魔女達に愛を

リーゼスリエ

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ソレイユ編③襲撃

作戦崩壊

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アウレリアは静かに椅子に腰掛けていた。

ソレイユの街を掌握してから、もう何年になるだろうか。
この街の太陽は、彼女の掌の上にある。誰一人、逆らえる者などいない。

だが――今日の空気は、何かが違っていた。

「……遅い」

アウレリアは、眉をわずかに動かした。

生命を奪う魔女・ダリア、不安を増長させる魔女・リーベル。
作戦の要である二人が、時間通りに連絡をよこさないなど、今までになかった。

「まさか……」

静かに立ち上がったその時だった。

――ドォン!!

爆音と共に、拠点の大扉が破壊された。

一陣の風が吹き抜ける。

埃が舞い上がる中、現れたのは――

カテリーナとエルネアだった。

「……やっぱりここだったか」

カテリーナが黒衣を翻しながら歩を進める。

エルネアは淡々とした表情で呟いた。

「ダリアとリーベルは倒された。アウレリア、次はあなたね」

「……ふぅん」

アウレリアは、微笑んだ。

その表情に、焦りはなかった。むしろ――

「……笑ってる?」

カテリーナが眉をひそめた。

「当然でしょう?」

アウレリアは、椅子の背にもたれ、足を組んだ。

「あなた達がここまで来たことは、私にとっても都合がいいのよ」

「どういう意味よ」

「私は、最初からこの作戦が成功するとは思っていなかった」

エルネアが目を細める。

「……ほう?」

アウレリアは立ち上がり、ゆっくりと歩き出した。

「魔女という種は強い。力がある。それゆえに、何よりも“負け”を嫌う」

「……」

「けれど、そんな魔女たちが最近――“負け”始めているのよ。人間に、男に、恋愛に」

カテリーナがぴくりと反応した。

「……恋愛?」

「そう、滑稽でしょ?」

アウレリアは肩をすくめた。

「人間に心を許すなんて、どれほどの愚かさか。そんなものに救いがあるとでも?」

「アウレリア……あなたは……」

「許せなかったのよ」

アウレリアの目が、冷たい炎を宿す。

「力ある魔女が、“愛”なんて不確かなものに縋るのが。健司? あんな男に、何ができるの」

カテリーナが前に出た。

「でも、それで変わった子たちがいる」

「変わった? 馬鹿げてる」

アウレリアはバサリとマントを翻し、手を広げた。

「私はね……負けた魔女たちが、どれだけ惨めに堕ちていくかを見てきた。最初は笑っていたわ。けれど……そのうち、自分が“負け組”になっていた」

エルネアが静かに言った。

「……あなたも、誰かを好きになったのね」

アウレリアは笑った。嘲るように。

「バカな話よ。恋をして、裏切られて、心を壊して。それでも、私は信じていた。魔女としての誇りを」

「でも、もう心が折れていたのね」

カテリーナの声は、どこまでも優しかった。

アウレリアは一瞬、言葉を失った。
その表情の奥に、忘れていた痛みが蘇る。

「……黙りなさい」

冷たく言い放ったその手から、暗い魔力が溢れ出す。

「この街も、魔女も、人間も、全部壊してやる。恋に負けた魔女の末路、見せてあげる」

「アウレリア!」

エルネアが叫ぶが、すでに魔力は解き放たれていた。

《ブラッドスパイク・レクイエム》

空間が赤く染まり、数千本の血の槍が天から降り注ぐ。

しかし――

「《カークシールド》」

エルネアの未来予知からの即応魔法で、防御障壁が展開された。

「効かないわよ」

「……ちっ」

アウレリアは次の魔法を展開するが――

「《ブラックアンビション》!」

カテリーナの闇が周囲を覆う。

「私たちも、負けてきた。信じる人に裏切られたこともあった。でも――」

闇の中、カテリーナの声が響く。

「今は……健司っていう、バカみたいに真っ直ぐな人がいる。どんなに心を読まれても、偽らない人が」

エルネアが静かに言った。

「彼に出会って、私たちは救われたの」

アウレリアは叫んだ。

「救われた? そんなの幻想よ!!」

「だったら確かめに来なさい」

カテリーナの目が、まっすぐにアウレリアを捉えた。

「健司に会えばわかる。あの人の強さが、優しさが、どれだけ人を変えるか」

アウレリアは拳を握りしめた。

「……もう信じない。私は信じない」

だが――その声は、震えていた。

エルネアは一歩近づいた。

「アウレリア……本当は、もう一度信じたいんじゃない?」

アウレリアは唇を噛んだ。
その姿は、ただの“支配者”ではなかった。
愛に傷つき、立ち止まってしまった、一人の女性だった。

沈黙が訪れた。

闇と光が交差する空間に、風が吹いた。

カテリーナが歩み寄り、そっと言った。

「……一緒に来なさい。あの人のところへ」

「……」

「もう一度、やり直せる。私たちは、何度でも立ち上がれるから」

アウレリアの肩が、小さく震えた。

そして――

「……私の魔法を、封じるわ」

アウレリアは、自らの魔力を収めた。

カテリーナとエルネアは、微笑んだ。

その時、誰かが扉の向こうで呼んだ。

「カテリーナ様、エルネア様!」

ローザだった。

「健司が、ソレイユが……!」

三人は目を合わせ、頷いた。

「行こう」

新たな局面が、再び幕を開けようとしていた――。
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