貴族が通う学院に通う平民は、平穏な学院生活を送りたい

秋月 史明

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第1章 貴族は平民を貶めたいようです

第5話 仕組まれた事件

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 昼休みで生徒達が行き交う中庭を、食堂に向かうハルクは俯くレイシアと時計搭のそばを通りすぎていた。

「レイシア、いい加減に元気出せよ? さっきのは大事に至らなかったんだしさ」
「でも……ハルクくんがあの時剣を逸らしてくれなかったら……」

 レイシアがそう漏らした時だった。

「きゃああああぁぁぁぁぁぁ――ッ!」

 中庭に悲鳴が響いた。

「上よ!」

 レイシアが焦りをあらわにした声を上げる。

「……《風よッ!》ぐあっ!?」

 レイシアの声で上を見たハルクは一瞬固まった。真上から落ちてくる見知らぬ女子生徒を見て。
 そして、すぐに風の魔術で女子生徒の落下速度を落とそうとした。

 だが、落下速度は落ちたものの、ハルクは女子生徒の下敷きになってしまった。

「ハルクくんっ!」
「ゴフッ……俺は大丈夫だ……」

 ハルクが口の端から血を伝らせながらそう口にする。
 どう見ても、大丈夫じゃない。

 落ちてきた女子生徒は、ハルクをクッションにしたとはいえ、足の骨を折っていた。

「誰か法医の先生を呼んでっ!」

 レイシアのその声に中庭に居合わせた一部の生徒達がハルク達を助けようと駆け寄る。

「大丈夫か!?」
「大丈夫……ごふっ」

 ハルクがそんな事を言いながら喀血かっけつした。
 どう見ても大丈夫じゃない。それに、かなり酷い怪我だ。

 周りの生徒達がこの緊急事態に顔を青くする。

「レイシア……治癒魔術を頼む……」
「うん。触るよ?」
「たのむ……ごふっ」

 かなり派手にハルクが喀血した。
 目の前にいたレイシアの服が赤く染まる。

 それを見た者がさらに青くなる。
 もちろん、ハルクがレイシアの服を汚した事を罵る者はいない。
 そして、レイシアも服が血に染まった事を気にする素振りを見せずに、慌ててハルクの胸に手をあてる。
 そして、 レイシアが治癒魔術の【ヒールライト・プロフリカバー】の呪文を唱え始めた。

「《癒しの光よ……」

 レイシアの手のひらに淡く光る魔方陣が現れる。

「……我のマナに応じて……」

 その魔方陣の外側に新たな魔方陣が現れる。

「……大いなる癒しを》」

 そして、三節目の詠唱を終えると外周が現れて、三層になった魔法陣が光ながら回転を始める。
 同時にハルクの体が淡い光に包まれる。

「ありがとう。マジで痛かったから助かった」

 魔法陣が消え、完全に傷が癒えたハルクがそんな事を口にする。

 同じ頃、落ちてきた女子生徒が担架で運ばれていった。

「本当に失敗しなくてよかったよ……ハルクくん、死にそうだったんだから」
「そうか? ちょっと目眩がして、体に力が入らなくなって、息が苦しくなっただけだけど?」

 どう考えても大丈夫ではないハルクの言葉にその場の者が言葉を失う。

「それ、全然大丈夫じゃないからね! 心配だから今すぐに医務室に行ってきて!」
「あー、はいはい」
「やっぱり、私も一緒に行くわ。ハルクくん、行く気無さそうだから」

 そんなんで、ハルクはレイシアに医務室へと連行されていった。

   * * *

「た、大変です!」

 学院長室に赤い髪の少年の声が響く。

「シャルアくん、何があったんだ?」
「ハルク・グランシードが時計搭から女子生徒を突き落としました!」

 学院長が書類に走らせていた羽ペンの動きが止まる。

「君はその女子生徒の手当をしたのかね?」
「いえ、他の生徒達が手当をしていたので、犯人に逃げられないように早急に報告すべきだと考えましたので……」

 中庭の様子を知らない学院長には、シャルアが言っていることが正しく聞こえていた。

「ふむ。ならば、校内伝令で彼の居場所を探るとしよう」

 学院長はそう言いながら送伝器を取り出した。

   * * *

『学院長より各講師・生徒諸君へ。ハルク・グランシードを見つけた者はあらゆる手段を講じて彼を確保せよ』

 医務室で法医の先生による検査を終えて食堂にいたハルクとレイシアはそんな放送を耳にした。
 ちなみに、ここには他の生徒達も大勢いる。
 そして……

「こいつがハルク・グランシードだ! 捕まえろ!」

 誰かが声を上げると周りの生徒達がハルクとレイシアを囲い始めた。
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