貴族が通う学院に通う平民は、平穏な学院生活を送りたい

第1章 貴族は平民を貶めたいようです

第6話 殺人未遂事件

「なんで拘束されなきゃいけないの!?」

　周りを囲まれたハルクが声を上げる。
　ハルクには何かをやらかした記憶が無いのだ。

「王女様、今すぐそこを離れてください！」
「レイシア様！　そんなどこの虫か分からない者と一緒にいるのは危険です！」

　周りの生徒達が声を上げる。

「ハルクくん……私はハルクくんを信用していいのかな？」
「俺に聞くこと？」
「そうだよね……じゃあ、信じるね」

　レイシアがそう言った瞬間、周りの生徒達の顔色が変わった。
　学院長が拘束しろと言った生徒は大抵、何か良くないことをしでかした生徒なのだ。
　拘束対象になっているハルクの近くに王女がいる事を危険だと判断するのは当然だろう。

「王女様！　危険です！」
「私、貴方達が思ってるよりも強いわよ。そんなに心配してくれなくても平気よ」

　レイシアのその言葉に周りの生徒達が黙り込む。
　この言葉に言い返せば、王女は弱いと馬鹿にしたと捉えられかねないと考えたからだ。

　ちなみに、王族に無礼な行為をした場合、不敬罪に処されることもある。最悪の場合、極刑に処される。

「ここにハルク・グランシードを見かけた者はいないかね？」

　そんな声が聞こえた瞬間、周りの生徒達が揃って声を上げた。

「「ここにいます！」」

　その声を聞いた学院長がハルクに近づく。
　そして、レイシアの姿を目にした瞬間、銅像のように固まった。

「学院長、なぜ僕は拘束されなければならないのですか？」

　ハルクの問いに学院長の体が再び動く。

「ルイクさん、理由を教えてください」

　そう問われたルイク学院長が答えにならない答えを返す。

「そんな事、彼に聞けば分かりますよ。ついさっきの事ですから」
「私は朝からほとんど一緒に行動していたのですが、彼が悪事を働くところは見ていません。貴方は、私の目が節穴だと言いたいのですか？」
「いえ、決してそのようなことは……」
「では、なぜ彼を拘束するのですか？」

　レイシアの再びの問いに、学院長はしばらく考え込むと口を開いた。

「彼はが時計搭から女子生徒を突き落として殺そうとしたとシャルア・ゼリシアの報告があったからです」
「は？」
「え？」

　学院長の根も葉もない言葉にハルクとレイシアが思わず声を漏らす。

「ハルクくんはその時、時計搭の真下にいて、落ちてきた女子生徒を庇って死にかけていたんですよ！　それなのに、貴方は……」

　レイシアがそう声を上げる。

「そうでしたか。申し訳ありませんでした」

　レイシアの声にたじろいだ学院長がハルクとレイシアに頭を下げた。

「私は警邏けいら庁に報告して参りますので、これで失礼させていただきます」

　そう言って学院長はその場を後にした。
　それから五分と経たないうちにハルクを拘束する命令を解除する放送が流れた。

　……。
　…………。

（クソッ！　なんで王女があいつとずっといるんだよ！）

　振り下ろした足で廊下をミシミシと軋ませながら次の教室に入ったシャルアは乱暴に席につく。

（なんでアイツの良いようになるんだよ!?　チクショオオオオォォ！）

　今度は、強い圧力を受けた歯が音にならない悲鳴を上げる。
　怒りを堪えるためにギリギリと歯を痛めつけていく。

『失敗したようですね』

　不意に、通信晶石が鳴った。

「ああ……王女がアイツと一緒にいたからな……」
『では、その王女を始末すればよろしいのですね？』
「出来るのか？」
『ええ、もちろん』
「頼む……」

　その言葉の後、通信が終了した。

　……。

「なんか、シャルアのやつ無駄に静かだな？」

　授業が始まる五分前、ハルクがレイシアとシルフィにそんな事を問いかけた。

「学院長に例の報告をしたのは彼っていう噂よ」
「それで罪悪感を感じたのかな？」
「いや、ないな。多分、俺を嵌はめようとしてるんだろ」

　重い空気が三人の間を流れる。

「なんとなくだけどね……私、彼の恨みを買った気がするの……」
「マジかよ……ヤバイな……」
「ど、どうしよう」

　レイシアの言葉にハルクとシルフィが顔を青くして冷や汗を浮かべていた。
　彼女のこの勘はよく当たるから。