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ソレイユ編③襲撃
偽りの団結、ほんとうの孤独
しおりを挟む雲の切れ間から差し込む陽光が、ソレイユの街の瓦礫に光を投げかけていた。
そこはかつて市場だった場所。今は人影もなく、静寂が支配していた。
「……来たわね」
クロエが声を落とし、構える。
その前に現れたのは、淡い紫のドレスを纏い、瞳に冷たい憂いを宿した魔女――ユミナ。
彼女は“偽りの団結”を操る魔女だった。
その背後からは、カテリーナとエルネア、そしてアウレリアが距離を保って見守っていた。
「あなたが……健司?」
ユミナの視線が、青年を捉えた。
「そうだよ。君が“団結”を操る魔女なら、少し話をしたい」
健司の穏やかな声に、ユミナの眉がわずかに動いた。
「……いいわ。でも、先に一つ……」
ユミナが手をかざすと、紫の魔法陣が浮かび上がる。
「――チームディストラ」
その瞬間、空気がねじれた。
空間そのものが別の論理で塗り替えられていく。
これは、共通の敵を生み出す魔法。
団結を強いることで、周囲の者たちの感情を操り、同じ敵に憎悪を向けさせる。
その魔力はクロエにも迫った。
「……来る!」
クロエが身構えるが、ふと隣の健司を見て違和感に気づく。
――効いていない。
「……なぜ、あなたには通じないの?」
ユミナが低く呟く。
健司は、ゆっくりと言った。
「ユミナさん……君は、孤独を恐れていたんだね」
「……は?」
「誰かと繋がっていたかった。でも、それが叶わなかった。だから“団結”という形で、心を繋ごうとしたんだよね」
「……」
ユミナの顔色が変わる。
「でも、それは偽りの絆だった。共通の敵を生み出さないと、仲良くできない。君は……本当は誰にも嫌われたくなかっただけなんだ」
「綺麗事を……!」
ユミナが叫んだ。
「なら、なぜ……あなたは、あんなに悲しそうな目をしてるの?」
健司の声が、空間を震わせた。
「孤独はいいことだ? 笑わせないで……! なら、どうしてそんな優しい目をしてるの?」
健司の瞳が、まっすぐユミナを見つめていた。
「優しさは……孤独を知ってるから生まれるんだよ。だから、僕は君を……ひとりにはしない」
「やめて……やめてよ……!」
ユミナの肩が震えた。
その隙を見逃さなかった。
「――ダークスパイラル」
クロエが呟いた瞬間、足元に黒い魔法陣が現れ、渦巻く闇がユミナを捕らえた。
「……なっ!」
闇の触手が絡みつき、ユミナの動きを封じる。
「クロエ……!」
健司が驚くが、クロエは冷静だった。
「もう、力を使わせる必要はない。あなたの心は、もう揺れている」
ユミナは、苦しげに声を漏らした。
「……私……ずっと、怖かった……。仲間がいたふりをしてた。でも、本当は誰も……誰も、私のことなんて……!」
「そんなことない」
健司が、そっと彼女のもとに歩み寄った。
「君の“団結”は偽物かもしれない。でも、“変わりたい”っていう気持ちは本物だったよ」
ユミナの目から、ぽつりと涙がこぼれた。
「負けを……認めるわ」
クロエのダークスパイラルが解け、ユミナはその場に膝をついた。
カテリーナ、エルネア、アウレリアの三人は沈黙していた。
やがて、エルネアが口を開く。
「……まさか、あのユミナまで……」
アウレリアの瞳には、焦りとも苛立ちともつかぬ感情が宿っていた。
「彼は、何者……?」
カテリーナは小さく笑った。
「ただの人間よ。けれど、人の心に踏み込む力は、誰よりも強い」
エルネアが、ふっと言った。
「魔法よりも、強いもの……それは、心を知る力かもしれないわね」
健司はユミナの手を取り、そっと立たせた。
「ありがとう、ユミナさん。君の本当の力、きっと誰かを守るものに変えられるはずだよ」
ユミナは俯いたまま、小さく頷いた。
空を見上げると、薄雲の間から月が顔を覗かせていた。
街にはまだ、恐怖と支配の空気が漂っていた。
だが、そこに確かに――変化の兆しが生まれ始めていた。
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