魔女達に愛を

リーゼスリエ

文字の大きさ
81 / 200
ミリィ編⑤帰る場所

日常

しおりを挟む
リヴィエールの朝は、静かな水のせせらぎとともに始まった。新たに生まれ変わろうとしているこの街は、どこか清らかで、そしてどこか少しだけ緊張感が残っていた。

健司は、昨日の夜にミリィ、クロエ、リセル、カテリーナと同じ部屋で眠った疲れも感じさせず、穏やかな表情で朝食のテーブルに座っていた。

集まっていたのは、アスフォルデの環の主要な魔女たち──エルネア、リーネ、ローザ、セレナ、ヴェリシア、ソレイユ──そして健司の仲間であるクロエだった。

それぞれがパンやフルーツ、水の都特有の冷たいスープなどを取り分けながら、ゆったりとした朝を楽しんでいた。

だが、そんな穏やかな空気を、健司のひと言が破壊する。

「ねえ、この中で……誰がいちばん優しいと思う?」

パンをちぎる手が止まり、水の音すら静かになった気がした。

空気が、一瞬にして凍りついた。

ヴェリシアが首をゆっくりと健司に向け、微笑む。だがその笑みは、明らかに――怖い。

「健司、どうしてそんなこと聞くの?」

その声は甘く、柔らかかったが、明らかに周囲にプレッシャーを与えていた。

エルネアがすかさず続けた。

「知性がある私が一番でしょ。優しさって、相手を理解することよ。知性がなければ、それはただの同情に過ぎないわ。」

リーネはパンをゆっくり噛みながら、

「いやいや、癒しの力を持つ私こそが、一番優しいに決まってるでしょ? 誰よりも他人の痛みを和らげられる私がね」

と笑った。

クロエはというと、目を丸くして健司を見つめていた。

「け、健司……なんでそんな爆弾発言を朝から……?」

健司は何事もなかったようにスープを啜りながら、

「いや、なんとなく思っただけだよ。誰がいちばん優しいのかなって」とぼんやりした調子で返す。

しかし、それが余計に場を混乱させた。

ミリィが言った。

「私は、自分が優しいとは思ってない。でも……一番、健司を助けたいって思ってるよ?」

リセルが椅子をくるりと回しながら腕を組んだ。

「優しさって言葉、都合よく使う人多いわよね。私は正直、優しいとは思ってない。でも、それを自覚してる分、偽善者よりマシでしょ?」

カテリーナは静かにパンを口にし、何も言わなかった。ただ、ちらりと健司を見て、視線をすぐにスープへと戻す。

健司は手を止めて、周囲を見渡す。

「ごめん、なんか変なこと言ったね。みんなそれぞれ優しいところがあるって、わかってるよ」

ヴェリシアがさらに微笑んだ。

「健司が選ばなかったから許してあげる。でも、ちょっとだけ知りたいわね。誰がいちばん『自分にとって』優しいのか」

その言葉はまるでテストのようで、他の魔女たちも健司に静かなプレッシャーをかけていた。

健司は困ったように笑いながら、椅子に寄りかかる。

「僕にとって一番優しいのは……」

数秒の沈黙のあと、彼は言った。

「この中で、今この瞬間、僕を責めないでくれてる人かな」

すると一斉に皆の視線がクロエへ向いた。

「え!? ええ!? 私!? そんな、そんな、ただびっくりしてただけで、べ、別に責めるとかじゃ……」

健司は微笑みながらクロエに小さく頷いた。

「ありがとう、クロエ」

クロエの顔が真っ赤になる。

「わ、私はただ……その、健司のことを……」

「うん。知ってる。優しいよ、クロエは」

エルネアはため息をつきながら、

「クロエ、やるじゃない」

と笑い、リーネも苦笑を浮かべた。

「まあ、クロエらしいって言えばそうかもね」

ヴェリシアは、

「ふふ、今回は譲ってあげる。けど、次は私が一番って言わせるから」

と、またあの怖い微笑を見せた。

ミリィはそれを見て、

「ああ、また健司さんが大変な目にあうんだろうなぁ……」

と、ぼそりと呟いた。

リセルはフォークを回しながら、

「面白いわね。誰が一番優しいかって、健司が死にかけたときにわかるんじゃない?」

カテリーナはやっと口を開いた。

「私は……優しいって言われたら、ちょっと嬉しい。でも、それ以上に、信じられるかどうかが大事だと思ってる」

健司は皆を見ながら、小さく頷いた。

「そうだね。信じられる人がそばにいるってだけで、十分に救われる」

食卓には再び和やかな空気が戻ってきた。

それでも、ひとつだけ変わったことがある。

クロエは、その日一日中、ずっと健司のそばに座っていた。

彼女のその背中を見ながら、健司はふと考える。

誰が一番優しいかなんて、きっと状況や気持ちによって変わる。

でも、自分が苦しいとき、黙ってそばにいてくれる人がいる──それが何よりの優しさなんだろう。

リヴィエールの静かな朝に、小さな優しさが広がっていく。

そしてその日、街の広場では、精霊たちが子供たちと水遊びをしていた。

水の都に、またひとつ新しい朝が訪れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

貴方がLv1から2に上がるまでに必要な経験値は【6億4873万5213】だと宣言されたけどレベル1の状態でも実は最強な村娘!!

ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
この世界の勇者達に道案内をして欲しいと言われ素直に従う村娘のケロナ。 その道中で【戦闘レベル】なる物の存在を知った彼女は教会でレベルアップに必要な経験値量を言われて唖然とする。 ケロナがたった1レベル上昇する為に必要な経験値は...なんと億越えだったのだ!!。 それを勇者パーティの面々に鼻で笑われてしまうケロナだったが彼女はめげない!!。 そもそも今の彼女は村娘で戦う必要がないから安心だよね?。 ※1話1話が物凄く短く500文字から1000文字程度で書かせていただくつもりです。

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結】数十分後に婚約破棄&冤罪を食らうっぽいので、野次馬と手を組んでみた

月白ヤトヒコ
ファンタジー
「レシウス伯爵令嬢ディアンヌ! 今ここで、貴様との婚約を破棄するっ!?」  高らかに宣言する声が、辺りに響き渡った。  この婚約破棄は数十分前に知ったこと。  きっと、『衆人環視の前で婚約破棄する俺、かっこいい!』とでも思っているんでしょうね。キモっ! 「婚約破棄、了承致しました。つきましては、理由をお伺いしても?」  だからわたくしは、すぐそこで知り合った野次馬と手を組むことにした。 「ふっ、知れたこと! 貴様は、わたしの愛するこの可憐な」 「よっ、まさかの自分からの不貞の告白!」 「憎いねこの色男!」  ドヤ顔して、なんぞ花畑なことを言い掛けた言葉が、飛んで来た核心的な野次に遮られる。 「婚約者を蔑ろにして育てた不誠実な真実の愛!」 「女泣かせたぁこのことだね!」 「そして、婚約者がいる男に擦り寄るか弱い女!」 「か弱いだぁ? 図太ぇ神経した厚顔女の間違いじゃぁねぇのかい!」  さあ、存分に野次ってもらうから覚悟して頂きますわ。 設定はふわっと。 『腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?』と、ちょっと繋りあり。『腐ったお姉様~』を読んでなくても大丈夫です。

勘当された少年と不思議な少女

レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。 理由は外れスキルを持ってるから… 眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。 そんな2人が出会って…

処理中です...