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セレナ編⑧決戦
決戦前夜
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高原の街スラリーを発ってから数日。健司たちは、カリストへ続く険しい道を歩んでいた。
夏を越えて秋の気配が忍び寄り、森の木々はまだ青々としているものの、風は少し冷たい。朝露に濡れる草の匂いが漂い、仲間たちの息は白くなる。
健司は一行の先頭に立ち、背後に視線を投げた。そこには、見慣れた仲間たちと、まだ完全には馴染み切れていない存在が混じっていた。
アスフォルデの環の魔女たち――そして、アウレリアとアナスタシア。
また、かつて敵対していた審問官の二人――ノイエルとヴァルディア。
さらに信頼できる仲間として、クロエも同行している。
それは異様な組み合わせだった。
本来なら刃を交えていたはずの魔女たちが、同じ行く先を目指し、同じ宿で眠り、同じ焚き火を囲んで食事を分け合っている。
「……こうして見ると、不思議なものね」
アウレリアが呟いた。金の髪を風に揺らし、健司の横顔を見つめている。
「敵も味方もなく、ただ一緒に歩いているなんて。昔の私なら、考えもしなかった」
「お互い、色々あったからな」
健司は苦笑した。
「でも今は……目的は一つだ。戦いを終わらせる。そのためなら、僕は誰とでも歩ける」
その言葉に、ノイエルが小さく笑った。
「まったく……妙な男ね。普通なら憎しみの壁を越えられない。だけど、あなたにはそれを溶かしてしまうものがある。カリストに生まれ育った私たちにはなかった“温かさ”。」
ヴァルディアは腕を組み、ぶっきらぼうに付け加えた。
「だが、相手はラグナ様だ。重力の支配者。あの人を前にすれば、誰だって膝を折る。お前の理想がどこまで通じるか……見ものだな」
焚き火の炎がパチパチと音を立てる。
誰もが緊張を抱えながらも、決意の色を瞳に宿していた。
⸻
一方その頃、カリストの審問官の塔。
重厚な石造りの城の最上階で、ラグナは静かに目を閉じていた。
灰色の髪が揺れ、瞳を開けば、そこには虚空を見透かすような冷たい輝きが宿る。
その力は“重力”。すべてを押し潰し、引き裂き、逃れることを許さない圧倒的な支配の力。
「……来るな」
ラグナの低い声が、塔の空気を震わせた。
「近いうちに、必ず来る。奴らはもう決めている」
傍らに控えていたのは、クラリーチェとリズリィ。
二人とも審問官として名を馳せる魔女であり、ラグナを心から敬っていた。
「ラグナ様。まさか、本当に彼らと……」
クラリーチェが問う。彼女の声にはわずかな恐れと好奇が混じっていた。
「アスフォルデの環の残党、そして裏切ったはずのノイエル、ヴァルディア……。それに健司という人間まで。混沌の集団です」
「そうね。だが、その混沌こそが厄介なのよ」
リズリィが口を尖らせた。月の魔女と呼ばれる彼女の瞳は鋭く光る。
「秩序あるカリストにとって、あんな存在は許せない。私はすぐにでも討ちたいわ」
だがラグナは首を横に振った。
「焦るな、リズリィ。すべてには時がある。明日、森の中で決着をつける。健司が何者なのか……その価値を試す」
「試す……?」
クラリーチェが小首を傾げる。
「そうだ。もしあやつが語る“愛”とやらが虚妄ならば、この重力で押し潰すまでだ」
ラグナの声は静かだった。だが、言葉の端々から凄まじい決意がにじみ出ている。
「甘い理想など、この現実には通じない。だが……もしも、本当に……」
彼女はそこで言葉を切り、窓の外に視線を投げた。
そこには夜の森が広がり、月光に照らされていた。
「……試してみる価値はあるのかもしれない」
⸻
翌朝。
健司たちはカリストに続く森の入口に立っていた。
湿った土の匂い、鳥の声、そして背筋を震わせるような圧迫感。
すでにラグナの気配は、遠くからでもはっきりと感じ取れる。
「来るよ……」
クロエが低く呟いた。彼女の青い瞳が鋭く光る。
「ただの強者の気配じゃない。これは……世界そのものに圧をかけるような、異常な存在感」
「大丈夫だ」
健司は皆を見回した。
「僕たちは一人じゃない。どんなに重くても、支え合えば立てる」
アウレリアが小さく笑い、アナスタシアが頷き、ノイエルとヴァルディアもそれぞれのやり方で気持ちを固めている。
――そして、森の奥から。
大地を揺らすような重々しい足音が近づいてきた。
木々が震え、鳥たちが一斉に飛び立つ。
現れたのは、漆黒の外套をまとった巨躯の魔女。
重力の審問官――ラグナ。
その一歩で、大地が沈み、空気が圧し潰されるような感覚に包まれる。
「ようこそ、健司」
ラグナは低く告げた。
「お前が語る“愛”とやら……この森で証明してみせろ」
健司は一歩踏み出した。
仲間たちの視線を背に受けながら。
「わかった。ラグナさん。戦うためじゃない。僕は、あなたと――話すために来たんだ」
