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セレナ編③セレナの姉レリア
高原の街スラリー 侵入前
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テントの幕が風に揺れ、静かな夜の冷気がわずかに入り込んだ。
高原の街スラリーから離れた丘の上に、幾つかの軍用のテントが張られている。そこには、純血主義国家カリストから派遣された魔女たち――クラリーチェ、リズリィ、そして数人の補佐が集まっていた。
中央の黒い天幕、その奥でクラリーチェはワインの入った杯を回しながらリズリィに言った。
「裏切り者のアウレリアが、健司って男についているらしいわね」
声には明らかな軽蔑がこもっていた。紫の唇がゆがみ、細い指が杯を弾くようにして揺らす。
「アウレリア……」
リズリィはゆっくりと目を伏せた。
「付き添いのダリアたちを失って、しおれた花みたいになってたのに。何があったのかしらね」
クラリーチェは冷笑した。
「しおれた? ふふ、あの程度で済めばよかったのに。カリストから離反して、ザサンの街を1人で統治していた。敗北を認めるどころか、健司に尻尾を振ったんでしょう」
「でも……」
リズリィが首をかしげる。
「付き添いのダリアたちは死んだんじゃなかったの? あの戦いで全滅したって、報告されてたはずよ」
「それが最近になって、『生きてるらしい』って話が出てきたのよ」
クラリーチェは、やや不機嫌そうに杯を置いた。
「確認はまだ取れていないけど、ザサンって街に姿があったと。カテリーナの魔法も通じなかった男と一緒に、ね」
リズリィの紅い瞳がわずかに揺れる。長い銀髪が肩に滑り落ちる。
「面白いわね。その男――健司。いったい何者なのかしら?」
「さあね。でも、確かに魔女たちを惹きつけるものがあるみたい。アナスタシア、アウレリア、カテリーナ、ミリィ、リセル、クロエ……あれほどの魔女たちが一つの環に属しているなんて異常よ。しかも、彼女たちが自発的に付き従ってる」
「操られてる、というわけじゃないのね」
リズリィは指を顎に当てた。
「ええ、どの報告にも精神干渉の兆候はなかった。むしろ自らの意思で集ってる。……まるで何かの、希望の象徴みたいに」
クラリーチェの言葉に、テントの中の空気が一瞬だけ静まった。
「希望、ね」
リズリィが鼻で笑った。
「気に入らないわ。私たちは秩序の番人。希望なんて幻想で世界は動かない。力よ。力こそが全てだと、そう教わってきたでしょう?」
「ええ、カリストの基本理念。それに従う者こそ、魔女にふさわしい」
ふたりは黙った。外では風が強まり、布のすれる音が響いていた。
リズリィが再び口を開いた。
「クラリーチェ、ひとつ確認しておきたいんだけど」
「何?」
「もし、ダリアたちが生きていたとしたら……私たちは、どうするの?」
クラリーチェの表情が曇る。
「……当然、処罰の対象よ。裏切り者に従っているのなら、なおさら。だが、相手があの健司とやらで、しかも彼女たちが洗脳されていないとしたら……話は複雑になるわ」
リズリィは微笑んだ。
「つまり、上の連中も混乱してるってことね。私たちがこの任務に来たのも、健司という男がどこまで脅威なのかを判断するため」
「そういうこと」
クラリーチェは少し身を乗り出し、リズリィに低く告げた。
「だから、くれぐれもやりすぎないで。ラグナにも釘を刺されたでしょ。あくまで“確認と対応”が目的。個人的な復讐や暴走は、許されない」
リズリィは片眉を上げた。
「私がそんな無粋なことをすると思って?」
「……するから警告してるの」
「ふふ、信頼されてないのね、私」
「それだけ、あなたの“月の魔法”は恐ろしいということよ。感情の乱れで、街ひとつが壊滅しかねない」
リズリィは紅い瞳を細め、やや寂しげに呟いた。
「昔のことよ。月の夜、ある人間の村で――私は……」
その先を言いかけて、リズリィは口を閉じた。代わりに立ち上がる。
「まあ、いいわ。とにかく、明日には高原の街に潜入するんでしょ? 偵察役は私に任せて。夜のほうが得意だから」
「わかったわ。でも、手を出すのはまだよ。接触するのは情報を得てから。とくに健司と、アスフォルデの環と呼ばれる魔女たち。何人がこの地に同行しているのか、詳細を」
「任せて」
テントの入口に立ったリズリィの姿が、月明かりに照らされた。白銀の髪が風に揺れ、影が地面に長く伸びる。
「それにしても……面白くなってきたじゃない。あの夜以来、私の月が再び照らすべき相手が現れるなんて」
クラリーチェはリズリィの背を見送りながら、ふと呟いた。
