貴族が通う学院に通う平民は、平穏な学院生活を送りたい

秋月 史明

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第1章 貴族は平民を貶めたいようです

第3話 平民の仲間

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 ここ、王立ハストル学院学院では、朝礼と最後の授業の後のクラス会を除いて、授業は全て担当講師の教室で受けることになっている。

 授業開始から九十分が経ち、授業の終わりを告げる鐘が鳴ってから生徒達が教室を後にして自分のクラスの教室に向かっていた。

 そして、巨大なたんこぶが脳天に出来ているハルクも例外ではなかった。
 その両脇に、シルフィとレイシアがいるものだから、周りの生徒達はハルクが先の無礼の罰を受けるものだと思っていた。

「シルフィ、本気でとは言ったけど……身体能力強化の魔術まで使うなんて、お前、頭おかしいんじゃねえの?」

 そんな絶望的状況でこんなことを言うものだから、周りの者は自然と静かになってしまう。

「私は友人の頼みを誠実に実行しただけよ?」

 シルフィがそう口にした瞬間、周りの生徒達が目を見張る。
 シルフィはハルクを友人だと言ったのだ。

「誠実過ぎだろ!? 俺の頭が割れたらどうする!?」
「シルフィ……さっきのは流石にやり過ぎだよ?」
「……次から気を付けるわ」

 同じ頃、赤い髪の少年が頭を抱えていた。

(くそっ! 平民に成り下がったあんなやつがシルフィ・クリネアルの友人だと!? どんな手を使ってもアイツを潰す!)

 シャルアの頭の中を知る者はいない。

「なぁ、さっきのピッカリ先生の授業、眠くなかったか?」

 シャルアが足音を立てながら向かって来ているのを気にも留めないハルクがそんな事を口にする。

「ピッカリ先生って、ヘリアル・イネリア先生の事?」
「ああ」
「正体不明の催眠術はあの先生の専売特許だから仕方ないわよ」

 シルフィとハルクが会話を交わす横で、窓から差し込む光を反射して輝く者がいた。

「本人の前で言うのはどうかと思うよ?」

 レイシアが気まずそうにそう言う。
 その言葉を聞いたハルク達がレイシアの視線を追う。

 そこには、前髪から頭頂部にかけての毛根が死滅し、陽の光を反射する初老の男性がいた。

「「あ……」」

 ハルクとシルフィの言葉が重なる。

「今更気にしないから、早くいきなさい」
「ありがとうございます」
「申し訳ありませんでした!」

 ハルクが礼を言い、シルフィが謝罪した。

「寛大なご処置、ありがとうございます」

 レイシアがそう口にしながら頭を下げる。

「だから、気にしないでくれたまえ。さらばっ」

 ヘリアル・イネリアピッカリ先生は白いマントを翻しながらその場を去った。

 ……。

「今日は、剣術競技祭についてだ。国王陛下がお見えになる大事な式典だから、心して決めるように。あとは任せたぞ、シルフィ」

 ハルク達のクラス担任がそう口にして机に突っ伏した。
 そして……

「俺は眠いから寝る……」

 なんかとんでもない事をぼやいた。
 だが、生徒達は冷静だった。
 冷静に各々が手に何かを持った。

 そして――

「一騎討ち戦は……成績から……」

 全身ズタボロになった二組の担任講師が目を擦りながら生徒達の出場種目を決めていた。

 同じ頃、一組のシャルアは興奮していた。

(アイツを社会的に殺せる……ふふふふ……うはははは……)

 一人でにやけている彼は、一言に周りの者から見たら不気味だった。

 そして、何も問題は起こらずにクラス会は幕を閉じた。

「はぁ~~俺は平穏に暮らしたいだけなのに、何で邪魔が入るかなぁ?」

 教室を出た瞬間、全身ずぶ濡れになったハルクが横にいるシャルアを見ながらそう呟いた。

「平民にはその格好がお似合いだ。お前らもそう思うだろ!?」

 シャルアが空のバケツを持って二組の生徒達にそう声を上げた。

 ハルクは悪い噂ばかり流れているから、ハルクに非難の声が浴びせられる。シャルアはそう思っていた。
 だが、実際はそんなことにはならなかった。

「貴方、わたくし達の教室を汚さないでくださいまし!」
「敵の貴方を擁護するなんて無粋な真似、僕たちはしませんよ」
「早く掃除して帰ってください!」

 非難の的になったのはシャルアだった。二組の生徒たちはハルクを良く思っている上に、剣術競技祭を共に戦う仲間だ。ハルクが非難の的になることはあり得ない。
 結果……

「ふざけるな! 貴様らはこの無能の平民を擁護するのか!?」
「あら、私たち二組で一番優秀なハルク殿を馬鹿にするとは……来週の試験の結果が楽しみですわ」

 女子生徒がそんな挑発的な事を口にする。

「くそっ!」

 バキィンッ!

 シャルアが声を上げて、ドアを蹴り壊した。
 そして、そのままドカドカと足音を立てながらその場を去った。

 後に、シャルアは学院の設備を破壊したとして、始末書を書く羽目になるのだが、今の彼はそれを知らない。
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