そして、森は静まり返った。
すべての決着が始まろうとしていた。
夏を越えて秋の気配が忍び寄り、森の木々はまだ青々としているものの、風は少し冷たい。朝露に濡れる草の匂いが漂い、仲間たちの息は白くなる。
健司は一行の先頭に立ち、背後に視線を投げた。そこには、見慣れた仲間たちと、まだ完全には馴染み切れていない存在が混じっていた。
アスフォルデの環の魔女たち――そして、アウレリアとアナスタシア。
また、かつて敵対していた審問官の二人――ノイエルとヴァルディア。
さらに信頼できる仲間として、クロエも同行している。
それは異様な組み合わせだった。
本来なら刃を交えていたはずの魔女たちが、同じ行く先を目指し、同じ宿で眠り、同じ焚き火を囲んで食事を分け合っている。
「……こうして見ると、不思議なものね」
アウレリアが呟いた。金の髪を風に揺らし、健司の横顔を見つめている。
「敵も味方もなく、ただ一緒に歩いているなんて。昔の私なら、考えもしなかった」
「お互い、色々あったからな」
健司は苦笑した。
「でも今は……目的は一つだ。戦いを終わらせる。そのためなら、僕は誰とでも歩ける」
その言葉に、ノイエルが小さく笑った。
「まったく……妙な男ね。普通なら憎しみの壁を越えられない。だけど、あなたにはそれを溶かしてしまうものがある。カリストに生まれ育った私たちにはなかった“温かさ”。」
ヴァルディアは腕を組み、ぶっきらぼうに付け加えた。
「だが、相手はラグナ様だ。重力の支配者。あの人を前にすれば、誰だって膝を折る。お前の理想がどこまで通じるか……見ものだな」
焚き火の炎がパチパチと音を立てる。
誰もが緊張を抱えながらも、決意の色を瞳に宿していた。
⸻
一方その頃、カリストの審問官の塔。
重厚な石造りの城の最上階で、ラグナは静かに目を閉じていた。
灰色の髪が揺れ、瞳を開けば、そこには虚空を見透かすような冷たい輝きが宿る。
その力は“重力”。すべてを押し潰し、引き裂き、逃れることを許さない圧倒的な支配の力。
「……来るな」
ラグナの低い声が、塔の空気を震わせた。
「近いうちに、必ず来る。奴らはもう決めている」
傍らに控えていたのは、クラリーチェとリズリィ。
二人とも審問官として名を馳せる魔女であり、ラグナを心から敬っていた。
「ラグナ様。まさか、本当に彼らと……」
クラリーチェが問う。彼女の声にはわずかな恐れと好奇が混じっていた。
「アスフォルデの環の残党、そして裏切ったはずのノイエル、ヴァルディア……。それに健司という人間まで。混沌の集団です」
「そうね。だが、その混沌こそが厄介なのよ」
リズリィが口を尖らせた。月の魔女と呼ばれる彼女の瞳は鋭く光る。
「秩序あるカリストにとって、あんな存在は許せない。私はすぐにでも討ちたいわ」
だがラグナは首を横に振った。
「焦るな、リズリィ。すべてには時がある。明日、森の中で決着をつける。健司が何者なのか……その価値を試す」
「試す……?」
クラリーチェが小首を傾げる。
「そうだ。もしあやつが語る“愛”とやらが虚妄ならば、この重力で押し潰すまでだ」
ラグナの声は静かだった。だが、言葉の端々から凄まじい決意がにじみ出ている。
「甘い理想など、この現実には通じない。だが……もしも、本当に……」
彼女はそこで言葉を切り、窓の外に視線を投げた。
そこには夜の森が広がり、月光に照らされていた。
「……試してみる価値はあるのかもしれない」
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湿った土の匂い、鳥の声、そして背筋を震わせるような圧迫感。
すでにラグナの気配は、遠くからでもはっきりと感じ取れる。
「来るよ……」
クロエが低く呟いた。彼女の青い瞳が鋭く光る。
「ただの強者の気配じゃない。これは……世界そのものに圧をかけるような、異常な存在感」
「大丈夫だ」
健司は皆を見回した。
「僕たちは一人じゃない。どんなに重くても、支え合えば立てる」
アウレリアが小さく笑い、アナスタシアが頷き、ノイエルとヴァルディアもそれぞれのやり方で気持ちを固めている。
――そして、森の奥から。
大地を揺らすような重々しい足音が近づいてきた。
木々が震え、鳥たちが一斉に飛び立つ。
現れたのは、漆黒の外套をまとった巨躯の魔女。
重力の審問官――ラグナ。
その一歩で、大地が沈み、空気が圧し潰されるような感覚に包まれる。
「ようこそ、健司」
ラグナは低く告げた。
「お前が語る“愛”とやら……この森で証明してみせろ」
健司は一歩踏み出した。
仲間たちの視線を背に受けながら。
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そして、森は静まり返った。
すべての決着が始まろうとしていた。
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