85 / 200
セレナ編①セレナの過去
紅眼の断罪者 リズリィ
しおりを挟む
健司は、リヴィエールの城の広間で、アナスタシアの隣に座っていた。淡い陽光がステンドグラスから差し込む中、彼は静かに言葉を紡ぐ。
「アナスタシアさん。ラグリナさんとノエルさんも、必ず連れて帰ってきます」
その声に、アナスタシアは一瞬目を閉じた。長い銀髪が肩をなぞるように揺れ、静かに首を縦に振る。
「ありがとう、健司……」
その一言には、言葉以上の感謝が込められていた。かつて共に戦い、共に笑い合った仲間。だが、今や純血主義国家カリストに囚われ、あるいは操られている可能性さえある。彼女たちの行方は不明だが、希望の火はまだ消えていない。
アナスタシアの目は揺らいでいた。健司のまっすぐな瞳を見ながらも、胸の奥では不安が渦巻いている。
「彼女たちは、私が庇いきれなかった。……私が未熟だったから」
「それでも、待ってるんでしょう?」
健司の言葉は、アナスタシアの胸を突いた。強さではなく、温もりで。
「……ああ。待ってるよ。ずっと、ずっとね」
広間の奥で、セレナが静かに近づいてきた。彼女の表情はいつになく真剣だった。健司とアナスタシアの会話に口を挟むような形になったが、誰も咎める者はいなかった。
「アナスタシア」
「……どうしたの、セレナ?」
「リズリィという名に、聴き覚えはある?」
その名が発せられた瞬間、空気が凍りついた。室内の温度が一気に数度下がったような錯覚さえ覚える。アナスタシアは、椅子の背にもたれていた体を少し起こし、セレナをまっすぐ見た。
「……リズリィ」
その名を呟いた声には、警戒と怒り、そして深い憎悪が滲んでいた。
「知っているのか?」
健司が問いかけると、アナスタシアは頷いた。
「危険な魔女よ。カリストの中でも、特に純血主義に心酔している魔女の一人。審問官の上位、通称“紅眼の断罪者”。彼女の手にかかった魔女や人間は数知れない」
「やっぱり……」
セレナの手が震えていた。彼女は唇を噛み、目を伏せた。
「私の……姉を殺したのが、その女よ。私は、ただ一緒に人間の青年と話していただけだったのに……。姉さんが庇ってくれて、私だけが生き延びた」
健司の拳が強く握られる。何も知らずにいた自分に、怒りにも似た感情がこみ上げる。
「セレナ……」
「今でも夢に見る。あの月明かりの夜、紅い瞳がこっちを見ていた。狂ってた。正義でも理想でもない。ただ、虐げることに悦びを感じているような目だった」
アナスタシアも、その姿を思い浮かべていた。
「リズリィは、カリストの“粛清”を進める魔女の象徴。純血主義を掲げているが、本当の目的は別にあると思っている。血の証明、血の誇り。そんなものを口にしながら、人を裁き、魔女をも罰する。その執着は異常よ」
「……そんな奴がいるなら、止めなきゃいけない」
健司の声に迷いはなかった。
「でも、ただ倒すだけじゃない。ミリィもそうだったように、もしかしたら、リズリィにも……何か理由があるのかもしれない。そこを確かめたい。分かり合えるかどうか、やってみたい」
アナスタシアは目を細めた。どこか懐かしむような、誇らしげな目だった。
「……あなたは、やっぱり不思議な人ね。どんな相手でも、まず理解しようとする。その姿勢が、きっと誰かの救いになる」
セレナはしばらく沈黙したのち、言った。
「……もし、彼女を止められるのなら、私も行く。怖いけど、逃げてばかりじゃ姉さんに顔向けできない」
健司は頷いた。
「一緒に行こう。怖くても、僕が隣にいるから」
その言葉に、セレナの頬がほんのり赤らんだ。
アナスタシアが立ち上がる。背筋を伸ばし、ゆっくりと近づく。
「ラグリナとノエルは、リズリィに関わっている可能性が高い。カリストの奥深くまで入り込むことになる。けれど、健司、あなたなら……きっと彼女たちを救える。セレナの心も、誰よりも守れる」
健司は力強く答えた。
「……行ってきます。どんな困難でも、絶対に帰ってきます」
その場にいた全員が頷いた。小さな決意の灯が、やがて大きな希望の炎へと変わっていく。
カリスト——闇深き純血の国。
そこへ、健司たちは向かう。
誰かを救うために。
そして、自分自身を証明するために。
「アナスタシアさん。ラグリナさんとノエルさんも、必ず連れて帰ってきます」
その声に、アナスタシアは一瞬目を閉じた。長い銀髪が肩をなぞるように揺れ、静かに首を縦に振る。
「ありがとう、健司……」
その一言には、言葉以上の感謝が込められていた。かつて共に戦い、共に笑い合った仲間。だが、今や純血主義国家カリストに囚われ、あるいは操られている可能性さえある。彼女たちの行方は不明だが、希望の火はまだ消えていない。
アナスタシアの目は揺らいでいた。健司のまっすぐな瞳を見ながらも、胸の奥では不安が渦巻いている。
「彼女たちは、私が庇いきれなかった。……私が未熟だったから」
「それでも、待ってるんでしょう?」
健司の言葉は、アナスタシアの胸を突いた。強さではなく、温もりで。
「……ああ。待ってるよ。ずっと、ずっとね」
広間の奥で、セレナが静かに近づいてきた。彼女の表情はいつになく真剣だった。健司とアナスタシアの会話に口を挟むような形になったが、誰も咎める者はいなかった。
「アナスタシア」
「……どうしたの、セレナ?」
「リズリィという名に、聴き覚えはある?」
その名が発せられた瞬間、空気が凍りついた。室内の温度が一気に数度下がったような錯覚さえ覚える。アナスタシアは、椅子の背にもたれていた体を少し起こし、セレナをまっすぐ見た。
「……リズリィ」
その名を呟いた声には、警戒と怒り、そして深い憎悪が滲んでいた。
「知っているのか?」
健司が問いかけると、アナスタシアは頷いた。
