魔女達に愛を

リーゼスリエ

文字の大きさ
89 / 200
セレナ編②純血主義国家カリスト

カリストの女王カリオペ

しおりを挟む
 高原の街の空気は、涼しさの中にどこか乾いたものがあった。木造の建物が並ぶその街は、山の稜線に抱かれるように静かに息づいており、夜の帳が下りるとともに、肌を刺すような冷気が空から舞い降りてくる。

 健司は、アスフォルデの環の面々と共に、小さな宿屋の一室に腰を下ろしていた。暖炉の火がパチパチと音を立てて燃え、炎の揺らめきが部屋の壁をオレンジ色に染めていた。

 「……ここまで来たね」

 ソレイユが、湯気の立つカップを手にしながら、穏やかに言った。彼女の言葉には、これまでの道のりに対する感慨と、これから向かう場所への覚悟が込められている。

 健司は、目の前に座るリセル、クロエ、ヴェリシア、そしてソレイユ、リーネ、セレナ、エルネアたちの顔を順に見渡した。頼もしい仲間たち。彼女たちと一緒なら、どんな道でも進めると思える。

 しかし、その夜の健司は、どうしても確かめておきたい疑問を口にした。

 「カリストを率いているのは……ラグナなのか?」

 その場に一瞬、張り詰めたような空気が流れた。

 「……違う」

 最初に答えたのは、エルネアだった。彼女は背筋を伸ばし、静かに言葉を紡いだ。

 「ラグナは確かに、魔女の中でも最強の一人。トップ10に入るほどの実力者。でも、カリストを”率いている”のは別の存在よ。彼女は神聖魔法の使い手――名は、カリオペ」

 「カリオペ……?」

 健司は、その名を初めて聞いた。記録にも、噂にも登場した記憶がない。

 「彼女は、表に出てこない。でも、カリストの『理念』を作った人であり、審問官たちにとっての象徴。絶対的な存在よ」

 「でも……神聖魔法の使い手なのに、審問官を従えてるの?」

 その問いに答えたのは、クロエだった。

 「むしろ、神聖魔法だからこそ、審問官たちは彼女を慕うの。審問官たちは、純血を守るためなら他を容赦なく排除する――その過激さは、カリストの信念の表れでもある。けれど、カリオペは”過激ではない”。彼女は、理想を追い求めているだけなの」

 「優しい方だと聞きました」

 今度は、リセルが静かに言った。

 「ただ、それが”正しい優しさかどうか”は、私たちの価値観とは違うかもしれない。彼女は、カリストの魔女たちを守ろうとしている。そのために、異なる血、異なる文化を”閉じる”ことを選んでいる」

 「……壁を作る優しさか」

 健司の言葉に、皆が黙った。

 暖炉の火が、また静かにパチ、と弾ける。

 「彼女自身は、誰かを傷つけたいわけじゃない。でも、カリストの魔女たちは……中には、リズリィのような過激な者もいる。力で全てを押し通すような者も」

 ヴェリシアの言葉に、セレナが軽くうなずいた。

 「私は、リズリィを許せない。姉さんを殺したのは、“国家の命令”じゃない。ただの『制裁』だった……あの時、人間と話していただけなのに。私は見たの。リズリィの目……あれは”正義”の目じゃなかった。ただの嗜虐心だった」

 リーネが、セレナの肩にそっと手を添えた。

 「大丈夫、今は、私たちがいるから」

 「……ありがとう、リーネ」

 健司は、そのやりとりを見守りながら、心の中で言葉を反芻していた。

 優しさとは、なんだろう。

 カリオペのように、理想を守るために閉ざす優しさもある。けれど、それは本当に正しい優しさなのか。ソレイユのように、誰にでも手を差し伸べる優しさもあれば、アナスタシアのように不器用でも寄り添おうとする優しさもある。

 「僕は……カリオペという人に会ってみたい」

 健司がそう呟くと、ソレイユが目を見開いた。

 「危険よ。彼女に近づくということは、カリストの根幹に踏み込むことになる」

 「それでも。彼女が敵か味方か、俺の目で見たい。カリストの真実を、知りたい」

 誰も、健司を止めなかった。

 しばらくして、エルネアが柔らかく言った。

 「じゃあ、カリストに向かう前に……東の峠を越える必要がある。そこに、かつてカリオペの手で保護された小さな集落があるの。そこには、彼女の理想に共感した人々が住んでいる。話を聞くには、そこが最初の鍵になるかも」

 健司は、うなずいた。

 「……わかった。そこに行こう」

 夜は更けていく。

 だが健司の胸には、はっきりとした新たな目標が生まれていた。

 アスフォルデの環の魔女たちとともに、健司はまた一歩、カリストという名の謎と闇に向かって歩みを進めるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

貴方がLv1から2に上がるまでに必要な経験値は【6億4873万5213】だと宣言されたけどレベル1の状態でも実は最強な村娘!!

ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
この世界の勇者達に道案内をして欲しいと言われ素直に従う村娘のケロナ。 その道中で【戦闘レベル】なる物の存在を知った彼女は教会でレベルアップに必要な経験値量を言われて唖然とする。 ケロナがたった1レベル上昇する為に必要な経験値は...なんと億越えだったのだ!!。 それを勇者パーティの面々に鼻で笑われてしまうケロナだったが彼女はめげない!!。 そもそも今の彼女は村娘で戦う必要がないから安心だよね?。 ※1話1話が物凄く短く500文字から1000文字程度で書かせていただくつもりです。

勘当された少年と不思議な少女

レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。 理由は外れスキルを持ってるから… 眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。 そんな2人が出会って…

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

処理中です...