貴族が通う学院に通う平民は、平穏な学院生活を送りたい

秋月 史明

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第1章 貴族は平民を貶めたいようです

第4話 殺人計画

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「ハルクさん! 大丈夫ですか!?」
「着替えを用意してくるからちょっと待ってろ」

 二組の生徒達によって教室に連れ戻されたハルクに声がかけられる。

「これくらい、すぐに乾かせるからいいよ」

 その声に、着替えを用意するために教室を飛び出そうとしていた男子生徒の動きが止まる。

「《炎の壁よ》《緩やかな風よ》」

 ハルクが【ファイア・ウォール】と【ソフト・ブレイズ】を同時に起動した。
 温風がハルクの身体を包む。

 そして一分後、完全にハルクの服が乾いていた。

「じゃあ、僕はこれで失礼させていただくよ」
「また明日~~」
「アイツに殺られるなよ!」

 背中にそんな声を受けながらハルクは教室を後にする。
 そして、他の生徒達も教室を後にした。

   * * *

「貴方、ハルク・グランシードを社会的に殺したくありませんか?」
「あぁ? お前、誰だ?」

 後ろから迫ってきていた黒い外套をかぶった女に声をかけられたシャルアがそう返す。

「私はエリアナですわ」

 女はそう淑女の礼をする。

「エリアナさん、俺に何の用だ?」
「ハルク・グランシードの仕業に見せて、シルフィ・クリネアルを誘拐していただけませんこと?」

 シルフィは魔導公爵家の長女というだけあって、魔術にかなり長けている。
 学院に裏口入学したシャルアに勝てる相手では無い。

「俺は彼女に勝てない。他をあたってくれ」
「そうですか。ならば、彼女を殺していただけないかしら?」

 エリアナが写真をシャルアに見せながらそう口にする。

「ただで、とは言わないよな?」
「もちろんですわ。金貨百枚でどうですか?」
「せめて、二百だな」
「いいですわ」
「なら、交渉成立だ」
「これから、貴方に必要な道具を渡すわ。ついてきて」

 二人は、夕暮れの闇市の影へと消えていった。

   * * *

 翌日、事件は起きた。
 ハルクの目の前で。

「はぁっ!」
「……!」
「避けてっ!」

 剣術の授業で、レイシアの本気の突きがシルフィに迫る。
 だが、シルフィは大振りを外したばかりでレイシアの攻撃を防げない。
 このままだと、シルフィの胸をレイシアの剣が貫いてしまう。

「――ッ!」

 ハルクが剣を振りかざす。
 直後、乾いた金属音が響いた。
 そして、レイシアの目の前でシルフィが血をほとばしらせた。

「うぐっ……」
「シルフィっ!」

 シルフィの苦悶の声と、レイシアの悲痛な叫びが剣術訓練所に響く。

 レイシアの金属製の模造剣がシルフィの肩口を貫いてしまったのだ。
 刃を落としてある剣を使っているとはいえ、体重をのせて放たれた一撃は容易たやすくシルフィの肩を貫いていた。

「早く応急手当をするぞ! 全員、練習はやめて手伝え!」

 駆けつけた担当講師が即座に指示を飛ばす。
 ハルクがそばに置いておいた汗拭き用のタオル(未使用)を手にとって、シルフィの服の中に手を入れる。

「レイシア! シルフィの服を脱がせてくれ」
「わ、私……」

 ハルクがレイシアに指示を飛ばすも、レイシアは混乱に陥っていて何も出来なさそうだった。

躊躇ためらわないで……」

 シルフィがハルクにそう告げる。
 それを聞いたハルクはすぐにシルフィの服のボタンを外して傷口をあらわにした。
 シルフィの下着も露になってしまったが、この場で余計な事を思い浮かべる者はいない。

「《光よ・かの者の傷を・塞ぎたまえ》」

 ハルクがシルフィの傷口に手をあてながら呪文を唱える。
 それから数秒で傷口から血が流れ出なくなった。

 今、ハルクが使った魔術は傷口を簡易的に塞ぐだけだ。だから、傷口が開いてしまう事がよくある。。
 だから、ハルクはシルフィの傷口をタオル越しにおさえる。これによって、傷口が開いてしまうのを防ぐ。

 大怪我をした時の基本的な対処法だ。

「これを使ってくださいまし」

 女子生徒が自信が羽織っていた上着をシルフィの胸の上にかける。

「ありがとう……」
「先生、担架です」
「君、手伝え」
「はい!」

 ハルクと担当講師と担架を運んできた男子生徒がシルフィの身体の下に手を入れる。

「いくぞ。一、二、三!」

 担当講師の掛け声と共にシルフィが担架にのせられた。
 同じ頃、レイシアが混乱から脱した。

「シルフィ……ごめんね……」

 もし、ハルクがレイシアの剣の軌道を逸らしていなければ、どうなっていたかは分からない。
 そんな事を考えていたレイシアの目には涙が浮かんでいた。

 ……。

「私の事は気にしないで」
「でも……」
「レイシアが体調を崩したら私が悲しむのよ?」

 ベッドで横になるシルフィがそう言う。

「本当にごめんね……」
「これくらい大したことないわよ。だから、お昼ごはん、気にしないで食べてきて?」
「うん……ありがとう」
「お大事に」

 レイシアとハルクはそう口にして医務室を後にした。
 授業の終わりを告げる鐘が鳴ってから三分が過ぎていた。

 同じ頃――

(いけねっ、ハルクにこの紙渡すの忘れてた。後からバレると面倒だし、捨てよう)

 そんな事を考えた二組の担当講師が封筒をゴミ箱に放るのを見たものはいなかった。

 その封筒の中には『午前の授業が終わり次第、中庭時計搭に来るように』と学院長の名で書かれた紙が入っていた。
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