「私たちは、試されているのかもしれないわね。この時代に」
テントの中に、静かに冷たい夜が広がっていた。
高原の街スラリーから離れた丘の上に、幾つかの軍用のテントが張られている。そこには、純血主義国家カリストから派遣された魔女たち――クラリーチェ、リズリィ、そして数人の補佐が集まっていた。
中央の黒い天幕、その奥でクラリーチェはワインの入った杯を回しながらリズリィに言った。
「裏切り者のアウレリアが、健司って男についているらしいわね」
声には明らかな軽蔑がこもっていた。紫の唇がゆがみ、細い指が杯を弾くようにして揺らす。
「アウレリア……」
リズリィはゆっくりと目を伏せた。
「付き添いのダリアたちを失って、しおれた花みたいになってたのに。何があったのかしらね」
クラリーチェは冷笑した。
「しおれた? ふふ、あの程度で済めばよかったのに。カリストから離反して、ザサンの街を1人で統治していた。敗北を認めるどころか、健司に尻尾を振ったんでしょう」
「でも……」
リズリィが首をかしげる。
「付き添いのダリアたちは死んだんじゃなかったの? あの戦いで全滅したって、報告されてたはずよ」
「それが最近になって、『生きてるらしい』って話が出てきたのよ」
クラリーチェは、やや不機嫌そうに杯を置いた。
「確認はまだ取れていないけど、ザサンって街に姿があったと。カテリーナの魔法も通じなかった男と一緒に、ね」
リズリィの紅い瞳がわずかに揺れる。長い銀髪が肩に滑り落ちる。
「面白いわね。その男――健司。いったい何者なのかしら?」
「さあね。でも、確かに魔女たちを惹きつけるものがあるみたい。アナスタシア、アウレリア、カテリーナ、ミリィ、リセル、クロエ……あれほどの魔女たちが一つの環に属しているなんて異常よ。しかも、彼女たちが自発的に付き従ってる」
「操られてる、というわけじゃないのね」
リズリィは指を顎に当てた。
「ええ、どの報告にも精神干渉の兆候はなかった。むしろ自らの意思で集ってる。……まるで何かの、希望の象徴みたいに」
クラリーチェの言葉に、テントの中の空気が一瞬だけ静まった。
「希望、ね」
リズリィが鼻で笑った。
「気に入らないわ。私たちは秩序の番人。希望なんて幻想で世界は動かない。力よ。力こそが全てだと、そう教わってきたでしょう?」
「ええ、カリストの基本理念。それに従う者こそ、魔女にふさわしい」
ふたりは黙った。外では風が強まり、布のすれる音が響いていた。
リズリィが再び口を開いた。
「クラリーチェ、ひとつ確認しておきたいんだけど」
「何?」
「もし、ダリアたちが生きていたとしたら……私たちは、どうするの?」
クラリーチェの表情が曇る。
「……当然、処罰の対象よ。裏切り者に従っているのなら、なおさら。だが、相手があの健司とやらで、しかも彼女たちが洗脳されていないとしたら……話は複雑になるわ」
リズリィは微笑んだ。
「つまり、上の連中も混乱してるってことね。私たちがこの任務に来たのも、健司という男がどこまで脅威なのかを判断するため」
「そういうこと」
クラリーチェは少し身を乗り出し、リズリィに低く告げた。
「だから、くれぐれもやりすぎないで。ラグナにも釘を刺されたでしょ。あくまで“確認と対応”が目的。個人的な復讐や暴走は、許されない」
リズリィは片眉を上げた。
「私がそんな無粋なことをすると思って?」
「……するから警告してるの」
「ふふ、信頼されてないのね、私」
「それだけ、あなたの“月の魔法”は恐ろしいということよ。感情の乱れで、街ひとつが壊滅しかねない」
リズリィは紅い瞳を細め、やや寂しげに呟いた。
「昔のことよ。月の夜、ある人間の村で――私は……」
その先を言いかけて、リズリィは口を閉じた。代わりに立ち上がる。
「まあ、いいわ。とにかく、明日には高原の街に潜入するんでしょ? 偵察役は私に任せて。夜のほうが得意だから」
「わかったわ。でも、手を出すのはまだよ。接触するのは情報を得てから。とくに健司と、アスフォルデの環と呼ばれる魔女たち。何人がこの地に同行しているのか、詳細を」
「任せて」
テントの入口に立ったリズリィの姿が、月明かりに照らされた。白銀の髪が風に揺れ、影が地面に長く伸びる。
「それにしても……面白くなってきたじゃない。あの夜以来、私の月が再び照らすべき相手が現れるなんて」
クラリーチェはリズリィの背を見送りながら、ふと呟いた。
「私たちは、試されているのかもしれないわね。この時代に」
テントの中に、静かに冷たい夜が広がっていた。
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