る。
 すると、さっき喋っていた3人がこちらにやってきた。

「どうしたのメイリア? その子は?」
「あ、うん。男子寮から寮母さん探しに来たんだって」
「ってことはその子、男なの?」

 どうやら受付の女は、メイリアというらしい。
 下手に嘘をつくよりも、正直に言った方が良いと判断したようだ。
 男子寮から来たという旨を伝えると、3人は俺を注視する。

「信じらんない! お人形さんみたい!」
「本当に男の子なの? ちゃんと付いてるもん付いてる?」
「·········可愛い」

 名誉のために言っておくが、ちゃんと付いてます。
 とりあえず変な奴は無視だ。
 早く行こうという催促の視線をメイリアに送ると、察してくれたのか話を切り上げた。

「そういう事だからちょっと行ってくるね」
「わかったー。キミ、今度お話しようね!」
「ねえ、付いてるの? 本当に付いてる?」
「······男の娘」

 真ん中の女しつこい、あと男の娘言うな。

「ね? 私がいれば大丈夫でしょう?」

 若干ドヤ顔がムカツクが、大丈夫だったのは確かなので言い返せない。
 今度こそ建物の中に入って寮母を探す。
 あ、そういえば寮母がどんな人かも知らずに探しに 来てた。

「寮母さんって、どんな人なんですか?」
「う、うーん、なんて言ったらいいんですかね。······あ、強そうで優しい人?」

 強そうで優しいとは、姐御肌みたいな感じなのだろうか。
 見た目のことを聞いたつもりだったが、内面の話をされてしまった。


 廊下を突き進み、角を曲がると肌が粟立った。
 ······なんだ、この慣れ親しんだ空気感は。

「あ、寮母さーん!」
「はぁーい! 今行くわーん!」

 真っ直ぐ伸びる廊下の奥に人影がある。
 箒で床を掃いているのか、黒光りする太い両腕を動かしている。

 こちらへ向く寮母は服の上からでも胸板が分厚いということがわかる。
 触らずにも、その雰囲気だけで鉄板のような固さなのだろうと容易に想像できる。

 丈の短いTシャツを着用し、引き締まったウエストからチラチラと腹斜筋が浮かび上がる。
 加えて、競輪の選手のように大きく膨らむ大腿四頭筋。
 そんな筋肉の権化のような、2m近い巨体が近付いてくる。
 自然と生唾を飲み込んでしまった。

「どーしたのメイリアちゃん? あらん? おん──いえ、男の子ね?」
「あ、そうです。寮母さんを探しに来たそうなんですよ」
「それはすまなかったわねん! それじゃ行きましょうか、可愛い新入生ちゃん!」
「············」

 こんな所にも『漢の娘』がいるなんて思ってもみなかった······。
 やっと開放されたと思ったら、再び現れやがって。
 俺はオネエの呪いにでもかかっているのか!?


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「ば、化け物! クルルを返せ!!」
「いや、あれは新種の魔物かもしれねーぞ!」

 寮母を連れて男子寮に帰ると、ラスマとプッカはそんなことを口にしてしまった。
 有無を言わさず、落雷の如き拳が脳天目掛けて振り下ろされた。
 撃沈させられた2人に、苦笑いするしかないパールであった。


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