「危険な魔女よ。カリストの中でも、特に純血主義に心酔している魔女の一人。審問官の上位、通称“紅眼の断罪者”。彼女の手にかかった魔女や人間は数知れない」
「やっぱり……」
セレナの手が震えていた。彼女は唇を噛み、目を伏せた。
「私の……姉を殺したのが、その女よ。私は、ただ一緒に人間の青年と話していただけだったのに……。姉さんが庇ってくれて、私だけが生き延びた」
健司の拳が強く握られる。何も知らずにいた自分に、怒りにも似た感情がこみ上げる。
「セレナ……」
「今でも夢に見る。あの月明かりの夜、紅い瞳がこっちを見ていた。狂ってた。正義でも理想でもない。ただ、虐げることに悦びを感じているような目だった」
アナスタシアも、その姿を思い浮かべていた。
「リズリィは、カリストの“粛清”を進める魔女の象徴。純血主義を掲げているが、本当の目的は別にあると思っている。血の証明、血の誇り。そんなものを口にしながら、人を裁き、魔女をも罰する。その執着は異常よ」
「……そんな奴がいるなら、止めなきゃいけない」
健司の声に迷いはなかった。
「でも、ただ倒すだけじゃない。ミリィもそうだったように、もしかしたら、リズリィにも……何か理由があるのかもしれない。そこを確かめたい。分かり合えるかどうか、やってみたい」
アナスタシアは目を細めた。どこか懐かしむような、誇らしげな目だった。
「……あなたは、やっぱり不思議な人ね。どんな相手でも、まず理解しようとする。その姿勢が、きっと誰かの救いになる」
セレナはしばらく沈黙したのち、言った。
「……もし、彼女を止められるのなら、私も行く。怖いけど、逃げてばかりじゃ姉さんに顔向けできない」
健司は頷いた。
「一緒に行こう。怖くても、僕が隣にいるから」
その言葉に、セレナの頬がほんのり赤らんだ。
アナスタシアが立ち上がる。背筋を伸ばし、ゆっくりと近づく。
「ラグリナとノエルは、リズリィに関わっている可能性が高い。カリストの奥深くまで入り込むことになる。けれど、健司、あなたなら……きっと彼女たちを救える。セレナの心も、誰よりも守れる」
健司は力強く答えた。
「……行ってきます。どんな困難でも、絶対に帰ってきます」
その場にいた全員が頷いた。小さな決意の灯が、やがて大きな希望の炎へと変わっていく。
カリスト——闇深き純血の国。
そこへ、健司たちは向かう。
誰かを救うために。
そして、自分自身を証明するために。
0
あなたにおすすめの小説
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
貴方がLv1から2に上がるまでに必要な経験値は【6億4873万5213】だと宣言されたけどレベル1の状態でも実は最強な村娘!!
ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
この世界の勇者達に道案内をして欲しいと言われ素直に従う村娘のケロナ。
その道中で【戦闘レベル】なる物の存在を知った彼女は教会でレベルアップに必要な経験値量を言われて唖然とする。
ケロナがたった1レベル上昇する為に必要な経験値は...なんと億越えだったのだ!!。
それを勇者パーティの面々に鼻で笑われてしまうケロナだったが彼女はめげない!!。
そもそも今の彼女は村娘で戦う必要がないから安心だよね?。
※1話1話が物凄く短く500文字から1000文字程度で書かせていただくつもりです。
勘当された少年と不思議な少女
レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。
理由は外れスキルを持ってるから…
眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。
そんな2人が出会って…
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
母は何処? 父はだぁれ?
穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。
産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。
妹も、実妹なのか不明だ。
そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。
父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。
母は、どこへ行ってしまったんだろう!
というところからスタートする、
さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。
変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、
家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。
意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。
前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。
もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。
単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。
また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。
「小説家になろう」で連載していたものです。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる